暴走
ハルと猿渡が話していると、マサたちがやって来た。
「おーい、ハル。そろそろ帰るぞ!」
「あ、はーい! じゃああきら君、また遊ぼうね。今度はちゃんと可愛く描いてよね?」
「え、もう行っちゃうの?」
「うん、そうだけど?」
猿渡はハルに近づき、服のすそをぎゅっと握った。その手をハルは優しく握りしめた。
「大丈夫。なるべく早く会いに来るからね」
「うん……」
ハルがもう一度猿渡の頭を撫でていると、薫がやって来た。
「あれ? もう彼と仲良くなったのかい? すごいね」
「彼女には不思議な力があるのかもしれないな」
薫とレンが話していると、ある人物が近づいてきた。
「先輩、頼まれていた資料を持ってきました。別の子たちは何か用事があったみたいなので」
「あぁ、ありがとう」
持ってきた後輩の顔は、あの博士とそっくりな顔だった。それに気づいたユミは顔をこわばらせたが、反応を示したのは猿渡だった。
「あ……あぁぁぁぁ!」
「あきら君? どうしたの?」
ハルが猿渡に話しかけたが、猿渡は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「嫌だ……もうあんなことやだ……っ!」
猿渡の中で何かがフラッシュバックしていた。それは研究所にいた時の記憶だった。
「あきら君、大丈夫だよ。ここは何も怖くないから」
ハルは猿渡に近づいたが、猿渡はだんだんと大きくなっていた。それはまるでゴリラのような姿だった。
「研究者は皆、敵……もう俺に近づくな!」
そう言うと、博士にそっくりな青年に向かって、火の玉を放った。
「わぁぁぁっ!」
それは間一髪当たらなかったが、壁は破壊された。
「君は早く避難するんだ!」
薫が青年に言うと、青年はすぐさま逃げ出した。残されたハルたちは、猿渡を元に戻そうと試みる。
「研究者は敵……」
猿渡が呪文のように呟いていると、ハルがゆっくり近づいていった。
「大丈夫よ、あきら君。もうあなたにひどいことする人はいないから。元に戻って」
「ぐぅぅぅ……」
「ハル! あんたは下がってろ!」
マサがそう言うと駆け出した。
「ライジングショット!」
マサの攻撃が猿渡に当たったが、両手でガードされる。そして、猿渡は雄たけびをあげながら火の玉を打ち出してきた。
「がぁぁぁぁーっ!」
「させませんっ! マーメイドモード! 水の波動!」
ユミが水の球を放って、火の玉を打ち消した。するとマサが打撃を食らわせた。
「ライジングショット!」
「ガウゥゥっ!」
マサの攻撃は見事に猿渡に当たり、猿渡はその場に膝をついた。
「あきら君!」
「ハル、それ以上近づくな!」
「危ないですよ!」
マサたちが呼びかけるが、ハルは猿渡のそばまで来ていた。
「さぁ、元に戻ろう。また一緒に絵を描こうよ?」
すると猿渡はぽろぽろと涙を流した。
「だって俺はこんな姿にされた。あいつらを許せない……」
その言葉に今度は薫が声を上げた。
「君にひどいことをしたのはすまなかった。だから君を元の人間に戻せるように努力しよう!」
薫は一歩ずつ猿渡に近づいていく。
「だから私たちを信じてほしい!」
「ぐぅぅぅ……」
猿渡はうめき声をあげながら、元の少年の姿に戻っていった。そしてその場に倒れこんだ。
「あきら君!」
ハルはすぐに駆け寄り、猿渡を抱きしめた。その後すぐにマサたちも集まった。
「ハルさん、また辛い思いをさせたね。私たち研究者はとんでもないことをした」
「この子を元に戻せるんですか?」
「彼にも言ったが、それが出来るように努力するよ。それが私のすることだ」
「ありがとうございます……」
ハルから猿渡を預かった薫は、そのまま庭を後にした。
「さぁ、私たちもそろそろ帰ろうか……」
「あぁ……」
ハルたちは重い空気のまま研究施設を出ていった。
青年は走っていた。そして足を止めると、腹を抱えて笑い出した。
「はははっ! こんなに上手くいくとは思わなかった」
ひとしきり笑うと、青年の姿が変わっていった。
「私はカメレオンのレオ。あの方に化けてみたらいい結果が得られましたよ」
レオはにやにや笑いながら、庭の方を見た。
「まぁ、あの検体はまだ安定してないようですが、調整次第では強力なアニマになるでしょう」
そしてレオはスーッと消えていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この話で「研究所編」は終了となります。
話全体はまだ続きますので、今後ともよろしくお願いします。




