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3-8 カヌー体験Ⅰ

前話を読んで下さった方に感謝です

今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです

 その夜、ひむかは勉強部屋で、ほつきについて考察する。

 (あの島……砂蒸し風呂に向かう前までは見えてたのに、向かう時には消えてた……その間に変わった事といえば……ほつきが私の側にいたか、いなかったか、ってとこだけど……)

 肩から降り、机の上で薄だいだい色に輝いているほつきを眺める。

 相変わらず、肩へ上ったり、肩から下りたり以外は、動く事も、話す事もしない、謎めいた存在。

 (お母さんの書斎で、ウサギのぬいぐるみを観た時は側にいた……もし、ほつきが側にいない状態で見に行ったら、どうなるんだろう) ひらめいた事を早速実行してみる。

 コンコンコン。 明美の書斎のドアをノックして、中に入る。

 「あら、ひむか、こんな時間にどうしたの?」

 「あ、そう言えばひいちゃん、髪型変えたんだよ、ツインテールに。 蝶々リボンが凄く似合ってて可愛かった~~」 会話の内容は適当に思い付いたもの……目的を果たすため、明美に勘付かれないように部屋の隅に視線を移す。

 「イメチェン、したかったのかな。 ツインテールが似合う子って、かわいらしいイメージがあるなぁ」 明美の返事をほどほどに聞きながら、確かめる。

 (いない! やっぱり!!)

 「やっぱ、かわいいもんね、ひいちゃん。 お母さんがそう言ってたよ、って伝えたら、きっと喜ぶよ。 ありがとう。 おやすみなさい」 目的を果たして、書斎を後にする。

 (ほつきが側にいる事と、幻が見える事とは関係あるね、きっと。 でも、そうだとして、ほつきは私にそんな幻を見せて、何をさせようとしてるんだろう……) 勉強部屋に戻り、机に突っ伏して、深く考え込む。

 (ぬいぐるみは触れなかった。 あの島も触れないんだろうか……。 私にしか見えない島……このまま気にせず放っておく事も出来るだろうけど……何か特別な意図があって見せられてるような気がするんだよなぁ……)

 考えても答えが出る訳でもなく、頭の中で思考が堂々巡りに……そうするうちに、いつの間にかそのまま眠っていた。


 翌朝。 朝食を摂りながら、ひむかは明美に尋ねる。

 「お母さん、昨日、車窓からヨットが沢山海に浮かんでるのが見えたんだけど、気持ち良さそうに見えて」

 「ああ、棗海岸のね。 あれはヨットじゃなくて、カッターじゃないかな。 競技用の。 昔、あそこで訓練してる学生さんとか見た事あるよ。 気持ち良さそうだよね、うふふ」

 「へぇ~~、あれ、カッターっていうんだ。 訓練すれば沖の方まで出ていけるのかなぁ。 ちょっと興味が出てきて」

 「私も体験した事ないから、よく分からないなぁ。 でも、しっかり教えてもらえば、行けるようになるんじゃないかな」 明美は、ひむかが意外なものに興味を持った事に少し驚いている。

 「今度の日曜日、見学しに行きたいなぁ……」

 「へぇ~~、そんなに興味があるのなら、行ってみるといいかもね。 あっ、もし邪魔でなかったら、私も付いていこうかな。 あの海岸、想い出の場所なんだ~~」 明美が乗り気になってくれたのを機に、 「ほんと?! お母さんと一緒なら、安心だよ。 行こ行こ!」 と、ひむかはここぞとばかりに予定を決める。


 そして、日曜日。

 ひむかは明美と一緒に電車に乗り、棗海岸駅で降りる。

 駅から歩く事5分……目の前にはどこまでも続く砂浜が広がっている。

 「わぁ~~、海がキラキラ輝いてるよ。 綺麗だね~~」

 「そうね。 ホント、綺麗」 ひむかに同調する明美。

 (ここからだと、島が真正面に見える……こんな大きなのが幻だなんて、信じられないよ) 明美に悟られないように、島を一望するひむか。

 「カッターだったかな? を見学してくるね、お母さん」

 「はーい、行ってらっしゃい。 私はあそこのベンチに座って、ゆっくりしてるからね」

 ひむかは波打ち際に近付きつつ、カッター訓練をしている人たちを見学する。

 大人に混じって、学生の姿も見える……みんなで十数人、といったところだろうか。

 

 見学を始めて30分ほど経った頃、一人の女性がひむかに歩み寄ってくる。

 (こんがり日焼けした、整った顔立ち……マリンスポーツしてる女性、って感じがする) そう思いながら顔を見ているうちに、声を掛けてくる。

 「こんにちは。 ずっとこっちを見学してる、って思って。 興味あるのかな、カッター」

 「はい! 海の上をスイスイ進んでるのを見てると、気持ち良さそうだな、って」

 「そうそう。 今の季節、海風も気持ちいいし、良い汗もかけるわ。 マリンスポーツは爽快よ」

 そう言って、女性はスポーツタオルで、こんがりと日焼けした首筋を拭く。

 「私、運動、得意じゃないんですけど……それでも漕げるようになりますか」

 「確かに、スポーツだから、運動神経も関係するけど、それよりも、やってみたい! っていう気持ちの方が大切だわ。 スポーツを楽しめたら、意識しないうちに身体も鍛えられて、一石二鳥だわ」

