4-4 運命を変えるビンタ
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
翌日。 昼前になり、呼び鈴が鳴る。
「はーーい!」 玄関に出て、火雷を迎え入れる日向。
「ひむちゃん、元気そうで良かった~~」
「ひいちゃん、待ってたよ~~。 もう体調は大丈夫、だと思う。 どうぞ、上がって」 二人はリビングへ。
「おばさま、お邪魔します。 いつも、ひむちゃんに仲良くしてもらってます、ひいかです」 火雷は深々と頭を下げる。
「ひいかちゃん、こんにちは。 話には聞いてるよ。 遊びにきてくれるの、初めてだね。 今日はゆっくりしていってね」 奥のアイランドキッチンから顔を覗かせる明美。
「それにしても、お洒落な建物ですね。 サーカスのテントのような……有名建築家が建てたみたい」
火雷の率直な感想を聞いて、 「ありがとう。 家の事、褒めてくれて嬉しいわ。 私が生まれる前に、父と母が見晴らしのいいこの丘に最高の家を建てたくて、業者さんに注文したの」 明美は心から喜んでいる。
(そう言えば、私の時は、先に一度見舞いにきてくれたんだった。 この世界ではそれが無かったから、ひいちゃんは初めての訪問、って事になるんだね)
「じゃぁ、ひいちゃん、私の勉強部屋に入って」 日向は背中を押して誘導する。
「台形のお部屋って、変わってるなぁ。 壁と天井に窓があって……」 火雷はそう言いながら、本棚を興味津々でチラ見している。
「あんまりじっくり見られると恥ずかしいよぉ~~」
(星月はひいちゃんからは見えないから、視線を気にせず、ひいちゃんの様子が見られるって事に気付いたよ。 私が日向だった時に視線の外にあったものが見れるかも)
((なるほど、そこにも気付いたんだね。 現役って、なかなか鋭いよ))
トントントン。 ノックする音が聞こえ、 「「は~~い!」」 と二人が返事すると同時に、明美がオレンジジュースが注がれてストローがさされたグラスと、カットされたカステラとフォークを乗せた皿とを、トレーに載せて入ってくる。
「うわぁ~~、ありがとうございます、おばさま。 美味しそう~~」
「お母さん、ありがとう。 あまあまで、美味しそうだよ~~」
「折角、訪ねてきてくれたんだもん、甘いものを食べながら、楽しんでいってね」 明美はそう言って、会釈して退出する。
「じゃぁ……」 「「いただきまーーす!!」」
火雷は壁際に立つ本棚に視線を移し、 「すご~~い! 本がいっぱい! ひむちゃん、読書家だね」 と感嘆の声を上げる。
「確かに本好きだけど、中身を見てよ」
「でもでも、漫画ばっかのひいかの部屋と比べたら、字がいっぱいの本が多くて凄いよ」
(そう言えば私、ひいちゃんちって訪問した事無かったよ。 沢山の漫画に囲まれて、かぁ……絵を描くのが好きなのも納得だよ)
「で、ここに立ててあるノートって……」
(さっきからひいちゃん、その辺りをチラチラ見てたんだよなぁ)
「あぁ、それは自作小説を書いたノートだよ。 中学の頃、サークルで書いたんだけど、なかなか上手く書けなくて……」
「ちょっとだけ読んでいい?」 火雷はいよいよノートに手を伸ばそうとしている。
(えっ、ひいちゃんにノート、見せるの?! 恥ずかしいよぉ。 だって、ひいちゃんをモデルにした小説も中に入ってるんだよ。 ちょっと阻止したいなぁ……そうだ! 初代、ちょっと私の考えに手を貸して欲しいんだけど……)
((私の考え、かぁ。 もちろん、協力するよ。 で、私は何をすればいいの?))
