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おまけ話

【アユミ】


幼い頃から、私は仮面をつけて生きていた。

家族の前では「いい子」の仮面。

高校では「優等生」の仮面。

友達といる時は「明るくて優しい子」の仮面。

――気づけば、自分がどれなのかなんて分からなくなっていた。


そんな仮面を、一時だけでも剥がしてくれたのが“アニメ”だった。

アニメを観ていると、心の奥に沈めていた感情が勝手に溢れてきて、

ようやく「自分」を取り戻せる気がした。


その中でも、『レゾナンス・リンク』は特別だった。

登場人物が次々と不幸になり、絶望し、壊れていく。

救いのない展開に、なぜか心が震えた。


「私もこの世界で、一緒に苦しんで、死にたい」


そんな風に思ってしまうほど、あの作品だけは、仮面じゃない“私”で観ていられた。


それから私は『レゾナンス・リンク』の虜になった。

漫画は全巻揃え、アニメは何十回も見返し、作者のSNSも毎日チェックした。

グッズもすべてコンプリートした。

物語に登場する小道具や衣装を自分で作っては、愛でた。


お金が足りないときは、ゴミ捨て場から壊れた家具を拾って修理し、中古屋に売って…

どうにかして、この作品への“愛”を貫こうとした。

そして私は自分の愛が“正しい”と信じていた。


その日も、いつも通りSNSで『レゾナンス・リンク』のファンアートを巡っていた。

そして、見つけてしまった。

アーベルが、見知らぬ女と抱き合っている――そんなイラストを。


その女は、原作のモブキャラですらない。

ましてや作者が生み出したキャラクターでもない。

投稿者の「オリジナルキャラ」だった。


その時、私は初めて“夢絵”という文化を知った。

そして同時に、それを描き、楽しんでいる人間たちへの猛烈な嫌悪感がこみ上げた。


そのアカウントは、他にもBL絵を投稿していた。

アーベルと、ルーズベルと、他のキャラたちが…愛し合っている風に描かれていた。


――あり得ない。許せない。

原作にはそんな描写、一言もない。

作者はそんな関係を、一度たりとも描いていない。


それなのに、その人間は好き勝手に言葉を綴り、セリフを作り、

存在しないシーンを捏造していた。


まるで、自分の欲望をキャラクターに着せているだけだった。

その姿が、滑稽で、醜くて、吐き気がするほど憎かった。


そして、その投稿者の名前は――

@mayu_Aebell




     ∧ ∧

 ( _(,,・∀・)

 ⊆__つつ




【マユ】


私は、どこにでもいる普通の大学生だった。

ちょっとだけ芸術が好きで、絵を描くのが得意なだけの、よくいるタイプ。


だけどこんなヲタクな姿を他の人には見せられない。

馬鹿にされたくない。舐められたくない。

いじめられたくない……。


その為に、服もメイクも流行りをなぞって整える。

話し方も仕草も、人気インフルエンサーを真似る。

気づけば、私は大学の“陽キャ一軍”と呼ばれる立場にいた。


「“自分らしさ”って何?」


ふとした瞬間に、自分に問いかける。


本性を隠すとは言えど、トレンドを追うのも好きだ。

でも、誰かが決めた“好き”だけじゃ、私は満たされなかった。

本当に私が惹かれるものを知りたくて、初めてアニメに手を伸ばした。


出会った作品は【レゾナンス・リンク】。

可愛らしい絵柄とは裏腹に、胸を抉られるようなストーリー。

極限まで追い詰められる主人公・アーベル。

彼の苦しみ、孤独、優しさ、そして…救われない結末。


──それでも彼は、あまりにも美しかった。


私は、気づけばガチ恋していた。

現実では発散できない妄想や愛を全てSNSに吐き出した。


絵を描いて、描いて、描きまくった。


誰よりも幸せそうなアーベルを。

本編で叶わなかった、ほんの少しの笑顔を。

投稿したイラストは徐々に反響を呼び、「救いがある」と、称賛された。


──そうだよね。

みんなも、アーベルの幸せが見たいんだよね?


…でも。


ある日、ひとつのコメントがついた。

「その作品、もう描かないで」


タグも付けてない。

最低限のマナーも守ってた。

ただ、アーベルを幸せにしたかっただけなのに。


──なんで?

私の“好き”は、誰かを傷つけることだったの?

ようやく私らしさを見つけられたと思っていたのに……


そんなコメントをしたアカウント名は、

@A___yumi

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