ユミ
ハルたちが朝食をとっていると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「こんな朝に誰かしら」
玄関を開けると、一人の老人が立っていた。
「管理人さん? どうしたんですか?」
「すまないが、近々このアパートを取り壊す予定なんだ。だから申し訳ないんだが、出て行ってもらえないかな」
「え、そんな急に……」
「本当すまないね」
それだけ言って、管理人は去っていった。リビングに戻ったハルは、うーんと唸っていた。
「どうしよう、また家を探すのは大変だしな……」
すると、ハルのスマホが鳴った。相手はハルの母親からだった。
「はい、もしもし?」
「ハルちゃん、お母さんたち今から海外出張が決まったから、家の事よろしくね。鍵はいつものところにあるからね」
そう言って、母親の電話は切れた。
(なんていいタイミングなの! いつもは勝手な親だと思ってたけど、今は感謝します!)
「大丈夫、なんとかなりそうだよ」
「じゃあ、飯食ったら準備でもするか」
それからバタバタと荷物をまとめ、ハルたちは実家に帰ってきた。
「確か鍵はここにあるはず……」
ハルが植木鉢を上げると、鍵があった。そして、家の中に入る。
「懐かしいな。全然変わってないや。あ、マサたちは部屋いくつかあるから、好きに使っていいよ」
「承知いたしました!」
全員が荷物を片付けていると、また玄関の呼び鈴が鳴った。
「今日は来客が多いな。はーい、どちら様ですか?」
ガチャッとドアを開けると、一人の男性と小柄で白髪に毛先が水色の少女が立っていた。
「はじめまして。俺は高木です。こっちはユミです」
「はじめまして」
二人で頭を下げて挨拶をした。
「は、はじめまして。私はハルといいます。ここじゃなんですから、中へどうぞ」
「ありがとうございます」
そして二人を中に入れると、マサたちも座っていた。頭には布を巻いている。
「いきなりなんですけど、彼らはアニマですよね?」
「え、なんでそんなこと……」
「俺のユミもそうだからです」
「見た目は人間と変わらないのに」
「それは翼を隠しているからです」
高木はユミに目で合図をすると、ユミがぱぁっと光を出して翼を出した。
「私はインコとイルカのアニマです。研究所の人はキメラと呼んでました」
「へぇー。いろんなアニマがいるんだね」
ハルがのんびりお茶を飲んでいると、ユミが話しだした。
「アニマは皆相手がどこにいるかは、大体気配でわかるんですよ。だから、ここがわかったんです」
「で、あんたたちは何しにここに来たんだ?」
「実は、協力してほしいことがあります。私たち研究所の人たちに追われていて、今はなんとか逃げてるところなの」
「ユミがキメラなのをいいことに、その研究をしようとしてるんだ」
「研究って?」
ユミが顔をしかめて歯をぎりっと噛んだ。
「表向きは研究って言ってるけど、本当は人体実験みたいなものよ……」
それを聞いたハルはごくりとつばを飲んだ。
「実験……」
「だからあなたたちに逃げる手助けをしてほしいの!」
「したいのは山々だけど、私たちもあたらしく契約したばかりで、右も左もわからないんだ。だから、協力は難しいかも……」
「そうですか……いきなりすみません……」
二人はがっくりとうなだれ、部屋を出ていった。後に残ったハルたちは、お互い顔を見合わせる。
「ねぇ、やっぱり協力してあげた方がいいかな?」
「だめだ。相手が研究所の奴らなら、俺たちだってどうなるかわからないしな」
「しかし、このままではユミ殿たちが捕まってしまうのでは?」
「あいつらも契約しているんだから、大丈夫だろ」
「そ、そうだよね……」
しかし、この判断がのちの大事件を引き起こすことを、この時は誰も知らなかった。