(この前、発電できるって言ってたよね。 それを、私がお願い! って叫んだ時にやってほしいの)
((……何か試してみたい事が思い浮かんだんだね。 分かった。 メタン発電の準備しとくよ))
星月は日向の右肩から手の甲まで歩き、辿り着くタイミングで (お願いっ!!) って叫ぶ。
((じゃぁ……今エピソードのハイライト~~)) 初代は軽くメタ発言をぶちかます。
「えっ? えーーっ!! ほつき、凄い! ビカビカ光ってる……」
(この前は歩いてみせて驚かせたから、今度はそれだけじゃ刺激が足りないかなって思って。 目の前でビカビカ光ったら、きっと日向は声を上げるって思ったの)
((なるほど、火雷の前で声を上げさせたかったんだね。 頭使ったね))
(日向に叫ばせて、ひいちゃんの反応は……)
「えっ? ビカビカ? ひむちゃん、何がどうしたの?」 当然、火雷は日向の意味不明な叫び声に、ノートに向いていた興味を逸らされる。
「あ、あへ?! な、何でもないよ~~。 妄想妄想~~」
(しどろもどろになってるよ、日向。 ごめんね。 でも、私の目的のためには……)
「……ねぇ、ひむちゃん、ホントに何でもないの?」 火雷の声色が低くなり、その瞳は真っ直ぐ日向を見詰めている。
「う? うん。 ホ、ホントに何でもな……」
その瞬間……パシーーーーン!! 乾いた音が部屋に響き渡る。
(え、えっ? 嘘! ひいちゃんがビンタを?!)
「……ひむちゃん、どうして……どうしてごまかすの? ひいか、相談して欲しいのに……」
(ひいちゃん、目に涙を沢山溜めてる……こんなひいちゃん、見た事ないよ)
「ひいちゃん……」 ぶたれた左頬に手を当てながら、呆然とする日向……目には涙が。
「登山から帰る時もおかしかった。 何か隠し事してるっぽく感じて……」
(声が波打ってる……ひいちゃん、泣いてるんだ……)
「ご、ごめん……言っても信じてもらえないって思って……ひいちゃんに、おかしな子って思われるのが怖くて……」
「どんな事があっても、どんな時も、ひいか、ひむちゃんの味方だよ。 何でも言ってよ」
「ひいちゃん……うん、分かった。 正直に話すよ、ほつきの事」
((なるほど、火雷に星月の存在を喋ってしまうように仕向けたんだね。 それにしても、上手くやったんじゃない? ちょこまか歩きと瞬く事しか出来る事が無い中で))
(ちょっと予想以上だったけど、とにかく、私の時とは全く違った展開に持っていきたいの。 まさか、ここまでガラッと変わるとは思ってなかった)
「……ひむちゃんには見えてるんだね、そのほつきっていう子が。 ひいかにはさっぱり見えないけど……霊感的なもの、なのかなぁ」
「私にも分からないけど、霊感なんて私にあるとは思えないよ。 でも、そういう神秘的なものが私に見えてるって事に、何か意味があるんじゃないかな、って。 ほつき、私からくっついて離れないし……」
「意味がある、かぁ。 ひむちゃん、正直に話してくれてありがとう。 ひいかも話を聞いた以上、ひむちゃんの助けになるよう頑張るからね。 それより、さっきは思いっきりぶってしまって、ごめんね」 火雷は土下座よろしく、頭を下げる。
「ううん、ひいちゃんのパシーーンで気付かされたよ。 私には相談できる人がすぐ近くにいるって事に。 正直言うと、このまま一人で抱え込もうと思ってたんだ。 一生懸命、私の事を考えてくれて、ありがとう」 日向は火雷の上体を起こし、軽くハグする。
(ふぅ……雨降って地固まる、ってところかな)
((なかなかの策士だよ、現役は))
「お邪魔しました~~。 凄く良い時間を過ごせました。 おやつ、美味しかったです。 ありがとうございました、おばさま」 ひいかは玄関で深々とお辞儀をして、明美に礼を述べる。
「お粗末様でした。 また……」
「あっ! あの、おばさま。 来週の月曜日、学校帰りにまた寄っても良いですか? ちょっとおばさまにお願いしたい事があって」
「えっ? ひいちゃん、どうしたの?」 日向は意表を突かれたような表情で尋ねる。
「まだ内緒。 でも、今日、決心したの。 ひむちゃんにも、その時に話すね」
(ひいちゃんの目、凄く真っ直ぐ……一体、何を決心したんだろう……)
「あらあら。 もちろん、おばさんは何時でも歓迎するよ。 また遊びに来てね、ひいかちゃん」
「じゃぁ、また月曜日に。 ばいばい、ひむちゃん」 「うん! 月曜日にね。 ばいばい」
(心につっかえてたものが取れたのかな、表情が明るくなったね、日向)
物語の流れを大きく変えるイベントを起こしました。
火雷の日向に対する強い気持ちを、上手く表現できてるでしょうか。




