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4-3 個性という名の誤差

前話を読んで下さった方に感謝です

今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです

 その夜、日向はベッドの上でうなされっ放しだった。

 (全然眠れそうな感じ、しないね……) 日向の右肩から彼女を見やる。

 ((頭で冷静に処理しきれない、非常識な出来事に直面して、心に強い負荷がかかったんだろうね))

 (この身体じゃ何も出来ないけど、今はせめて私が、日向を側で見守ってあげたいな、って思うよ)


 明くる朝になっても、日向はベッドから一向に起き上がろうとしない。

 コンコンコン。 さすがにたまり兼ねたのか、明美がお盆を手に、様子を見に来る。

 「……ひむか……かなり顔が赤くなってるよ。 熱、あるんじゃない?」 明美は小声で囁くように語り掛け、日向の額に手を当てる。

 「う、うーーん……頭だけじゃなくて、体中が熱っぽくて……」

 (声色を聞いてても、ぐったりしてるのが伝わってくるみたいで、可哀想だよ。 横顔を見てても、顔が火照ってるみたいで……熱は感じないけど……)

 ((星月は暑さ寒さを感じないの。 五感で備わってるのは、視覚と聴覚だけ。 だから、目で見て、耳で聞いて、色んな状況を判断するしかないんだよ))

 「喉、渇いたでしょ? 冷たい水を持ってきたから、飲んで」

 「ありがとう、お母さん……」 日向は差し出されたコップ一杯の水を、一気に飲み干す。

 「あと、濡れタオルを冷やしてきたから、額に乗せるね」

 「ありがとう……」

 (お母さん、優しい……私までウルッときたよ。 熱があるか分からないのに、冷えたタオルを用意してたって……お母さんって、色んな状況を想定してるんだなぁ)

 ((それが、子を思う親心、ってものなんじゃないかな。 思いやり、だよ))

 「昨日の登山の疲れが出たんだよ、きっと。 今は何も考えず、ぐっすり休んで過ごしなさい」 明美はベッドの高さに目線を合わせるように、しゃがみこむ。

 「ありがとう……。 今日はぐっすり寝て、身体を休めるよ」

 (お母さん、昨夜の件、言葉に出さないね)

 ((きっと本心は、そこに体調を崩した原因がある、って思ってるんだろうけど。 日向の話しぶりから、冗談で言ってるようには感じられなかっただろうから))

 「じゃぁね、ひむか。 おやすみ」

 「おやすみ、お母さん」 日向の声を聞いてから、明美は寝室を後にする。


 連休明けの火曜日、日向は学校に行く事にする。

 (うーーん……見たところ、体調は全然万全じゃないみたいだけど……私が日向だった時は、この日も学校を休んだんだけど……何か、因果律が変わったのかな)

 ((そう断定は出来ないかな。 仮に、現役が前代と全く同じ行動を取ったとしても、前代の時と全く同じ事象が起こり続けるかって言えば、そうとも限らないかもしれないし……))

 (えっ?! そういうものなの?)

 ((星月と出会った時点での日向が必ずしも、毎回毎回同じパーソナリティとは限らないのかも……それ以前の人生の送り方で、個性という名の誤差が多少なりともあるのかもしれない))

 (えっ?! もしそうだったら、その時の日向の個性によっては、こうはならないかもしれない、って事?)

 ((いや、私にもよく分からないの。 だって、そんな単純なものじゃないと思うの、並行世界って))

 (そうなってくると、こうすればこうなる、みたいな必勝法は無いって事になりそうだけど……)

 ((でも、私が思うに、ほんの誤差程度かなって。 その瞬間は違う事象が発生してるようにみえるけど、近いうちに収束されるって言うか……))


 集合場所のガゼボで日向と合流した火雷は、 「ひむちゃん、ちょっと顔色、良くないような……元気が無いように見えるよ。 大丈夫?」 日向の顔を覗き込みながら、そう尋ねる。

 (さすが、ひいちゃんだなぁ。 日向の様子がいつもと違うのを、敏感に察知してるみたい)

 「うん、土曜の夜から熱を出して、二日間、寝て過ごしてたんだ」

 「登山で疲れたんだよ、きっと。 無理はダメだよ。 しんどかったら学校、休んだ方が良いと思う」

 「心配かけてごめんね、ひいちゃん。 途中、しんどくなってきたら考えるよ」

 いつもよりゆっくりした歩調で、二人は学校に向かうのであった。

 ((あ、そうそう! 火雷も本来の名前は漢字だったんだよ。 炎の火に、かみなりで。 もう既に、地の文では使ってるんだけどね、って、これはメタン発電用))

 (ひいちゃんの名前も?! お互いに平仮名だったから、一文字違いで親近感が湧いて友達になれたのに、漢字だったら全然違う名前になっちゃった感じだよ)


 その日、日向は最後まで授業を受けた。

 帰り道、火雷は日向の歩調に合わせて、隣を歩いてくれている。

 「ひむちゃん……体調はどう? 無理してない?」

 「うん。 ちょっと疲れは出たけど、体育は見学したし、座って授業を受ける分には大丈夫だったよ」

 「早くいつものひむちゃんに戻るといいなぁ。 ひいかに出来る事があれば、言って欲しいな」

 それを聞いた日向は、顔を火雷に向け、微笑みを返す。

 「ありがとう、ひいちゃん。 家でゆっくり身体を休めるよ。 じゃぁね、ばいばい」 そう言って、火雷とガゼボで別れる。


 翌日も、日向は頑張って登校する。

 GW(ゴールデンウイーク)突入を翌日に控え、漸く体調が落ち着いてきたようにみえる。

 (お母さん、あの出来事を一切口に出さずに、日向をそっとしておいてくれてる。 それで落ち着きを取り戻してきたのかもね)


 帰り際、火雷が隣の席の日向に声を掛ける。

 「ひむちゃん、明日、ひむちゃんち、お邪魔してもいいかな? だいぶ元気になったみたいだけど、まだ心配だから……」

 (ひいちゃん、ちょっと過剰なほど、日向の様子を心配してるように感じるのは、気のせいかな)

 ((うーーん……もしかすると、ただの風邪だとは思ってない、とか?))

 「ひいちゃん、いつも私の事、気に掛けてくれてありがとう。 あっ、ひいちゃんが私んちを訪ねて来てくれるの、初めてだよね~~。 怪我の功名っていうのかな、これ。 楽しみ!!」 日向の表情がパッと明るくなるのを、横から眺める。

 (あははーー。 日向はやっぱ、笑顔が似合うよ~~。 手前味噌だけど)

 「良かった~~! ひむちゃんち、どんな感じなのかな~~。 おばさまに、よろしく言っておいてね」

 「うん。 分かったーー。 お母さんには今夜、相談しとくよ」

火雷の感情を強く表現したかったがために、セリフがくどくなってしまいました……。

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