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第1話

好きな作品がある。

その作品には好きなキャラクターがいる。

それを世間は推しと呼ぶ。

私の推しは、正義感だらけで不幸になるキャラと、歪んだ倫理観を持った狂気的なキャラ。

まぁ、簡単に言えば─




主人公とラスボスが推し…なんだよね。




──────────




ペラペラと読み慣れた漫画を流し見する。

昔から読んでいるこの漫画は、すっかり私の部屋の匂いになっているが、表紙などは日焼けもせず、新品同様の品質を保っている。

私が推している漫画の題名は


【レゾナンス・リンク】


現代の社会がメインだが魔法も発展している王道ファンタジー。

結構、設定とか凝っていて作者の呟きを追わないと理解できない程の読者に寄り添わないとんでもない漫画。


ページをめくり、目を瞑る。

瞼に映るのは、そのページのシーンやセリフ。

答え合わせをするように目を開く。

こうやって私は全てのシーンを暗記していた。

すっかり私の匂いになっている本から微かに感じる、インクの匂い。

それを嗅いでは、彼達の匂いと錯覚させる。


『アーベル!まだ…生きてる……!』


アニメで放送された時のように、声優の抑揚を真似てメインヒロインのセリフを呟く。


『どうしていつも、自分で背負おうとするの。私にも頼ってよ…』


主人公を主人公とさせる為のセリフを全て覚えている。

当たり前だ。

なぜなら私はこの作品の重度のヲタクなのだ。




主人公の名前は【アーベル】。

彼は、ものすごく真面目でクール。

でも毒舌キャラってのがとっても素敵!

更にギャップ萌えが加速する設定なんだけど…

女性耐性が皆無ってのが…最っ高に可愛いの!

彼の有名なセリフは


『君の事をもっと知りたいと思った。これが愛ってヤツなのかな…?』


女性耐性が無いキャラクターがこのセリフ言うのが…萌え…る!!

しかも主人公特典モリモリのスキル!

【境界線】…!

スキル名すらセンスの良さを感じる…!


このスキルは簡単に言えば他人との心の距離感によって力量が変わるの。

彼はいつも全ての物体に距離をとるの。

だから最初はクッソ雑魚!

本心を見られたくないからなんだろうなぁ…

可哀想可愛い♡


ちなみに!

オマケ設定だけど、スキルと魔法は別物の設定らしい!

スキルは自身の感情や心が力の源!

だけど魔法は世界に浮遊している粒子が集まってできるものみたい!

しかもこれは作者呟き情報、ガチヲタクしか分からない情報なんだよ…!


『アナタの言う事なんて聞かないわ!!言ってる事も滅茶苦茶だし、アナタからは愛を感じないもの!!!』


アニメではまだ未放送だが、メインヒロインの気持ちに寄り添って、セリフを叫ぶ。


『もっとちゃんと…話し合うべきだったね…。』


ラスボスをラスボスとさせる為のセリフを全て覚えている。

当たり前だ。

なぜなら私はラスボスも推しているからだ。




ラスボスの名前は【ルーズベル】。

彼は、ものすごく狂気的で楽観的。

でも過去の闇を抱えているってのがとっても素敵!

更にギャップ萌えが加速する設定が…

こちらもまた、女性耐性が皆無ってのが…最っ高に可愛いの!

彼の有名なセリフは


『この僕が君を好いているんだ。喜ばしい事だろう?』


狂気的なキャラクターに上から目線…萌え…る!!

そして当たり前だが、ラスボスは最強スキルを持ってるってのがお決まりだよね!

その名も〜【神聖】!!


このスキルを簡単に説明したら、これ欲しい!って思ったら手に入るみたい!

基本的になんでも手に入るっぽいけど、人の心とかに関係するものは動かせないみたい。

彼が1番欲しがってるのは、対等な愛なのに……!はぁ〜不憫可愛い〜♡


お察しのいい読者はもう察するであろう。

そう、この主人公とラスボスは双子なんだ。

そんでもって重要のメインヒロインは、王道の幼なじみ!最高だとは思わないかい?


愛に浸りながら微かに感じるインクの匂いを嗅ぐ。

彼達の匂いと錯覚させる。




──────────




錯覚だと良かった。

ここは、私が大好きだった“王道胸糞漫画”の世界では…?


辺りを見回すと、知らない教室の席に座っていた。


「アーベル、今日も体育お休みなの?」


そして聞き覚えのある声に自然と口が動いてしまうセリフ。


「あぁ、今日も気分が向かないんだ。だからどっか行け、しっしっ」


彼等が彼等である為に必死に覚えたセリフ。


「もう、いつもそう言って先生を困らせるんだから!」


振り返るとそこに居たのはメインヒロインである


【ナズナ】


そしてこの画角……

シーンを隅々まで覚えた私ならわかる。

そう、私が座っているここの位置は…序盤で死ぬ


モブ!!!!


「おい、ナズナ…窓を見ろ。」


そして何度も何度も何度も繰り返し繰り返し繰り返し見て覚えて暗記したこのセリフの次に…


「あれ…グラウンドに立ってるのって…ルーズベル…?」


物語が始まって、このクラスのモブは全員ルーズベルに殺されるんだ…!!!!




一瞬で理解した、現在の状況。

私は咄嗟に教室から出て、唯一の安全場所であった体育館へ向かう。

息を切らし、思ったより足りない体力で叫ぶ


「やっぱリアルだとビジュアルの破壊力段違いすぎるー!」


心臓が爆発しそうなほどバクバクして、視界がチカチカしてるのに、嬉しくてたまらない。

推しに出会えた歓喜と、死ぬかもしれない恐怖がぐちゃぐちゃに絡み合って、

涙が出るほどの幸福感が喉の奥から込み上げてくる。


走る。走って、走って、走って、それでも足りない。

この高揚を伝えきれない。

だから踊る。


スキップ。


ターン。


ステップ。


全身を使って、世界に“ありがとう”を叫んでる。

周囲の視線?

クラスメイトの引いた顔?

──知らないよ。

だってこれは、“物語のはじまり”なんだから。


そう、待ちに待った運命の日。

私はこの日のために生まれてきた。

私がこの作品を愛したから、今がある。

体育館の扉を押し開けた瞬間、


ガシャアアアアン!!


と響くガラスの割れる音。

クラスメイトの悲鳴。

逃げ惑う足音。

こだまする絶望。

その音すら愛おしい。

それら全てが、私の心に、まるで拍手喝采のように鳴り響く。


目が爛々と輝く。

胸が熱くてたまらない。

口元が自然と歪む。

あまりの幸福に、少し笑いが止まらない。



「さぁ、物語が始まる。」





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