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第7話

「スキル……【神聖】!!!」




少年の声を聞いた瞬間、鼓膜が弾けるような衝撃が走った。

まるで雷鳴。いや、それ以上だ。

音というよりも、“圧”だった。


耳鳴りが止まらない。

でも、それでも確かに聞こえた。

この世界でたったひとりしか持てないはずの、

【神聖】スキルの宣言。


頭の中で、何かが軋んだ。


——ありえない。


そう思いたかった。

だって、それは原作の最終ページで、やっと明かされた伏線。

しかも本編じゃない、“オマケ”のページ。

その隅っこに、小さな文字で、ただのネタのように書かれていた


「【神聖】スキルは、世界に一人しか所有できない」


という設定。


それが、今——

二人目が目の前にいる。


「……まさか。」


ありえない。

ありえない。

ありえない!!


だって、“神聖スキル”の持ち主はルーズベルだ。

彼が持ってるって、あの物語で……特別だと描かれてたじゃない。


じゃあ、これは……?


嘘?

演技?

騙されてる?

魔法の偽装?

ただのハッタリ?


でも、そうだとしても。


この光、この空気、この神々しさは——


否定できない。


まるで、世界の法則がその存在を祝福しているみたいに、

風が、光が、重力さえも、彼を中心に回り始めている気がした。


空が震える。

大地が脈打つ。

私の心臓は、ついていけない速度で暴れていた。


……どうして?

なにこれ?

こんなの、おかしい。


こんなの……おかしいのに、美しすぎる。


金色の瞳が瞬くたび、視界が焼かれる。

細く整った指先が空を撫でるだけで、空間が“従って”動いていく。


それはもう、“人間”の枠じゃなかった。


崇高で、完全で、完璧で、——“それっぽすぎる”。


視線を逸らしたいのに、逸らせなかった。

逃げたいのに、動けなかった。

瞳の奥が焼かれ、理性が融ける。

この世界の“前提”が、音を立てて崩れていく感覚が、確かに聞こえた。


そんな中で、ふと、声がした。


「彼女の思考を全て読みとけ」


それが、彼の声だったのか。

それとも、この空間そのものの声だったのか。

もう、分からなかった。


ただ、脳が、支配されていく。


恐怖で、思考が削られていく。

美しさで、心が奪われていく。

“彼”の存在そのものに、私は取り込まれていた。


鳥肌が立つ。全身が、ざわついている。


彼の瞳は、さっきまでの黄金の輝きを失っていた。

……普通に戻ってる。すごい真顔。めちゃくちゃこっち見てくる。


その視線の中で、私はゆっくりと真実のフタを開けてしまったことに気づいた。


この世界に神聖スキルの所有者が二人——

そんなはずない。そんなわけが、あるわけ——


あっ……!!


言いかけた言葉が、喉の奥で詰まった瞬間


「ほう。我以外にも所有していると述べる輩がおるのだな?」


……やっぱり、"思考を読みとく"って"私の考えてる事"が聞こえるってことね……。


焦りで顔がひくひくと引きつっている中、少年は大げさに片足をあげ、片腕を空へ突き出した。

な、なにそのポーズ……どっかで見た……某変身戦隊のやつ……?


「だが、小娘!!!」

「このスキルは世界でただひとりしか所有できないのであるッ!!!」

「つまり!!!!」


キラッッ✨

あからさまにどこかで効果音流れてそうな演出とともに、彼は——


「その輩は!!!」

「とんだ嘘つきということだあああああ!!!!」


ドヤァァァッ!!!と全身で表現するようなキメ顔。

なぜか風が吹いた。ポーズがバシィッとキマる。

でも……年齢相応すぎてツッコミが追いつかない。


なんなのこの子供……いや、神様……いや、子供……やっぱ神???


さっきまでの神聖すぎる雰囲気、どこに落としてきたの!?!?!?


