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3-7 棗温泉

前話を読んで下さった方に感謝です

今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです

 翌日、学校にて。

 「ひむちゃん」 隣の席のひいかが呼び掛ける。

 「どうしたの、ひいちゃん」

 「私たちの誕生日、来週だよね。 ひいかが日曜日で、ひむちゃんが木曜日」

 「そっかぁ、もうすぐだね、今年の誕生日」 誕生日がお互いに近いだけあって、同じ週に迎える事も多い。

 「高校生になった事だし、今年は二人でどこかお出掛けしない?」 ひいかが提案する。

 「そうだね! でも、ひいちゃんはどういう所に行きたいの?」

 「うーーん……」 ひいかは少し思案した後、 「電車に乗って、古河町の外に出てみたい、かな」 と、遠慮がちに言う。

 「電車に乗って、かぁ。 それ、いいね! で、どこがいいだろう……」

 「実はひいか、前から行ってみたかった所があるんだぁ……隣町の(なつめ)温泉。 潮風に吹かれながら砂むし体験して、その後、温泉に浸かって……海を見ながらゆっくりしたいな、って」

 (温泉って、割と落ち着ける場所が好きなんだね) 普段のひいかのイメージとはあまり合わず、意外な感じを受けるひむか。

 (海を見ながら、かぁ。 私も昨日、初めて海を見て感動したんだった。 ひいちゃんと、もう一度見たいかな) 神社で見た海の景色を思い出す。

 「でも、温泉、ちょっと恥ずかしいなぁ~~」

 「えっ?! 女の子同士だから、大丈夫だよ~~。 スキンシップ、スキンシップ」

 「うん、分かった! 行こ! お母さんに相談してみるよ」 ちょっと迷った後、前向きに返事するひむか。

 「いいの? 私のわがままだけど……付き合ってくれて嬉しい! ありがとう、ひむちゃん!」


 その夜、リビングでひむかは明美にその件について相談する。

 「へぇ~~、二人で棗温泉に行くのね。 何だか、成長を感じるわ。 電車でお出掛けなんて」

 「うん。 ひいちゃんが行きたいって決めた場所が温泉だなんて意外だったけど、一日のんびり過ごすのもいいかも、って」

 「この前のお見舞いのお礼も兼ねて、ひいかちゃんの希望、聞いてあげなさい」

 「ありがとう、お母さん。 電車に乗るの初めてだし、楽しみだなぁ……」 ひむかは許しをもらえてワクワクしている。

 「気を付けて行ってくるのよ。 しっかり準備してね」 そう言って、明美は立ち上がり、 「懐かしいなぁ。 棗かぁ……あのベンチ、そのまま残ってるのかな……」 何か意味深な事をつぶやきながら、書斎に入っていく。


 初夏らしく、空気の澄んだ日曜日の朝、ガゼボでひいかを待つひむか。

 赤系の色でまとめられた、カジュアルなお出掛けルックをまとって、ひいかが駆けてくる。

 「おはよーー、ひいちゃ……って、可愛い~~! 久し振りだね、その髪型」 ひむかは目を丸くして、ひいかの頭を眺める。

 「うん。 この前、この髪型が似合うって言ってくれたから。 誕生日を機にツインテにしてみたんだ~~」 ひいかは恥ずかしそうに小声で答える。

 「うん、ひいちゃんらしくて似合ってるよ。 あっ! 誕生日おめでとう! 真っ先に言わなくちゃと思ってたけど、それ以上に感激しちゃって……ごめんね」

 「ううん、髪型褒めてくれて嬉しいよ。 ちょっと早いけど、ひむちゃんも、誕生日おめでとう! じゃ、行こ!!」

 お互いに祝いの言葉を伝え合って、二人は仲良く坂を下っていく。


 古河町駅は高校から南に徒歩10分……街のど真ん中にある。

 ここから、西行きの電車に乗って、5つ先の駅が今日の目的地。

 「実は、電車に乗るの、初めてだよ」 恥ずかしそうにひむかが言うと、 「ひいかは久し振り。 あまり乗った記憶、無いなぁ」 似たようなものだよ、と気遣うかのように答える。

 二人してちょっとした冒険心をくすぐられている。

 コンパートメント型の4人掛けの座席に、二人向かい合って座る事にする。


 3つ目の駅を過ぎたところで、海が見えてくる。

 「わぁ~~、海だよ! キラキラしてて綺麗だよね」 ひいかが感激して車窓をガン見している。

 「うん、綺麗だよね~~。 で、あの島……木々の緑がくっきりしてて……」

 「……?! ひむちゃん、ちょっと待って!! 島? 島って、どこに見えるの??」 ひいかはびっくりして、思わず声が裏返ってしまう。

 「あれっ?! ほら、あそこ……海の向こうに……」

 「……ごめん、いくら海をガン見しても、ひいかには全く見えないよ」

 (えっ?! あの島、まさか幻?! あんなに大きくてはっきり見えてるのに……いけない、早くさっき言った事を打ち消さないと、おかしな事になっちゃう!!)

