4-9 宮司
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
(私が日向だった時は、あの舟の存在に気付けなかった……そう言えば、この場所に足を踏み入れる事も無かったよ)
((結局、それが、あの結末に辿り着いてしまった一つの要因になったんだろうね))
(って言っても、あの舟が幻だったら、乗る事は出来ないんだろうけど……)
ベンチに座って二人の会話を聴いていた明美も会話に加わる。
崖の下を覗き込んだ後、「私にも舟は見えないな。 それも不思議な現象として、絵日記帳に描いてもらわないと。 私たちにも分かるように」 と、日向に提案する。
「うん。 でも……ここからだと遠すぎて、あんまり見えないよ。 側に行くのも波が立ってるから危ないし……」
「そうね、立入禁止の場所っぽいしね。 せめて双眼鏡のようなものがあればなぁ……」 明美は暫く考えた後、 「そうだ! 宮司さんにお願いしてみようかな」 と言うや否や、明美は二人を連れて社務所に向かう。
「ここが宮司さんのいる社務所なんだけど、二人はちょっとここで待っててね。 失礼しまーーす」
明美は中へ入っていく。
「あそこって、何する所だろう」 と、日向は社務所の側にある建物を指差す。
「うーーん……何だろう。 何か儀式をする場所、かな」
火雷がそう返事したタイミングで、明美が双眼鏡を手に出てくる。
「お母さん、この神社に知り合いがいるんだね」
「昔から知ってるの、この神社の宮司さん……えっと、ここで一番偉い人だけど、昔、凄く良くしてもらってね。 はい、双眼鏡。 ちょっと古いけど、それでも良ければ、って貸してくれたから、これを使ってみて」
三人は舟の見える場所まで戻り、日向は手渡された双眼鏡を左手に、スケッチを始める。
「うーーん……さっきよりは見えるようになったけど、やっぱ遠すぎて、詳しくは見えないなぁ」 そうつぶやきながらも、何とか見える範囲で描き切る。
「で、メモは……」
・月宮神社の崖下、平らな岩の上に乗り上げてる。
・大きさは5mくらい? 船体は木目調。
・中に舟を漕ぐための棒がある。 片方の端だけ太い。
・服みたいなのも畳まれて置かれてる。
「こんなところかな。 舟の事、全然知らないから、こんな説明しか付けられないけど」
火雷もイラスト化しようとするが、これだけの情報では限界があるようで、 「今はこれで精一杯だね。 もっと詳しく書ける機会があるといいなぁ」 と、妥協して仕上げに入る。
双眼鏡を返しに社務所に立ち寄ると、宮司とおぼしき男性が、竹箒で辺りを掃除しているところだった。
上には白衣を、下には白い紋の入った紫色の袴を着ている。
「ああ、お戻りになられたのですね。 古いもので申し訳ありませんでしたが、双眼鏡はお役に立ちましたでしょうか」
(凄く丁寧な物言いの人だなぁ。 この人がお母さんの知り合いの宮司さん、なんだね。 私、初めて見るよ)
((そう言えば、現役は彼を全く知らないまま終わってしまったんだったね。 彼に会わずして、先に進んでしまったから……))
(えっ?! そんなに私の運命を左右してしまうほどの人だったの?)
((恐らく、彼が起こし得る事象を今、伝えようとしたら、ことごとく検閲が入るだろうけど、かなり影響力のある人、とは言えるかな))
(……そっかぁ)
「はい、とっても役に立ちました。 ありがとうございました」 明美がお礼を言うと、宮司は明美に向かってうなずいた後、側にいる少女たちを見て、 「ようこそお参りくださいました。 いいお参りは出来ましたでしょうか」 と、尋ねる。
「はい、おばさまに作法を教えてもらいながら、しっかりお願い事が出来ました」 火雷が答えた後、 「私、お参りするのが初めてだったから、全く作法を知らなくて。 お母さんに教えてもらえて良かったよ」 と、続けて日向も答えると、 「お母さん? ああ、貴女が……明美さんの娘さん、ひむかさん、なんですね。 明美さんから話は聞いております。 私はこの神社で宮司を仰せつかっております、あづちと申します」 と、宮司は丁寧な受け答えで自己紹介する。
(あづちさん、かぁ)
((彼の名前もまた、この世界では平仮名だけど、本来は漢字だったんだよ。 安いに土で、安土))
(えっ?! この人もまたそれ? これで何人目、そういう人)
「はい、ひむかです。 初めまして。 ところで、宮司さんって……」 日向は明美から聞いた事を再確認するように尋ねると、 「宮司というのは、神社の最高責任者にあたる神職を指す職位なのです。 もうずいぶん長い間、この神社で宮司を務めさせていただいております」 と、安土は答えてくれる。
「やっぱり、一番偉い人、なんですね。 お母さんとは昔からの知り合いなんですね」
「はい、十数年来になるでしょうか。 縁がございまして。 実は……ひむかさんとも、ほんの小さな頃にお会いした事があるのですよ」 と、安土が言うや否や、 「えっ?! あづちさん、そこまで……」 と、明美は何故か慌てたような反応をする。
「へぇ~~、私が物心が付く前、なのかな。 記憶に残らないくらい、小さな頃?」
「はい。 本当に大きく、立派になられましたね。 明美さんの強い愛情を一身に受けてこられたのが私にも伝わってくるようです」 安土は明美に優しい視線を送りつつ、日向に悠然とした口調で答える。
「はい! 私の自慢のお母さんだもん」
「そうですね。 明美さん、娘さんをここまで立派に育てられて、願いが叶いましたね。 子宝、子育ての御利益が成って、宮司として感無量です」
「あづちさん……その節は、本当にありがとうございました」
「では。 また神社にお越しの際にはお声掛けください。 心から歓迎致しますので。 八百万の神々のご加護がありますように」
三人は安土に別れを告げ、家路に着く。
その夜。
「お母さん、あんなにスイスイって階段を上っちゃうんだもん、私びっくりしちゃって。 この前の登山の時も、途中から脚がだるくなっちゃって」
(日向が驚くのも無理ないよ。 私もあんなお母さん、見た事なかったもん)
「私は3年ほど、願いを叶えてもらうために、毎日あの道を通った事があったから……。 ま、昔の話なんだけどね。 ただ願うだけじゃダメ、叶えてもらうためには努力もします! って」
「3年?! 強い思いを持てば、凄い事でも出来るようになるんだね。 私ももう少し、階段とか山道を早くしっかりと歩けるようになりたいなぁ」
「お母さんも、最初はひむかと同じような感じだったよ。 大切なのは続ける事。 少ししか出来なかったって日もあるかもしれないけど、それでもいいの。 そうね……明日から、いつもよりちょっと早足で通学してみるのはどう? ひいかちゃんを巻き込んじゃう事になるけど……」
「なるほど……いつもやってる事より少し大変だな、ってくらいの方が始めやすいよね。 ちょっとやってみるよ」
「頑張って、ひむか。 お母さん、応援してるからね」
(結局、今日は何一つ介入できなかったなぁ。 ホント、ずっと見てるだけだった)
((そんなに悲観しなくてもいいんじゃない? 流れとしては良い感じに進んでると思うよ))
(だけどなぁ……何とか上手く、日向とコミュニケーションが取れるように出来れば……私も努力しなくちゃ)
この物語の鍵を握るキャラを登場させました。
第三章との違いを際立たせるよう、上手く書いていきたいです。