笑いたいのに笑えない、でも笑っていいのか、

いやむしろこれは笑わなきゃダメなやつだ。


あまりのテンション差に、脳が追いつかない。

感謝と困惑と頭痛がぐるぐるしている中、私は小さく息を吐いた。


……この人と一緒にいるの、体力めちゃくちゃ削られるんだけど。


しかし、彼は私の考えを読める力を手にしたようだ。

もう、何を隠しても無駄だろう。

だから私は、恐る恐る、しかし正直に口を開いた。


「私はルーズベルって人が神聖スキルの所有者だと思うけど?」


その瞬間だった。


時間が“カチリ”と音を立てて切り替わった気がした。

目の前の少年の表情が、まるで綺麗な仮面を付けたように切り替わる。


……さっきまでの、おちゃらけたテンションの“愉快な少年”はいなかった。

見えているはずなのに、そこにいるのはまるで別の何か。


空気が変わる。音が消える。風が止む。

肌に触れる空気が数度下がったような錯覚。

肺に入る息すら、冷たく凍っていく。


黄金の瞳が、ギラリと光った。

あまりにも綺麗で、あまりにも冷たい。

まるで……刃物でできた宝石みたいだった。


その瞳が、まっすぐに私を見ていた。

笑いもない。驚きもない。怒りすら、そこにはなかった。

そこにあったのは、たったひとつの感情。


警戒――。


それは静かで、けれど強烈に私を射抜いてくるものだった。

背筋が凍る、とはまさにこのことだ。

見つめられているだけなのに、体温が急激に奪われていくような錯覚すら覚える。


「……そうか。知らないのか」


少年は小さく呟いた。

まるで、何かに納得したように。

でもその言葉の意味がわからない。


何を? 私は、何を知らないの……?


答えは返ってこない。

代わりに、少年がひとつ、問いを放った。


「小娘、もう一度問おう。――どこから来た?」


声は低く、静かで……底がまるで見えない。

そういう彼は私を“確認”しているようだった。


私という存在が、この世界にあってはならないと――

そう決めつけるような声にも聞こえた。


……


『どこから来た』

そう聞かれても、いきなりアユミに投げ捨てられた空間。

あれをなんと呼べばいいのか、そしてどこにあるのか。

いや、むしろ……本当に“ここ”は存在しているのかすら、わからなかった。


「そうか、小娘……異空間に飛ばされたのか」


少年は静かにそう呟いた。

その声はまるで――まるで全てを知っている者の、慈しみに満ちていた。


アレを異空間とまとめてもいいのか分からない。

箱庭?迷宮?幻覚?……それすら判断がつかないほど、私の感覚はもう曖昧だった。


「異空間に飛ばされた者には、ある共通点があるんだ」


少年はするりとしゃがみこみ、私の目の前へと近づく。

その仕草はとても静かで、優雅で、なのに一歩ごとに胸が締めつけられる。


視線が合う。

透き通った金色の瞳――いや、“金”なんて軽い言葉じゃ表せない。

それは神話の中から抜け出してきたような、絶対的な力の色だった。


眩しくて、怖くて、美しくて、逃げたくなるほどに完璧だった。


だけど、その神々しい唇から零れたのは……

私の常識をすべて溶かす、信じたくない“現実”だった。


「異空間に取り込まれた者は、時間軸がズレる。まるで、タイムリープしたかのように」




……タイムリープ?


