いちわ
「ごめんなさいね。笠寺さんはそこはかとなくいい人だけど、それ以上ではないわ。」
あぁ...
「ご、ごめんね!笠寺さんはそこはかとなくいい人だけど私は小萩ちゃん一筋だから!」
あぁ、またか。
「か、笠寺さん....あなたはそこはかとなくいいひと...です。でも...そこはかとないっていうのはあなたである必要がないってこと...なんですよ。」
あぁ...
ーピロピロピロピロピロピロピロピロピロー
よく晴れた春の日、幾度とない敗北の末についに親友にまでフラれた。そのあとだ。私(笠寺 愛)が謎の着信音と白い光に包まれたのは。
「「おお」」
「召喚成功です。聖女様!」
まぶしくて閉じた目を開けるとそこは見たことのない様式の聖堂だった。
「勇者様の召還に成功です!これで世界を救えますね!聖女様!」
「いいえ。残念ながらシスター。この方は勇者ではありません。」
「そ、そんな!おお神よ...」
「この方からはそこはかとない善性とそこはかとない才能を感じます。凡庸で人畜無害、いれば助かるがいなくても問題ない人物です。いうなればそこはかとなく善良な一般人です。」
「「おお神よ!」」
白い少女には幾度となく聞いた評価を下され、私を取り囲む修道女たちには神に嘆かれた。
「この方に亜神討伐を任ずるのは酷です。この方にはご足労いただいただけの謝礼とこの世界で路頭に迷わないよう指南を。この方ならば自由にしていても問題は起きません。」
「承知いたしました。」
「私からはこの世界で祝福を得られるよう洗礼名を与えます。『聖リリアナより汝に名をささげる。「ソコハ=カトナイ」』」
「「ソコハ=カトナイに祝福があらんことを」」
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笠寺・ソコハ=カトナイ・愛 は数多の疑問や反論を口にできないまま別室へと通された。聖堂の大部屋と比べるといささか質素な部屋に数人のシスターと笠寺。
「あの、状況をまだ呑み込めていないのですが...」
「それも当然のことです来訪者様。あなたが満足するだけの説明をお約束いたします。が、その前に。」
「世界の危機に駆けつけてくださり誠にありがとうございます。こちら、お気持ち程度ですが、謝礼になります。どうぞお受け取りください。」
「???(受け取る)」
「来訪者様。戸籍登録のためにお名前と年齢をこちらにお願いいたします。」
「??はい?(笠寺 愛 カサデラ イト 17歳...と...)」
「笠寺 愛様ですね。洗礼名と併せて「笠寺 ソコハ=カトナイ 愛」様と登録いたします。」
「あ、ありがとうございます。」
「では、笠寺様の疑問にお答えいたしましょう。まずはこの状況に関してですが...」
・ここはアコアガイアの白百合聖国というらしい。アコアガイアは一つの大陸のようなもので白百合聖国はその中央に位置する国らしい。
・アコアガイアは現在海からの侵攻を受けていて、臨海国がその防衛、内陸国がその支援、最も海から離れた白百合聖国が支援と反攻のための準備を行っているらしい。
・海からの侵攻というのも海の亜神が神への昇格のために神格集めに突然攻めてきたらしい。
☆反攻(海の亜神の討伐)のために白百合聖国の首脳である6人の聖女が勇者を召還していて、残るはリリアナ様の勇者だけらしい。
「なぜリリアナ様だけまだ勇者を召還できていないのでしょうか?」
「リリアナ様はまだ若く、異世界の勇者様との縁が乏しいのです。そのため召還が非常に困難なのです。」
「もしかして、私以外にも一般人ばかり召還してるとか?」
「いえ、召喚の成功は笠寺様が初めてです。」
「にしては、対応が手馴れていたような...」
「普段孤児院を卒業する子たちと同じ対応なのです。」
「な、なるほど...」
「ち、ちなみにほかの勇者というのは...?」
「まだ私たちにも詳細は知らされてはいませんが、リリス様が光の巨人を、リリヤ様が仮面の改造人間を、リリカ様が勇猛な赤き戦士を、リリム様が聡明な青き戦士を、リリン様が調和の緑き戦士を招かれ、協力を取り付けたそうです。」
「な、なるほど...」
「あ、元の世界での私ってどうなったんですか?」
「リリアナ様の計らいでつじつまが合うようになされました。」
「というと?」
「洗礼名、ソコハ=カトナイ、「そこはかとない」とは、「そこに誰がいるのかわからない」という分から生まれた慣用句で、「なんとなく、おぼろげな」という意味です。」
「つまり?」
「元の世界ではだれもあなたのことを思い出せず、悲しむことはないでしょう。」
「つまり?存在の抹消ってことですか?じ、呪名?」
「祝福と呪いは紙一重、表裏一体、そういう捉え方もあるのでしょう。未練や悔いがあれば、そちらの部屋で聞きますよ?」(懺悔室)
「大丈夫です」
「今後のことなのですが、当面は謝礼金で生計を立てていただきます。その後はこちらで斡旋するか、ご自身で縁で、職についていただきます。」
「世間のことがさっぱりわからないのですが。」
「その点は心配いりません。修道女見習のマリヤ。」
「はいっ」
「この娘が笠寺様のサポートをいたします。マリヤは院ではなく街の生まれでサポートに不足はないでしょう。」
「よ、よろしくお願いいたしますっ」
「はい、よろしくお願いします...」
「ところで、元の世界でのご職業は?」
「学生です。」
「学生?たしか、17歳...何か特殊なご勉強を?」
「(シスターっ詮索してはいけませんっ おそらくむsy...
