4-11 不思議な現象としての島
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
日曜日の早朝。
明美と日向はガゼボで、火雷が来るのを待っている。
「ここで毎朝、ひいかちゃんと合流して登校してるんだね。 風も通るし、いい場所ね。 つい本を読みたくなるよ」
「でしょ。 ひいちゃんが来るまで、小説を読みながら待つ事もあるよ。 ん?」
二人でそんな会話を交わしていると、高校の方へ続く道の向こうから、ショートカットの細身の女の子が、こちらへずんずんと歩いてくるのが目に入る。
「あれは……きゆりちゃん? こんな朝早くにここを通るって……しかも、凄い重そうなリュックを背負ってるし」 日向が驚いて眺めてると、向こうから声を掛けてくる。
「よっ! ひむか。 ここで休んでるのか? それか、今からどっか出掛けるのか?」
「おはよう、きゆりちゃん。 今から棗海岸へ行くの。 お母さんとひいちゃんと一緒に。 今、ひいちゃんを待ってるとこ」
「へぇ、ひいかと一緒に海、ね。 天気も気候も良いけど、まだ五月だし、泳げないぞ」
「ううん、泳ぎに行くんじゃなくて、舟を見に行ったり、温泉に浸かったりしに行くの」
「そっか。 そりゃ、楽しそうだな」
「ところで、きゆりちゃんがここを通るの、初めて見るけど、重そうな荷物背負って、何処かに行くの?」
「あーー、これは自主トレーニングだな、山岳部の。 ここから先に、神社に抜ける三叉路があるんだけど、その先に、うってつけの石段があってね」
それを聞いて、日向は驚きを隠せない。
「あ、あそこがトレーニングの場所なの?! 山岳部って凄い……。 私、この前初めて上ったけど、もううだうだになっちゃって……それで運動音痴を自覚したから、最近、登下校で早歩きし始めたんだ」
「ほぉーー、運動に目覚めたのか、ひむか。 あの勾配をスイスイ上り下りするには、トレーニングとコツが必要だ。 無理はダメだぞ」
「トレーニング? どんな運動が良いのかな?」
「お、乗り気だな。 明日、学校で教えようか。 でも、いきなりだと筋肉がびっくりするからな。 まずは目覚め程度に始めるのがいいぞ。 じゃ、私はここで」 右手を挙げて、颯爽と先へ進んでいく。
「じゃーーね。 頑張って、きゆりちゃん」 日向も右手を挙げて送り出す。
(もしかして、きゆりちゃんも平仮名の名前だけど、元々は漢字だった、とか言わない?)
((おっ、現役、いい勘してるね。 その通りだよ。 彼女の名前は元々、樹木の木に、果物のユズとナシで、木柚梨だったよ))
(やっぱり……もう、平仮名の名前の人はみんなそれだね。 でも、きゆりちゃん、何だか植物的な漢字ばっかだね。 山岳部で、自然と向き合ってる、きゆりちゃんらしい名前だなぁ)
((彼女こそ、名は体を表すっていう言葉が当てはまってるのかもね))
それから10分ほど経った頃、火雷が合流するのだった。
古河高校の前を通り、更に南に10分ほど歩いて、古河町駅に到着する。
「今日は西方面の電車に乗るけど、逆に東方面に1駅乗ると、月宮神社前駅に着くの。 そこから歩いて10分で神社に行けるんだけど、それだと、本来の参道、ほら、この前、凄い石段を上り下りした参道、あそこを通らないから。 言い換えると……そうね……裏口入学、みたいなものだから、電車で神社に行くのはお勧めできないな」
明美の説明を聞いた火雷は、 「ひいか、神様が大目に見てくれるんだったら、裏口入学がいいよぉ~~。 だって、大変だったんだもん」 と言って、二人を笑わせる。
電車は古河町の市街地を抜け、棗海岸駅に到着する。
目の前には、どこまでも続く砂浜があり、海には舟が十数隻浮かんでいる。
「わぁ~~、懐かしいなぁ、ここ。 お母さん、ここにはちょっとした想い出があるの。 内緒だけどね、あは」
