4-10 不自然な空白
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
翌朝から、日向は登下校の道のりを、歩幅を大きくとる事を意識しながら早歩きし始める。
火雷は、初日こそ突然の事で驚きつつも、毎日でも協力するよ、と、それに付き合ってくれる。
今まで片道30分かけていたのが、20分に短縮されるほどに。
(私も登山とか参拝とかで、運動能力が足りないな、って感じたけど、鍛えてみようとまでは思わなかったな……私と日向との違いは、お母さんの凄さを目の当たりにした事かも。 おっとりしてて、受け身な性格だから、なかなかここまでやる気を引き出せないだろうけど……)
((今回の明美、前回の彼女とは日向に及ぼしてる影響力が全然違う。 火雷の活動に協力する事になって、日向の抱えてる問題に心底向き合って。 出来る限り協力していこう、っていう強い意思も感じられる。 神社に日向を連れていくっていう行動は、明美にとっても、日向にとっても、重要な意味を持ってたんじゃないかな))
月曜日の昼休憩、日向は図書室へ向かう。
(ん? 郷土資料のコーナーに来たね……私も小説を読んだり借りたりで図書室を利用した事はあったけど、このコーナーには立ち寄った事、なかったなぁ)
背表紙を一通り眺めた後、日向は『月宮神社を訪ねて』というタイトルの本を手に取り、貸出の手続きを済ませる。
(ああ、月宮神社について調べてみよう、って思ったんだね。 私も気になったけど……本で調べようとまでは思わなかった。 隣で一緒に読ませてもらおうかな)
その夜、勉強部屋で日向は早速、先ほどの本を開き、読み始める。
割と写真が割り振られているページが多く、それほど文字数が多くないからだろう、ペラペラとページを繰っていく。
(境内の様子を中心に、神社の歴史や見所が、写真付きで書かれてるね。 日向、私と読むペースが同じだから、読むのに不自由は感じないけど、さっきから気になるのが……)
時々、日向がページを繰る速度が落ちるのである。
(所々、変な空白があるんだよなぁ、この本。 製本されてる以上、校正も推敲もされてるはずなのに、不自然な感じの。 何だろう……まるで、不都合なところを切り取って削除しました、みたいな)
((……これは、重大な事に気付けるかもしれない。 私にはちょっと心当たりがあるんだけど……))
(えっ?! 心当たりがあるの?)
((菴輔b縺ョ縺九↓繧医▲縺ヲ縲∝ウカ縺ョ蟄伜惠繧帝國阡ス縺輔l縺溽オ先棡、じゃないかって思うんだけど……ま、当然、検閲が入るよね))
(やっぱ、自分で考えるしかないんだね……。 製本された本に不自然な空白……うーーん……)
バタン。 日向は本を閉じてしまう。
(今までは日向にしか見えないものが幾つかあったけど、今度は日向にだけ見えないものが見付かった、って事かな。 私には分からないよ)
そして、日向はその本を持って、明美の書斎に向かう。
「お母さん、変な事訊くかもだけど……このページ、何か書かれてる?」
(あっ、そこは変なスペースがごそっと入ってるページ……って事は、日向も私と同じ疑問を持ったみたいだね)
「……スペースが空いてるように見えるけど。 別に何もおかしいところはないよ」
「えっ?! お母さん、こんな大きなスペースが空いてるのに、違和感ないの? どう見ても変に感じるんだけど……製本された本だよ、これ」
「うーーん……そう言われれば、そうかも。 でも、最初にそのページを見た時の印象は、全く普通だなって。 とぼけてた訳じゃないのよ」
(これは……どう見ても印刷ミスっぽい感じに見えるのに、お母さん、違和感を感じなかったって……訳が分からないよ)
「ま、それは置いておいたとしても、私の予想、外れちゃった、か……」 日向はあからさまにがっかりした様子を見せる。
「予想が外れた? って、私にはそこに何かが見える、って思ったの?」
「うん。 今までとは逆に、私にだけ見えないものもあったりするのかな、って。 でも、これはこれで余計、違和感があるの、この本。 月宮神社について書かれてる本なんだけど、所々、こういうスペースがあって……。 こんな状態の本を出版するのって、変だなって」
明美もページをペラペラとめくって、 「うーーん……確かに、言われてみると、スペースが所々にあるね。 これは……何だろう、元々書かれていたものが白塗りで消された、みたいな。 でも、製本された本にそんな事、あり得ないよね」
結局、解決の糸口すら得られず、これ以上、この本を詮索する事を止めてしまうのであった。
翌日の夜。
食事中に明美が、 「そう言えば、ちょっといい案が思い浮かんだんだけど」 と、話を切り出す。
「えっ?! ちょっといい案?」
「うん。 この前、神社でひむかが描いた舟だけど、あれとよく似たものを昔、棗海岸で見た事があるの。 学生さんのサークル活動なのかな、あそこで舟に乗って訓練してるところを」
(棗海岸! あそこは……うわぁ……トラウマだよ……。 確かに、あそこでカヌーの操作方法を教えてもらわない事には、あの島に渡れなさそうだけど……)
((そうだね、現役にとっては鬼門の場所だよね。 でも、現役の言うとおり、島に渡る手段を得るって意味では、あそこは重要な場所……避けては通れないかな。 現役の時との大きな違いは、日向は既に神社でカヌーを発見してる事。 そこが上手く嚙み合ってくれるといいんだけど……))
(そう言えば、まだ日向はあの島を意識してないよね。 まだカヌーは、物体としてのただの舟、としか思ってないんだろうなぁ)
「へぇーー。 棗海岸、ね。 お母さん、今度の日曜日、連れて行ってくれない? 何か手掛かりが見付かるかもしれないし」
「うん、そうね。 何なら、その一つ先の駅に温泉もあるから、舟を見に行った後、そこでゆったりと過ごしてみるのもいいかもね。 ひいかちゃんも誘って」
「分かった。 電車に、温泉かぁ……楽しみだなぁ。 ひいちゃんも誘ってみるよ」
さらに翌日、火雷に話を持ち掛けたところ、一緒に行く事が決まる。
日向と明美の会話に、現役と初代の会話を割り込ませるタイミングが難しくて……。
どうしても、日向と明美の話の流れを切ってしまう。