「裁縫!裁縫が得意です。」
「では、針子の職を見繕っておきますね。」
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「ここが笠寺様に住んでいただく宿ですっ。わたしは隣の部屋いるので、御用の際やお出かけの際は壁を叩いていただければお伺いますっ」
笠寺はマリヤに聖堂から出てしばらく歩いた石造の住宅街の小綺麗な長屋に案内された。
「堅苦しいので、笠寺か、愛でいいですよ。今日は一人で気持ちの整理をしたいからもう休ませてもらいますね。」
「はいっおやすみなさいませ笠寺さんっ」
「おやすみ、マリヤ。」
不思議とこれまでのこと、元の世界に未練はなかった。笠寺は一人でベッドに伏しながらしばらく今の状況とこれからのことに頭を悩ませていた。とりあえず、一般人としての生活は保障されるみたい。
「...うーん、落ち着かない...外の空気を吸いに行こう」
バンバンバン!笠寺は壁を叩いた。
ガタガタドタドタ...あわただしい物音をさせながらマリヤがやってきた。
「何か御用ですかっ?」
「ちょっと外の空気を吸いに行ってきます。」
「こんな時間にですかっ?もう日は沈んでいますよっ」
「あ、もしかして、治安が悪いとか?それとも、夜は悪魔の時間とかですか?」
「いえ、この辺りはリリアナ様のお膝元なので治安に問題はない、かとおもしますっ悪魔はあったことないですっ。」
「じゃあ行きましょう。」
「あぁっちょっと待ってください!夜中に出歩いてるって噂が広まると不純とされて嫁に行けなくなりますよっ...ってあぁっ!もう外に出ちゃってるっ!」
笠寺とアリヤは月明かりの中川沿いの道を散歩していた。
「うーんっあ゛~...はぁ。やっぱり春の夜の散歩は気持ちいいですね。」
「誰かに見られる前に早く帰りましょうよっ笠寺さんっ...」
「え?どうしてですか?」
「それはさっきも言ったんですがっ!夜中に出歩いてると...」
「「異世界からの来訪者笠寺愛!!!こんな夜中にのこのこと出歩くとは迂闊なり!!」」
笠寺とアリヤは気が付くと突如現れた黒ずくめの修道女集団に包囲された。
「お、お前たちはっ」「知っているんですか?!アリヤ?」
「「「その通り!我々は裏協会なり!海の神を拝するガイアの反逆者なり!」」」
「なんだとっ」「何が目的なんですか!?」
「聖女の切り札たる来訪者を捕らえて海の神マーレへと捧げるのだ!」
「6人目の勇者召喚の阻止にも失敗したがそれをみすみす逃すとは愚かなり!」
「捕らえよ!マーレの邪魔をするガイアを挫くのだ!」
「そうはさせないっ!これでも私は協会の一員ですっ!私が時間を稼ぎますっ笠寺さんは急いで協会へっ!」
「その必要はありません。ここは私が何とかしましょう。」
「笠寺さんっ!もしかして実は勇者様としての力を隠していたのですかっ??」
「相手は小娘二人とは言えど来訪者はそこはかとない才能を感じる相手だ!」
「警戒しろ!一人ではかかるな!複数人で同時にかかるのだ!!」
「『大地の神ガイアよ聖女リリアナより賜りしソコハ=カトナイの名をもって欲するー私に苦境を打破する祝福を与えたもう』」
その時、笠寺の体が白い光に包まれた。
笠寺は1人2人と殴り倒し、マリヤは1人を打ち倒し....捕まった。
笠寺 愛:本作主人公 そこはかとなくいい人。17さい。
マリヤ:修道女見習 語尾に「っ」をつける。14さい。
聖女リリアナ:大地の神ガイアを拝する教会の聖女。12さい。
大地の神ガイア:人々の信仰による力を聖女や修道女を介して祝福として分け与えている。
海の亜神マーレ:海人という種族や臨海部など一部人間に信仰されている。神格、力はガイアに大きく劣る。
変身ヒーローの5人以外は全員女です。