言葉の意味はわかる。だけど、その“重さ”がすぐには受け止めきれなかった。

内臓を掴まれるような感覚が背筋を走り、皮膚の内側がぞわぞわと泡立つ。


「……今は、何年……?」


自分の声が震えていることに、気づいたのは質問を口にした直後だった。

でも止められなかった。知りたくなかったのに、尋ねずにはいられなかった。


少年の金色の瞳が、ふと曇る。

そして、まるで悼むように、ゆっくりと答えた。


「西暦4037年」




……4037年。


心臓が、大きく跳ねる。

いや、跳ねたというよりも、一瞬、止まった気さえした。

その直後、まるで氷水をぶちまけられたような冷気が、肺から心臓へ、そして脳へと駆け上がる。


耳鳴りがする。

視界の色が変わる。

現実が、遠のいていく。


「私は……西暦2030年にいた……」


口が勝手に言葉を吐いていた。

その声は自分のものとは思えない。乾いていて、遠くて、誰かの声みたいだった。


2000年。

私は、2000年の時を越えてしまった。


そんなはずがない。

そんなバカな話が……。

でも、あの異様な空間も、あの獣も、あの意味不明な地名も――


全部、全部……


“知らないはずだ”って思っていたもの全部が、ただの“未来の常識”だっただけ。


理解してしまった。

でも、それは“救い”じゃなかった。


理解してしまったからこそ、絶望があまりにも濃く、深く、心臓に突き刺さってくる。


まるで、土に生き埋めにされているような感覚。

呼吸ができない。視界がぼやけていく。

自分が崩れていく音が、頭の奥でガラガラと鳴っていた。


そう、私が今まで頑張ってきた理由。

たった一つの望み。


アーベルは……?


