契約者同士の戦い
ユミたちが帰った後、ハルは一人で考えこみユミの言葉を思い出していた。
「表向きは研究って言ってるけど、本当は人体実験みたいなものよ」
(実験……まだ私の知らないことがたくさんあるんだな)
ハルは頬をぱんっと叩き、パソコンに向かった。
「考えてもしかたない! 少し自分で調べてみるか」
ハルがパソコンを見ていると、いくつかの研究所がヒットした。
「へぇー。研究所っていろいろあるのね。この中のどれがユミちゃんたちを狙っているのかしら。でも、詳しいことは何も書かれていないわね」
ハルがパソコンとにらめっこしているのを、ユキがこっそり見ていた。
「ハル殿……」
「おい、ユキ。そんなところで何してるんだ?」
ちょうど風呂からあがったマサが、ユキに話しかける。ユキは驚いて、わたわた慌てだした。
「な、なんでもありませぬ!」
「いや、絶対何かあるだろ。しかもここってハルの部屋じゃねえか」
二人が話していると、ガチャッとドアが開いた。そして、ハルが顔を半分覗かせる。
「ちょっと二人とも、何話してるのよ。中まで聞こえてきたよ?」
「あ、あのハル殿。明日ハル殿はバイトとやらがお休みであろう? だから皆でお出かけいたしませぬか? なんかいろいろ考えこんでいらっしゃったらしいので」
「ユキ……」
「あんた、そんなこと考えてたのか」
マサがはぁーとため息をついた。ユキの言葉にハルはくすりと笑った。
「ありがとう、ユキ。そうだね、明日はどこか行こうか」
そう言うと、ユキの顔がぱぁっと明るくなった。それを見てマサもくすりと笑う。ハルはユキの頭をよしよしと撫でた。
次の日、ハルたちは公園へと出かけていた。マサとユキは頭に帽子を被っている。
「うーん! 久しぶりにこんなのんびりしたなー。この頃、いろいろ考えちゃったしね」
「まぁ、ここんところ騒がしかったしな」
三人がベンチに座っていると、公園の入り口から誰かが入ってきた。
「脱走者とアニマ狩り、みーっけ!」
「へぇー。契約者って女なんだな。これなら楽勝なんじゃないか?」
ハルたちに向かってきたのは、一人の男性と、マサと同じ猫耳が生えたナイスバディな女性と、翼の生えた男性だった。
「おい、誰だよ。休みにお出かけしようって言った奴」
「す、すみませぬ……」
「あ、そっか。アニマ同士は気配でわかるんだっけ」
ハルたちが話していると、猫の女性が間に割って入った。
「ちょっと、私たちを無視しないでよね! あんたたちを倒せば私たちも一躍有名になるかもしれないじゃない。ね、イグ」
イグと呼ばれた翼の男性は、すぐそっぽを向いた。
「俺には関係ない。早くすませてしまおう」
「そうだね、じゃあ先手必勝!」
そう言って、猫の女性はマサに飛びかかってきた。マサはすんでのところで避けた。
「ちっ……おい、危ねえじゃねえか!」
「そんなの関係ないね。倒せればいいのよ!」
「全く、ユリアは血の気が多いな。おい、そこの虎のアニマ。俺の相手をしてもらおうか」
イグはユキの方を見て、羽で作った弓を構えた。
「売られた勝負は買うのみ!」
イグの放ったいくつもの矢がユキを襲う。それにユキは己の炎で対抗した。
「敵を焼き尽くせ! 火炎!」
「くっ……」
ユキの放った炎は、イグを瞬く間に取り囲む。すると、イグはバサッと空へと飛びあがった。
「ライジングショット!」
「ギアーショット!」
別の方では、マサとユリアが激突していた。お互いにひかず、打撃を繰り返している。すると、契約者の男性がハルに話しかけてきた。
「あんた、なんでアニマの契約者になったんだよ」
「え……」
「俺は面白そうだから契約したんだ。あんたはどうなんだ?」
「わ、私は二人が困ってたからだよ」