 「あ、ごめんごめん! 島かと思ったら、車窓に映った反対側の山だったよ。 あはは……恥ずかしい」 何とか取り繕おうと必死になるひむか。

 「もぉーー、驚かせないでよ~~。 私、視野がガッポリ欠けたのかと思ったよ」 ひいかの例えが凄くてツッコミたいところだけど、何とかやり過ごせたみたいだ。


 4つ目の駅、棗海岸駅からは、プラットホームの向こうの海上に、舟がいっぱい浮かんでいるのが見える。

 (あれはレジャーじゃなくて、スポーツ用かな? 海の上かぁ……気持ち良さそうだなぁ) ひむかは海を見る事ですら、先日が初めてだったので、海のレジャーは全く未経験なのだ。


 いよいよ、棗温泉駅に到着。

 ここは砂蒸し風呂で有名で、遠くからの観光客も多いが、今日は比較的空いている。

 「着いたよ。 じゃぁ、行こ!」

 「うん! 楽しみ~~」

 施設は駅から徒歩3分。

 二人は受付を済ませ、階下にある脱衣所へ向かう。

 ひむかはほつきをロッカーの中に降ろすと、ロッカーの中から自分の姿が見えないように、薄く扉を開け閉めしながら、着衣を全て脱いで浴衣をまとい、大きめのタオルを手に施設の外へ出る。

 ひいかも後ろから付き従う。

 海岸からは蒸気がもうもうと上がっている。

 その一角に、屋根で覆われた場所があり、そこへ二人は向かう。

 「はーーい、お二人さーーん! 今日は空いてるから、早速こっちへ来てくださーーい!」 係の男性に声を掛けられ、案内されるままに付いていく。

 「仰向けでここに横たわってください。 頭をこちら側にして、タオルを頭の下に敷いて、腕は身体の横に……」 準備が出来たところで、 「では、砂をかけていきますねーー」 どんどん二人の身体が砂に埋もれていく。

 (わぁ~~、温か~~い! もうホクホクしてきた~~) 想像以上の温かさに驚くひむか。

 「10分を目安に、出る時は自力で起き上がってください。 では、ごゆっくりどうぞ」 係の男性はそう言い残して立ち去る。

 「ひいちゃん、温かいね~~。 もう汗が全身から吹き出してるよ。 何か、身体の中の悪い物が吸い出されていく感じがする~~」

 「あははーー。 ひいかも。 もう、悪い物だらけだから、干からびるまで吸い出して欲しいよ」

 「ひいちゃん、それ、死んじゃうから!」 ひいかの大げさな表現に、思わずツッコミを入れるひむか。

 10分では物足りなくて、二人して20分埋まる。

 「もう十分満足だよ。 起きよっと」 ひむかが先に声を掛ける。

 「うん、ひいかも。 生まれ変わった感じがするから、今なら何でも出来そうだよ」

 「そりゃ、スーパーひいちゃんだね」 ご機嫌なひいかのツッコミ役に徹するひむか。

 砂蒸し風呂を出て、脱衣所に戻る途中に、天然温泉がある。

 そこで、しっかり砂と汗を落とし、これで、身体の外も、中も、心もさっぱり。

 「気持ち良かった~~。 このお出掛けをきっかけに、気分的に生まれ変わりたかったんだーー。 付き合ってくれてありがとうね、ひむちゃん」 凄くすっきりした表情のひいか。

 「私こそ、初めての場所を教えてもらって楽しかったよ。 また来ようね」

 帰路に向かう二人…… ただ、ひむかは新たに一つの事実に気付く。

 砂蒸し風呂に向かう時()()、島が消えて無くなっていた事に。

タイトルにもなってる”隠された島”をここで本格登場させました。

今はまだ、大きな謎を残す存在でしかありませんが……。

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