私の知っている、愛したあの物語の人たちは――


その先を思い浮かべようとした瞬間、心の奥にあった何かが、ぷつりと音を立てて切れた気がした。


考えたくない。

理解したくない。

だって、もう……すべてが変わってしまっていた。


どれだけ目の前の少年が綺麗でも、優しくても、

あの金色の瞳がどれほど温かく強く光っても、

この現実は、どうやったって変わらない。


たったひとりだけ取り残されて、たったひとりだけ知らない世界に迷い込んだ、異物。


私は――“異物”だった。


「……殺して、ください……」




自分の口から漏れたその声は、まるで他人の声のように遠く響いた。

鼓膜の奥で反響しながら、ひどく頼りなく、あまりにも小さくて……それでも確かに、言葉だった。


もともと死ぬ予定だったんだ。

アユミに殺されるつもりでいた。

2000年後だろうが、なんだろうが、もうどうでもいい。

死ねば、元に戻れるかもしれない。


もし、目の前の彼が私の心を読めるというのなら――


お願い、全部読んで。

胸の奥に仕舞い込んだ、あの絶望。

何度も何度も、夜の中で繰り返した悪夢。

喉が焼けるまで叫んだのに、誰にも届かなかった、あの声にならない悲鳴。

そして、すべての始まりだった、あの教室での最後の記憶。


全部、全部、知って。


そして……


私を……殺して




教室に、戻れるかもしれない。

もう戻れないとしても、それでもいい。

アーベルのいない、2000年後の世界で――

“私”なんかが生きる意味なんて、どこにも、ない。


そう願った私に、少年は何も言わなかった。


ただ、ほんの一瞬、顔をゆがめた。

その顔は、まるで――私の心をそのまま鏡に映したようだった。

あまりにも、苦しそうで、悲しそうで。

それを見た瞬間、また心が少しだけ、壊れた。


そして、彼はそっと、私の手を取った。


あたたかかった。


びっくりするほど、あたたかかった。

あたたかくて、やさしくて、柔らかくて、

今ここで死ぬには、あまりにも惜しい手のひらだった。


「……小娘の生死を、我が決めることはできぬ。だが、少しでも気持ちが晴れるのであれば…」




その言葉とともに、彼は静かに手を動かす。

空気の中に、光が走った。


パア、と、光の花が咲いたみたいだった。

空にゆっくり浮かぶように、やさしく、儚く、煌めく魔法陣。

淡い金の光が、粉雪のようにきらきらと舞っていた。

見とれるくらいに、美しくて……でも、それはまるで“天国”に向かう扉みたいだった。


「この脚じゃ……墓にすら行けぬだろう」




そう言って、彼が私の足首にそっと触れる。

まるでガラス細工を扱うみたいな、繊細な指先だった。


ゴリ、と音を立てて、ずれていた骨が、元に戻る。

痛みは、なかった。

ただ、ぬくもりだけが、残った。


私はそのぬくもりを――“最後のぬくもり”として、胸に刻もうとした。


そっと目を閉じると、瞼の裏にはアーベルの顔が浮かんだ。

微笑んでいた。

やさしい、あの笑顔で――


ごめんね。守れなくて。

ごめんね。救えなくて。


「ごめんね…」




その言葉とともに、ぽたりと涙がこぼれた。


ひとすじ、静かに。

その涙はとても、冷たくて、温かくて。

まるで、全ての感情が混ざりあった“最後の一滴”のようだった。


時計の針が止まり、

時間がゆっくりと溶けていく。

音も、色も、感情も、

すべてが透明になって、消えていくようだった――





……あれ?


私は――死んだはずだった。


あの光に包まれて、あの温かい手に触れて。

あのまま目を閉じて、終わるはずだったのに。


でも……目を開けたら。


そこには、さっきまでの荒れ果てた地獄のような世界も、獣も、少年の姿もなかった。


代わりに目の前に広がっていたのは――


信じられないほど広くて、やさしい草原だった。


どこまでも続く緑の大地。

視界を邪魔するものなんて何もなくて、空はどこまでも高くて青い。

澄みきった風が、ゆっくりと頬を撫でていく。

その風には匂いも音もあって、まるで、見えない歌を歌ってるみたいだった。


空気はやけに透明で、軽くて……胸の奥まで、すーっと吸い込める。

さっきまで、心臓を締めつけていた重さが、少しだけ和らいでいくのがわかった。


太陽の光はまぶしいのに、どこか温かくて、やわらかい。

怖くない。

どこまでも、やさしかった。


まるでこの場所が――

「今までよく頑張ったね」って、言ってくれているみたいだった。


私はゆっくりと、深く、息を吸った。


肺の奥がひりつくほど澄んだ空気を、思いっきり吸い込んだ。

そして、溜め込んでいた痛みが、棘のように胸の中で溶けていくのを感じた。

……少しだけ、涙が出そうだった。


こんなにも、穏やかで優しい世界があるなんて、知らなかった。


怖いくらいに、心が落ち着いている。

あんなに苦しくて、死ぬ覚悟までしたのに。

今は、ちょっとだけ――呼吸が、できる。


……やっぱり、あの子は私を殺せなかったんだ。


幼いから? それとも、ただ優しかっただけ?

……わからないけど、きっとそのどっちもなんだろうな。


そんなことを思う自分に、少しだけ反省する。

生きてる。私は、まだ生きてる。

この地面を、ちゃんと踏みしめている。


けれど、見渡しても、この場所には何もない。

原作に戻れる手段も、死ねる道具も、もう、どこにもない。


崖もない。刃物もない。

ただただ、広すぎるほど広い、大地と空と、風だけ。


……まるで夢の中みたいだ。


でもきっと、これは“現実”。

私は、ここにいて、まだ――生きてる。


……と、しばらく歩いたその先だった。

ぽつりと、視界に映る“異物”。


それは、大きな木。

風に揺れる枝葉が、やさしい音を奏でていた。

その根元に、ぽつりと苔むした石畳があった。

あまりにも静かで、ここだけ時間の流れが違っているようだった。


私は、その輪郭をなぞるように近づく。


不思議な感覚だった。

胸の奥がひりつくような、でも温もりに似た、奇妙な痛み。

気がつけば足が止まっていた。


……それは、墓だった。


「……ごめんね。誰のものか知らないけど、勝手に踏み込んで……」


ぽつりと呟いて、石に刻まれた名前に目を落とす。

でもその瞬間、世界が、音を失った。




アーベル・プイスト

ルーズベル・プイスト

ここに眠る




「……え……?」


目が霞んでいるのかと思った。何度も瞬きをする。

でも、刻まれた文字はそこにあった。消えない。

まるで、誰かが“事実”を私に突きつけるように。


「……やだ、やだやだやだ……そんなの、嘘だ……!」


ガタリ、と音を立てて膝が崩れた。

草の匂いが鼻を刺した。土の感触が手のひらを汚した。


「いやだ……あの二人は……生きてるって……!

