3-6 神社参拝
前話を読んで下さった方に感謝です
今話も引き続き温かい目で目を通していただけると嬉しいです
鳥居をくぐり、ひむかが驚いたのは、参道の両脇からウサギの石像が次々と目に飛び込んできた事。
「うわぁ~~、ホントにウサギがたくさんいる~~!」 手に届くものは、頭をなでたりして歩を進めていく。
一つ目の橋に差し掛かった時、右手の視界が開け、穏やかなさざ波を湛える海が広がっているのが見える。
(これが海?! 空よりもっと深い青だし、キラキラしてるし……綺麗だなぁ) 生まれて初めて見る海に感動する。
二つ目の橋に差し掛かった時、海の向こうに、大きな島を見付ける。
緑の木々に覆われた、なだらかな山の稜線……雄大なその姿に心を奪われる。
しばし見惚れた後、石段を下りきると、左手の洞穴の中に本殿が見えてくる。
手水舎で、手と口を清める作法が書かれた立札を見ると…… (こんなところにもウサギ~~) ウサギのイラスト付きで説明されていて、思わず笑みがこぼれる。
本殿の前に立ち、賽銭箱に静かにお賽銭を差し入れ、書いてある作法通りにお辞儀をし、手を打つ。
(これからも、幸せが続きますように……みんなと、明るく笑って過ごせますように) 心を込めて祈る。
一礼した後、通路を左方に進むと、一体のウサギの石像を見付け……その姿に思わず目を疑う。
(えっ?! この石像、お母さんの部屋で見たぬいぐるみと、姿かたちがそっくり!!)
後足で立ち、前足をひょいと前に突き出した格好で、横を向いている。 立札を見ると ”撫でウサギ” とある。
石像の頭を撫でながら、 (お母さんの部屋に、この子そっくりのぬいぐるみ……この神社と何か繋がりがあるのかな) と、二つの関係性について疑問を抱く。
(でも、お母さんにはもう訊けないよ……あんな出来事があった事だし……) 今更、あの一件を蒸し返す訳にはいかない……取り敢えず、心に留めておこうと決心する。
更に通路を先に進むと、授与所が目に入る。
そこで、先日文房具店で出会ったちかねの姿を見付ける。
「あっ! ちかねさん、こんにちは。 先週、文房具店で……」 と言いかけたひむかに、 「あ、あの時の……こんにちは。 本当にここにお参りに来たんだね」 と、笑顔で挨拶を返してくれるちかね。
「えっと……顔はしっかり覚えてるんだけど、まだ名前、聞いてなかったような……」
(お仕事中なのに、事務的な言葉を使わずに、崩してしゃべってくれてる) ひむかは、親しげに接してくれるちかねを好意的に思う。
「あっ、私、ひむかって言います。 古河高校の1年生です」 はきはきと自己紹介をする。
「ひむかちゃん、ね。 そうね……まずは、ここでお守りとか見ていってよ」
ちかねに言われるがまま、並べられたお守りなどを眺めるひむか。
木彫りの表紙にウサギが象られた御朱印帳に、ウサギの絵が描かれた絵馬が2種類、そして……。
「これは何ですか?」 置物のようなアイテムを指差しながら、ちかねに尋ねると、 「あ、これは”弥栄守”っていうお守りよ。 繁栄を願うお守りだね。 これも両脇にウサギが象られてるよね」 と、にこにこしながら教えてくれる。
「授与所にもウサギがいっぱいですね、ここの神社。 参道にも、案内板にも……思ってた以上で、わくわくしてます」
「あら、喜んでくれて嬉しい~~。 紹介した甲斐があったなぁ」 ひむかの気持ちにしっかり共感するちかね。
「あっ、ちかねさん、変な事、訊いていいですか?」 声色を変えて、ひむかは切り出す。
「えっ?! どうしたの?」 ちかねはちょっと身を引きながら、話の続きを待つ。
「ここの神社では、撫でウサギと同じ姿かたちで、大きさが1mくらいあるぬいぐるみって、授与されてるんですか?」
「ううん、見た事も聞いた事も無いなぁ。 そういうものが市販されてる、っていうのも聞いた事無いし……。 そんなぬいぐるみがあるの?」 そう言うと、ちかねは授与所の中から出てくる。
「あ、いえ、ごめんなさい。 変な事訊いて。 今の質問は忘れてください!」 ひむかは話題を転換しようと、頭をフル回転する。
「わぁ~~、素敵! 巫女さんのお姿、ホント、似合ってますね」 上は白衣、下は緋色の袴を身にまとっている姿は、先日、文房具店で見掛けたビジネススタイルとはまた違うタイプの、キリッと引き締まった印象をひむかに与えている。
「もう~~、褒め上手なんだから~~」 と、照れ隠しのような笑顔で返すちかね。
どうやら、さっきの話題については、忘れてくれているようだ。
「私、この神社の本職巫女なの。 最初は立ち振る舞いに憧れて巫女になったんだけど、働くうちにもっとこの神社の事を好きになって……今は神職を目指して勉強中なのよ」
「えっ?! 巫女さんって、神職じゃないの?」
「そう。 巫女は資格が無くてもなれるけど、神職に就くには、資格が必要なんだぁ。 この神社で言うと、宮司が”明階”という資格を持ってるよ」
ひむかはちかねの志の強さをひしひしと感じ、 「へぇ~~、目標に向かって頑張ってるんですね! 凄いです!! ちかねさんは強い意志を持ってるから、きっと資格、取れますよ。 しかも美人だし……私、憧れます」 と、励ます。
「もぉ~~、そんなに褒めちぎっても、何も出ないよ、うふふ」 そう言いながらも、ちかねは授与所に戻り、小物を一つ取り出すと、 「これは私が昨日作ったばかりの、ウサギのイラスト付きの栞だよ。 はい、プレゼント。 読書のお供に使ってね。 あっ、これは縁起物じゃないから安心してね」 と言って、ひむかに渡す。
「わぁ~~、ありがとう、ちかねさん! 早速使います! ……あっ、もうこんな時間! そろそろ帰らなくちゃ……」 名残惜しくひむかがそう告げると、 「ようこそお参りくださいました。 道中お気を付けて、お帰り下さいませ」 ちかねは言葉を事務的なものに変え、腰を折って、深々と頭を下げる。
「良いお参りができました。ありがとうございました」 ひむかは心を満たされ、帰路に向かう。
神社でのお参りの風景を思い浮かべながら、ストーリーを組み立てました。
物語後半では、この神社が重要なポジションを占めるので、もっと色々と調べなきゃ。