第2話
物語が始まった。
それはそれでいいが、やはりヲタクとして推しが活躍するシーンを見ない訳には行かない。
だが、さすがにモブである私がいきなり戦場に出たら一発で死んでしまう。
悩んだ末に出た結果。
めちゃくちゃ遠い場所から望遠鏡か何かで覗こう!
アホだと思うだろう。馬鹿だと思うだろう。
だが、自分の身を守り、なおかつ推しの姿を見るにはそれしかないと思う。
いや、それがいい!!
そして私を転生させてくれた神様は丁度いいことに、モブの特有スキル【創造】だった。
超カミサマまじでありがとー!!ラブラブちゅっちゅ!
と、罰当たりにあっても仕方がない行動をしながらルンルンに体育館から出た。
そして案の定、罰が当たった。
目の前からルーズベルの攻撃に耐えられなくなった学校の瓦礫がぶっ込んできた。
カミサマ、これはあまりにも非人道的では?!
そして潰れた。
潰れた。と認識しているから、まだ意識はあるんだろう。
にしても痛くない。まるで寝てるだけみたいだ。
じゃあ起きたらどうなる?と、思い。重い体を起こしてみる。
「うわ、気持ち悪」
視界いっぱいには泥水のようなものが1面と広がっていた。
何が起こってるのか分からない。
が、生きてる?なら丁度いい。さてさて、遠くから推しを眺めようではないか!
しめしめとグラウンドに出ようとすると、いるはずもないキャラクターが居た。
そう、推し達だ。
「お願い!アーベル!体育館に来て!お願い!」
ナズナちゃんがアーベルを引っ張っている…。
ど、どういう事だ?こんなシーン見た事ない。
私が転生した事によって変わったのか?
いやいや、ただのモブである私が生きようが死のうが変わらないだろう。
というか、1回死んだだろうが。
何が起こってるんだ?!?!
私は咄嗟に物陰に隠れて推しを観察した。
「ナズナ…おい!いきなり手を掴むな!」
うっわ尊すぎるだろ。手を掴んだだけであんな赤面する?何あれ赤ちゃん?
「ご、ごめん!でもお願い!貴方はまだルーズベルに会うべきじゃないの!」
ん?会うべきじゃない?ナズナちゃんはそんな口調だったか?私の知ってるナズナちゃんだったら…『ごめん、それでもお願い!アーベルはまだ彼に会っちゃダメなの!!』だと思うんだが…これも私の介入によって変わったのか?
モブが生きようが死のうが…関係ないと思ったのは私だけか…?
すると違和感が確信に変わるようなセリフがナズナちゃんから聞こえた。
「そん、そんな赤面しないで、尊すぎる!!」
衝撃が走った。
おい、おいおい。
待て待て待て!!!!
私の知ってるナズナちゃんはそんな事言わない!!!!
「お願い!ちゃんと走って!今は逃げて!!体育館なら安全だから!!」
確証すぎる。
絶対にこのナズナちゃんは、私と同じ転生者だ…!
こんの糞アマ…!原作者が作り上げた完璧な物語を汚そうだなんて…、てめぇの推しがアーベルで、将来的には死んでしまうとしても…、生みの親である作者が決めた綺麗な終わり方を…ただのヲタクが、汚していい訳ねぇだろうが!!!!
産まれて初めて…いや、転生して初めての殺意が沸いた。そして覚悟を決めた。
原作の流れを狂わせるもう1人の転生者を正し、物語を元通りに戻してやる…。
いや、原作を守る!!!
私の私が私だけが愛するこの世界を守るためにも、転生者のクソ女には立場ってモノを分からせないといけないよね……?
あの足りない体力から出る瞬発力とは思えない速さでメインヒロインである女の首根っこを掴む。
フーフーと獣のように息を切らしながら、言葉を詰まらせながらも脅す。
「…っ、、この……クソ女っ!!はぁ……っ、はっ…、ぁアーベル様から、離れろ!!……勘違いヲタクが。」
彼女は、こんなキャラ居たっけ?とも言いたげな表情で私を見る。
「そういえば転生モノの物語だと、主人公が死ぬとリセットするみたいだよ?死に戻りってヤツ?……実際にやってみてよっか?」
汗だくの状態でニコッと笑うが、私の瞳にはただただ、怒りしかない。
冷静では無い。メタ発言だけど、転生したこの世界……リアルでもそんな事できるのかだなんて聞くまでもない。
だが、私には作品に対する愛がある。
この素敵な作品が変に変わるぐらいなら、死んだ方がマシだ。
私は強く彼女の首を絞め続ける。
カハッと可愛らしいナズナの顔が歪む。
すると私の手をナズナから引き剥がそうとするアーベルが居た。
可愛らしい。でも物語序盤の君は貧弱だから、殴りかかって来ようが、何も感じないんだよ〜!
というか殴るという選択を選んだ事にすら愛おしく感じる。
私はつい感極まって両頬に手を添え
「はぁ〜マジ推し尊すぎる〜」
と失言してしまった。
アーベルもナズナもポカーンとした顔でこちらを向く。
冷や汗をかきながらも、見苦しい言い訳をする
「あ、ぁあ〜、推し……は押し!そう!私って何かを押すことで、興奮しちゃうんだよね!」
変なポーズを取っていたら、後ろから白い光が伸びる。その衝撃に私の髪の毛は少しチリチリと焼けた。
この攻撃……ルーズベル、か。
はは、私を殺す気満々じゃないですか…。
しかも私が変なポーズを取ったことによって、白い光はナズナの頭を直撃していた。
割れたスイカのように、赤い液体が飛び散っていた。
そして気がつけば…
最初のスタート地点、教室になっていた。
原作通りに死んでください!!略して“げんしね”Twitter:@Booze_0917でイメージイラスト投稿してるよ〜見てね!