明美はテンションアゲアゲの様子で、辺りをキョロキョロ見渡し、 「あのベンチ、そのまま残ってるかな……あっ、あった!」 と言って、大喜びしている。
「わぁ~~、海だよ! キラキラしてて綺麗!」 火雷が感激するのを見て、 「うん、キラキラ輝いてて綺麗だね~~。 で、あの島……山肌の木々の緑がくっきりしてて……」 日向も喜んだ途端、火雷も、ベンチに向かって歩き出そうとしていた明美も、動きが止まる。
「……?! ひむちゃん、ちょっと待って!! 島? 島って、どこに見えるの??」 火雷はびっくりして、思わず声が裏返ってしまう。
「あれっ?! ほら、あそこ……海の向こうに……」
「……ごめん、いくら海をガン見しても、ひいかには全く見えないよ」
「うん。 お母さんにも全く……」
(き、来たぁ……。 日向、ついにあの島を意識したよ……このままだとまた……)
((それはどうかな。 今回は前回と全然シチュエーションが違ってるし、だいぶ展開が変わりそうじゃない? まずは火雷が島の話を聞いてどう動くか、だけど))
「ちょっと二人とも、あんなに大きくてはっきり見えてる島が、まさか不思議な現象だって言うの?」
「うん、そのまさかだよ。 それにしても……今までとはレベルが違うよね、島、なんて。 一体どんなのが見えてるの? ひいかたちにも教えて」 火雷はリュックから絵日記帳を取り出し、日向に手渡す。
「凄い! 用意周到だね。 って、舟の事を訊きにここに来たんだから、絵日記帳、持ってて当然か……忘れかけてたよ。 分かった、描いてみるよ」
一通り、島をスケッチできたところで、火雷が 「ひむちゃん、前より絵、ちょっとだけ上手くなったんじゃない?」 って、褒めてくれる。
「いやいや、まだ練習始めて10日くらいだよ。 そんな急には上手くならないよぉ~~」 と言いながらも、日向は嬉しい様子。
「で、次は説明だね。 えっと……」
・棗海岸から1kmくらい向こうの海にある。
・島のほとんどは山になってる。 稜線はゆったりした三角形?
・深い森が山肌を覆ってる。 道とか建物とかは見えない。
・海に面してる所は、砂浜が広がってるように見える。
「こんなところかな」
「これ、何となく桜島みたいだね」 明美が日向の描いたイラストを見ながら、そんな事をつぶやく。
「桜島? こんな感じの島があるの? じゃぁ、それは考察欄に書いておくね」
続いて火雷がイラストを完成させると、まさしく桜島みたいだった。
「それにしても、島なんて……私にそれを見せる事によって、誰が何をさせようとしてるんだろう」 日向は突然、おかしな発言をする。
「何をさせる、ってひむちゃん、それ、神様目線になってるよ」
「だって、次々に私にしか見えないものを見せてくるなんて、普通じゃないもん。 もう、神様か誰かが私に何かをさせようとしてるんじゃないか、って思う方が楽に思えて」
「神様、ねぇ」 明美はその言葉の重みを測っているようだ。
(あっ、そうか。 まだ日向は、星月が身体から離れた状態で、不思議な現象を見ようと思った事がないんだよ。 私の時はそれを検証して、不思議な現象は星月が見せてる、って事に気付いたんだけど、今は全部の現象を横一線に捉えてるから……)
「とにかく、これで不思議な現象は4つ目だね。 ほつきさん、ウサギのぬいぐるみ、舟、そして、島。 共通点なんてあるの、これ」 火雷は頭を捻って考えている。
「舟と島って、もしかすると、舟を使って島へ渡る、とか?」 明美はそう考えるけど、 「でも、最初の二つは触れないんだよね。 だとすると、舟も島も触れないのかもしれないよ?」 と、火雷が指摘し、 「そっかぁ。 あくまで幻、だもんなぁ。 何が何だか分かんないよ」 と、日向は頭を抱えてしまう。
「この話は今のところ、これ以上は進めないみたいね」 明美は一旦、話を打ち止めにする。
いよいよ”隠された島”を再登場させました。




