4-2 因果律と運命
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
神尾渓谷を後にして下山中、日向の肩から山景色を眺める。
(こりゃ楽だよ~~。 じっとしてても進んでくれるんだもん。 落ち着いて景色が見れるよ)
((こらこら……。 ま、歩くのは日向だからね。 ご愁傷様だよ))
(やっぱり、誰も気付かないんだね、星月の存在)
((不可視の存在、だからね。 日向以外の人間には絶対見えないよ))
(私が日向だった時、とにかく他の誰かに知られないように、って思ってたけど、それって、普通だよね)
((ま、内緒にしておくのが無難だっただろうね。 ところで、現役に一つ謝っとかなくちゃいけない事があって……))
(えっ?! 私が失敗に終わった事に対するもの?)
((それに影響した、って言えるかは分からないけど……前代の星月、つまり、現役が日向だった時に側にいた星月、だけど……彼女は捨て駒の道を選んだんだよ))
(捨て駒って、私を捨てたって事?)
((ま、結果的にはそういう事になったのかな、って。 前代は、全く何もアクションを起こさず、ずーーっと動かないでいたらどうなるかが見たい、って言い出してね))
(あっ……そう言えば、星月の存在を何時からか、ほとんど意識しなくなってたよ。 だって、存在感が無かったんだもん)
((私の記憶では、現役は星月に呼び掛けた事が一度も無かったんじゃないかな。 入浴前後と、睡眠前後に星月を肩から解放する以外、まるで存在を忘れ去ったかのようだったし))
(実験台にされたんだね、私って……)
((そんな事を考えたのは前代が初めてだった。 新しい展開が生まれるかも、って私は密かに期待したんだけどなぁ))
(新しい展開……そっかぁ、初代は数え切れないほどの日向と星月の行動を見てきたもんね……。 ん? ちょっと待って。 って事は、今まで初代が見てきた行動のうち、良い結果をもたらしたものばかりを繋ぎ合わせたら、良い事になるんじゃないの?)
((そう考えるよね、普通。 だけど、それが出来ないんだ。 現役が体験してない、これから起こし得る事象を伝えようとすると、神のいたずらが入るんだよ))
(神のいたずら? 何なの、それ)
((じゃぁ……実際にやってみるね。 これからの現役の行動如何によっては、近い将来……轣ォ髮キ縺梧律蜷代r繝薙Φ繧ソ縺吶k!!))
(……え? 全く聞き取れなかったよ。 それって……)
((私は普通に日本語で予言を伝えようとしたんだけど、意味不明の言葉になる……これを私は、”検閲”って呼んでるの))
(うーーん……じゃぁ、初代に頼らず、私自身が頭をひねらないといけない、って事かぁ……でも、星月って、何も出来ないよね)
((だから最初に、星月として日向を見守る、って言ったのよ))
(でもでも、それだと、私たちの存在意義って何? こうして転生までさせられてるって事は、そこに必ず、意味があるんじゃないかな)
((おーーっ、現役は、今までの星月の中でも頭が切れるね。 確かに、星月に出来る事なんて、ほとんど無い。 ちょこまかと歩くか、瞬くか、くらいだもん))
(ちょこまかでも歩けるの?! ちょっとやってみたい!)
((星月は星形……日向に接する二頂点を足として使えたら動けるよ。 ただ、必ず日向に片足は接しておかないといけないの。 ジャンプは出来ない、って事ね))
(じゃぁ……意識を集中して……えいっ!)
星月は日向の右肩からひじの内側まで歩いてみせた。
「あわわわわ……この子、歩いたよ! あっ、だめだめ、声が出ちゃった」 日向は驚いて、思わず声を上げる。
「ひむちゃん、どうしたの?!」 前を歩く火雷が振り向いて、目を丸くして日向を見る。
「ううん、何でもない、妄想妄想~~」
(結構、エネルギーを使うんだね、これ。 でも、日向の世界に変化を起こす事が出来たよ、私!)
((あははーー。 凄いよ、現役。 結構積極的だね))
(何だか、やる気が出てきたよーー)
その夜、日向の勉強部屋にて。
先ほどから右肩に乗ってる星月を見て、日向は何か考え事をしている様子。
(確か……名付けようとしたんだよね、ここで)
((現役は、”運命”って言葉について、どのくらい知ってる?))
(うーーん……自分の意思にかかわらず、元から決められてるかのように起こる出来事、かな)
((そうだね……例えば、今。 日向はおそらく星月を名付けようとしてる。 で、途中の思考はさておき、最後には必ず、星月と名付ける事になる))
(そうなの?!)
((そう。 そして、この事象が百回発生したら、必ず百回星月と名付ける……こういうのを運命って言うんだよね))
(運命……なるほどね)
((事象には、百発百中で起こるものもあれば、一回しか起こらないものもある。 もう一つ例を挙げると、今日、星月が転生した時間と場所も、運命みたい。 現役は日向だった時、歓迎登山に向かう前夜に明美と会話したよね。 あの時、明美は昔、ログハウスの中でウサギのオブジェを見た、って言ったけど、もしそれを聞かなかったら、翌日、ログハウスには立ち入らないよね))
(うん。 お母さんがそう言ったから、私はそれを思い出して、あのログハウスに入ったもん)
((それは因果律によるものなの。 現役は因果律って知ってる?))
(えっと……何か物事が起こったら、それが元で別の物事が起こる事、かな)
((そうだね。 因果律によってログハウスに向かい、そこで転生したばっかりの星月と出会う……この事象は百発百中で起こる……つまり、運命なんだよ))
(へぇ~~。 日向が星月と出会うのは運命、なんだね……)
((そして、そうなるように仕向けたんだと思うの、何者かが))
(……考えれば考えるほど、怖くなってくるよ)
ひとしきり考えにふけった後、日向は明美の書斎に向かう。
「お母さん、昨日言ってたウサギのオブジェ、探しに行ったんだけど……って!! どうしたの?! そのおっきいウサギのぬいぐるみ!! かわいいーー!!」
(私にも見えるよ、ウサギのぬいぐるみ)
((もう現役も気付いてると思うけど、この現象は星月の能力なの。 日向に隠されたものを見せるという))
「今日、買ってきたんだよね? どこで売ってたの? 凄く興味ある~~。 教えて~~。 ……あれっ?! お母さん? どうしたの? 風邪で喉をやられて、声が出なくなっちゃったのかな?」
(そりゃ、ぬいぐるみが見えないお母さんは、茫然として言葉を失うよね……)
「落ち着いて、ひむか。 どこに……どこにウサギのぬいぐるみなんてあるの?」
「もぉ~~、とぼけちゃってぇ~~。 ほら、そこの隅に……」
「あははは。 冗談で言ってるのよね。 登山でだいぶ疲れてるんじゃない? もう寝なさい」
「お母さんこそ、冗談は止めてよ~~。 ほら、ここに……」
(そりゃ、日向も必至になるよ。 冗談で言ってるわけじゃないんだもん)
((見えるんだけど、触れられない……これに現役は悩まされたんだよね))
(また悪夢を見せられて、辛いよぉ…)
「えっ? こんなにはっきり見えてるのに、触れないの? 私、幻覚が見えてる!!」
(ああ、日向……半狂乱になってしまって……。 助けてあげたい、でも……)
並行世界を扱うのって、事象を分岐させたり収束させたり……物語の構成に凄く頭を使いますね。