 (漕げるようになる、って簡単に言わないところ、説得力あるなぁ) ひむかは、女性がきちんと考えて答えてくれている事に好感を持つ。

 「はい、やってみたいです!」

 女性にひむかの気持ちが伝わったようで、 「それだけ興味を持ってくれたのなら、少し乗ってみる? 私が漕ぐから、何もせず乗るだけ体験、って事で」 と提案してくれる。

 「はい、お願いします!」


 「カッターは大人数で力を合わせて漕ぐ競技だから。 今回の見学にはカッターじゃなくて、こっちを使うわ」 女性は、ひむかを誘導しながら話し掛ける。

 「さっき見たのと比べると小型ですね。 これだと、2~3人乗り、でしょうか」 ひむかが尋ねると、 「カナディアンカヌーっていう、二人乗りの舟よ。 さぁ、あっち側に座ってみて」 と言って、女性はひむかの背中を軽く押す。

 「はい! えっと……私、まだ自己紹介してませんでした。 古河高校1年、ひむかと言います」

 「あはは、私もまだだったわね。 私は()()()。 カッター競技の選手よ。 よろしく」 頭を軽く搔きながら、自己紹介する。

 「はい! ()()()さん、ですね」

 「いや、違うわ。 みずる、じゃなくて、みづる」 間髪入れずに否定する。

 「あれ?! 同じように聞こえます……どこが違ってますか?」 ひむかは目を丸くして尋ねる。

 「同じじゃないわ。 私の名前はみ・づるって感じだけど、ひむかが呼んだのは、みず・るって感じだったわ」

 「あ、なるほど! すいません!! 名前を間違えてしまうなんて、失礼な事を……」 ひむかは平謝りする。

 「あ、ごめんごめん、細かい事言った私の方が悪いわ。 そこの違いには凄く敏感でね」 みづるは右手をぶんぶん振って、謝らなくてもいいよ、と合図する。

 「気を付けます。 よろしくお願いします、みづるさん」


 カヌーをゆっくりと、波打ち際と島の中間点の辺りまで漕ぎ出す。

 ひむかは、みづるのパドル操作を食い入るように眺めている。

 「凄い! 左右交互に漕いでるのに、綺麗に真っすぐ進むんですね。 腕の力で漕ぐのかなって思ってましたが、全身を使って漕いでて、凄く体力が要りそう」

 「本来、カヌーは、二人で役割分担して漕ぐんだけど、一人で漕ぐとなると、両方担当しないといけないから、テクニックがいるわ。 ま、いずれにしても、訓練が必要だけど、コツを掴めば、無駄な体の動きが減って、上手く力をパドルに注ぎ込む事が出来るようになるわ」 

 「凄いなぁ……」 ひむかはただただ、みづるのパドル(さば)きに感心するばかりだった。


 小遊覧の後、再び波打ち際まで戻ってくる。

 「ありがとうございました! 凄く快適で楽しかったです」 ひむかは深々と頭を下げる。

 「楽しんでくれて良かったわ。 マリンスポーツに興味を持ってくれて、競技者の私も嬉しいわ」 みづるは、ひむかを満足させる事が出来て、達成感を感じているようだ。

 「あっ、みづるさん、ちょっと待ってていただけませんか?」

 ひむかは、ベンチに座って、ずっとこちらを眺めている明美の方へ駆けていく。

 「お母さん、カヌー体験、楽しかったよ~~。 今日は乗ってるだけだったけど、実際に漕いでみたいな、って思って……選手の人に課外活動の指導者をお願いしてもいいかな?」

 「へぇ~~、ひむかが運動に興味を持つなんてねぇ。 お母さんに反対する理由なんて無いよ。 しっかり頼んでらっしゃい」 明美は少し驚きつつ、ひむかの意思を尊重する。

 「ありがとう、お母さん!」 そう言って、みづるの方へ駆けて行く。

 「みづるさん、待たせてしまい、ごめんなさい。 課外活動として、カヌーの訓練に参加したいんですけど、指導者になっていただけないでしょうか?」 ひむかはそうお願いしながら、再び頭を下げる。

 「そこまで興味を持ってくれたなら、喜んで受けさせてもらうわ。 よろしくね、ひむか」

 

 明くる朝、ひむかは学校に書類を提出する。

 ーーサークルの名称:カナディアンカヌーサークル

   参加者:ひむか

   指導者:みづる

   主な活動場所:棗海岸

これで、主要な登場人物はほぼ出揃いました。

物語の展開上、ずっと平坦続きで……第3章終了まで何とかお付き合いください。

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