1-2 吐露
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も、温かい目で目を通していただけると嬉しいです
明美が自己紹介したところで、あづちは、 「ご神殿の周辺は参拝者が多いですから、向こうのベンチに座ってお話の続きをお伺いしましょう」 と、本殿が納まる洞から、ベンチがある、ちょっとした屋外スペースへと明美を誘導する。
柵の向こう、眼下には奇岩が海から力強く突き出るさまが見て取れ、波が打ち付けて潮騒を一層大きくしている。
二人がベンチに腰掛けると、明美の表情に真っすぐな、しかし威圧感を与えないほどの優しい視線を投げかけながら、あづちは話を聴く態勢に入る。
「幼い頃に母を亡くし、高校を卒業する目前で父も亡くした私は、家に独りぼっちになって……。 他に身寄りがない私は孤独で……。 寂しさを紛らせたくて、あてもなく街に出る事が増えたの」 明美はあづちの視線を軽く左斜め下にかわしながら話を続ける。
「詳しい出会い話を話すのはごめんだけど……そんなある日、渚にあるベンチに座って、もの思いにふけってる男性と出会ったの」 そう話す明美に何かを思ったのか、軽い笑みを浮かべながら、あづちは傾聴を続ける。
「ついつい、声をかけちゃった。 それが5年前。 それからその場所で何度も会って、色んなお話をして……で、お付き合いを始めて、結ばれて……」 明美の喋るスピードがここで一気に速まる……まるで、色んな想い出に彩られた過去に深入りしてしまわないよう、アクセル全開で駆け抜けるかのように。
ひと呼吸おいてから、「両親の残してくれた丘の上の家で、二人一緒の時間を過ごすことになって。 私がそれを強くお願いしたの」 と語る明美に、あづちは黙ってうなずく。
「二人には共通の、一番強い願いごとがあったの。 それは、子供を授かること。 彼も私も両親を亡くしたものどうし。 それだけに、その思いが強かった。 でも、思えば思うほどプレッシャーになったのかな、なかなか上手くいかなくて……」 明美の表情が曇り始める。
「ある時から神にもすがるようになって。 この神社に通い始めたのはその頃から。 子宝にご利益があるって聞いて。 どんな日も通おうと決意したの」 目まぐるしく変わる明美の表情を、ただただあづちは優しく見守りながら聴き続ける。
「そして、3年ほど経った頃……彼に別れ話を切り出されたの。 子供、授かれなかったね、と。 願い事、叶えられなかったね、と」 涙が目からこぼれ、頬を伝って流れる……でも明美は、心にたまったものをもうひと吐きしようと、涙をこらえる。
「私の努力が足りなかったんじゃないの? と自分を責めてしまって……彼と別れた後も、そのトラウマから抜け出せず、お参りだけを続けてる私……」 感情が高ぶってしまって、これ以上言葉をつなげられなくなってしまう明美。
ひたすら話を傾聴していたあづちは、明美に寄り添うように距離を縮め、 「それは……長い間、辛い思いを抱えておられたのですね。 貴女には非などありません。 もちろん、相手の男性にも非などありません。 どれだけ子宝を強く願っても、天からの授かり物はいただけないこともあるのです。 ここの参拝者の中にも、そのような方々は大勢おいでです。 過去の悲しみに囚われてしまっていては、光射す未来に進む事が出来ません。 悲しみの感情に覆われている限り、貴女のこれからの人生にもトラウマとして影を落とし続けることでしょう」 と、明美の心に直接言葉を届けるかのように、ゆったりと語りかける。
明美の感情が落ち着くのを待ってから、あづちは切り出す。
「私の話も一つ、聴いていただけないでしょうか」
今回は、会話と地の文をどう組み立てたら読みやすく出来るのか…という課題を意識して書きました。