砂の惑星
最初、惑星の上空をオーロラ号が飛行しているとき、シリカガラスの窓から見えたのは、茫漠たる砂の広がりだった。
「窒素と酸素の比率も問題ない。宇宙服は必要ないな」
操縦席に組み込まれたモニター画面の大気組成の数値を見て、ダンが言った。
「地軸の傾きも公転軌道の直径もまるで太陽系の地球だ」
操縦スティックを握るリュウがこたえた。
窓からは、何処までも続く砂の堆積が見えた。リュウは、傾斜のない砂地を見つけると、船を減速し、ロケットを噴射させて、ゆっくりと船体を下降させた。
着地したオーロラ号の船体から自動観測装置のアームが伸びて、地形分析を始める。船体中央部分のドアが開き、タラップが地表に伸びた。
「あれは、なんだ?」
地表に降りたダンが言った。
砂の地表から、明らかに人工物と思われるものが現れていた。塔のように見える。
「なにかの観測装置か?」
リュウが近づきながら、言った。二人がその構造物に近づいてみると、表面は金属質の灰色で、砂に埋もれている部分が下まで続いているようだった。周囲を見まわすと、同じように構造物がいくつも砂から突き出ていた。
「これは……」
ダンが言った。
「建物じゃないのか。都市だ。都市が砂に埋もれている……」
この惑星の太陽の直射を浴びた構造物は、影を砂の上に落としていた。砂にまみれて構造物の表面に人の背丈ほどの開口部が認められた。二人は、躊躇なく、そのなかへ入った。内部は、暗く、低い機械音が聞こえていた。通路を進んだところに仕切りがあり、レバーハンドルのついた扉のある、大きな装置が据えられていた。
「……これは……」
ダンが息を飲んだ。リュウが扉のほこりを指でぬぐうと、その金属製の扉には図案化されたDNAの二重らせんの絵が表示されていた。そのとき、二人が背後の物音に気付いて振り返ると、長い髪の若い娘が立っていた。
オーロラ号は、惑星の大気圏を突き抜けて漆黒の宇宙空間を飛行していた。リュウが操縦スティックを握る隣では、ダンが母船エウロパとの接触コースの数値をキーボードに打ち込んでいた。
娘は、二人の後ろのシートに座っていた。ダンとリュウが話しかけても、娘は言葉を発しなかった。
「エウロパに戻ったら、ドクターに診てもらおう」
と、ダンが言った。
「あの遺伝子の冷蔵庫には……」
リュウが言った。
「たぶんあの都市に住んでいた住民の遺伝子情報がすべて保存されていたんだ。惑星の文明を残そうとしたんだろう。だか、なんらかの理由でそれは成功しなかった」
「気候の変動……あの砂漠化か?」
「そうかもしれんが、他の理由かもしれん。わからん……」
ダンがシートに座った娘を振り返っていった。
「この子が何かを知っているかな」
「母船に戻ったら、探査報告のなんらかの結論を出さなくてはならない」
リュウが言うと、
「この子が遺伝子情報からのクローンである可能性も含めての結論か?」
とダンが訊いた。
リュウは頷いた。
娘は、窓の外に拡がる銀河の輝きを黙って見つめていた。やがて、その視界には、母船エウロパの円筒形の船体が迫ってきた。
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