「困ってた? ならあんたはアニマの奴らが困ってたら、すぐ手を差し伸べるのかい?」
「そ、それは……」
「それは無責任じゃないのか。助けられるのには限りがあるんだぜ」
そう言われて、ハルは俯いてしまう。それを見逃さず、男性がナイフを取り出した。
「アニマは人間を攻撃できないからな。俺が始末してやるよ!」
「ひっ……!」
「ハル! しまった、間に合わない!」
「ハル殿!」
二人が駆け出そうとしたが、ユリアとイグに阻まれる。あと寸前のところで、ハルの周りに炎が広がった。
「あぶねっ!」
「たかと様」
ユリアがたかとと呼ばれた男性に近づき、辺りを警戒した。すると、向こうからレンが現れた。
「そこまで! 人間に攻撃をしてはいけないが、人間同士も争ってはいけないよ?」
「ちっ。おい、早く逃げるぞ!」
「えー、せっかく楽しいところだったのに」
「無駄口叩いてないで、早く行くぞ」
イグがユリアとたかとを抱えて、空へと飛び立った。レンはそれを見送って、ハルの周りの炎を消した。
「ありがとう、レンさん」
「ハル! 大丈夫か!」
「うん、平気だよ。レンさんが守ってくれたから」
「無事でよかった。契約者が死ねば、契約したアニマも一緒に死んでしまうんだ」
「え、そうなんですか! また私のしらないことが増えた……」
「まぁ、おいおいわかっていけばいいんだよ。俺が来たのは、ああいった輩を止めるためだからな」
「他にもいるんですか?」
「そうだね。だから俺みたいな管理者がいるんだ。君たちも気をつけるんだよ」
「はい、ありがとうございました」
ハルがお礼を言うと、レンはスタスタと行ってしまった。
「なんか大変なお出かけになっちゃったね」
「また、ああいう奴らに出会うかもしれないから早く帰ろうぜ」
「……うん」
ハルは、先ほどのたかととの会話を思い出していた。
「アニマの奴らが困ってたら、すぐ手を差し伸べるのかい? 助けられるのには限りがあるんだぜ」
ハルは、たかとの言葉に手をぎゅっと握りしめた。
(私の行為は無責任なのかな……)
ハルが震えていると、マサとユキがそっと肩に手を置いた。
「何も気にすることねえよ。俺たちはあんただから契約したんだ」
「そうでござるよ。俺たちはハル殿に救われたのです!」
「俺はそこまで言ってねえよ?」
「そ、そういう話でよかろう!」
二人がやいやい言ってるのを、ハルはくすりと笑いながら見ていた。
深夜、明かりもない路地をユミたちは逃げていた。
「ここまでくれば、大丈夫……」
すると、背後から光線が飛んできた。辛うじてユミはそれを避けて攻撃の体制をとった。
「くっ、かまいたち!」
「ぎゃあああぁ!」
見事相手に命中し、二人はほっとした。
「これで追っ手はまいたかな……痛っ!」
ほっとしたのも束の間、ユミの首に痛みが走った。そして、痛みに耐えられずその場に倒れた。それに高木が駆けよる。
「ユミ、大丈夫か! 一体何が……」
高木が周りを見回すと、一匹の蛇がある人物へと戻っていった。
「全く、手間取らせないでほしいですね。まぁ、いい人材が手に入ってよかったです。くくく……」
「博士、こいつらでよかったんだよな? この男もやっちまうか?」
「いいえ、彼は私がやりましょう。なーに、痛いのは一瞬ですよ」
「や、やめ……」
高木が逃げようとすると、博士と言われた男は、高木の首筋に注射をした。そして、高木もばたっと倒れた。
「さぁ、彼らを連れて行きなさい。これからの研究が楽しみですねぇ。くくく……」
博士は笑いながら去っていった。ユミは薄れゆく意識の中、ハルの顔を思い出していた。
「ハルさん……助けて……」
その声は誰に届くでもなく、真っ暗な中に消えていった。