主人公なんだから……奇跡だって起きるはずなのに……!!」


声が震える。叫んでいるのに、声にならない。

どれだけ否定しても、目の前の現実は変わらない。


ずっと心のどこかで信じてた。

アーベルは、きっと生きてるって。

ルーズベルも、どこかでまた現れるって。

そうじゃなきゃ、私がやってきたこと全部……意味がなくなるから……!


でも、墓は――どこまでも、静かだった。


「……アーベル……っ……守れなくて……ごめんなさい……!!!」


その瞬間、張り詰めていた何かが壊れた。

声にならない声。

止まらない嗚咽。

涙が、喉が、身体ごと引き裂かれるみたいに、止まらない。


でも。


それでも――空は、青かった。

どこまでも高くて、吸い込まれそうで。

風は、あの日と同じように、やさしく頬を撫でてくれた。

草原は、私の膝に広がる泥さえも、静かに包み込んでくれた。


あまりにも、優しかった。


まるでこの世界そのものが、「泣いていいよ」と、そう言ってくれているみたいに。


「こんなの……ひどい……ひどすぎるよ……!!」


どれだけ叫んでも、空は穏やかだった。

どれだけ涙を流しても、風はやさしかった。


たぶん――

あの少年は、知っていたんだ。

この墓があることも、アーベルとルーズベルがここに“いる”ことも。


だからせめて、私はその“近く”に、転送されたんだ。


この広い世界で、たったひとつだけ、マユが辿り着くべき場所に。


「う、ぁ……ぁぁぁぁぁ……!!!」


私は、日が暮れるまで泣き続けた。

どれだけ涙を流しても、アーベルは返ってこなかったけど。

それでも、草原のあたたかさが、ひとときだけ私を抱きしめてくれた。


世界はもう終わってる。

でも、こんなにも優しい終わり方があるなんて……私は、知らなかった。


そして――


涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、私は空を睨んだ。

まだ、風はやさしく吹いている。

まるで、私の決意を待っていたかのように。


……そうか。

こんなに苦しくて、全部奪われたからこそ、私は今ここにいる。

ここから、始めるしかない。


心が焦げて、魂が軋んで、ずっと――私はアユミに壊され続けていた。

「原作通り」の呪いに、縋るしかなかった。

だって、それだけが自分自身が生き残る唯一の“救い”だったから。


でも――


こんな未来、ふざけるなって話だろうが!!!!


アーベルが死ぬ原作なんて、クソくらえだ。

ルーズベルが報われない物語なんて、誰が読んで納得する?

誰が喜ぶの? 誰が感動すると思ってるの!?

私の知ってる物語は――

私が“愛した”物語は――

こんな幕切れじゃない。絶対に、違う。


だから。


私は、やる。

今度こそ、本当に自分の意志で。

「原作通り」なんてクソ喰らえ。

私が、塗り替えてやる。

私が、書き換えてやる。


アーベルとルーズベルが生きる世界を。

幸せになれる世界を。

どんな犠牲を払ってでも、誰が敵になっても――

私が、作る。

私の手で。


その決意を、心の奥深くに、爪を立てて刻みつけるように。

私は、二人の墓に勢いよく額を打ち付けた。


「――絶対に、やり直してみせるから」


痛みが走る。

鈍くて、生々しくて、でも温かい。

生きている証。

感情を抱いて、決意して、今ここに立っているという証。


アユミ。

あなたが否定した世界を――

私が、認めさせてやる。


アーベルとルーズベルの“物語”を。

この手で、取り戻すんだ。

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