猿渡 あきら
ハルたちはまた薫のいる研究施設に来ていた。ユミの身体検査のためである。
「よかった。本当に検査だけなんですね」
「そうだよ。もう、信用してほしいな」
「すみません。大型アニマの件がありましたので……」
「それはしかたないか。まぁ、あんな奴他にはいないから安心してよ」
「そうなんですか?」
「あいつは研究会の中でも有名だからね。なんかやらかすとは思ってたけど、まさか本当にやるとはね」
薫がはぁーっとため息をつくと、ハルに向き直った。
「ここではそんなことしないから安心してね?」
「はい、ありがとうございます」
それからユミの検査が終わり、ハルとユミは談話室に来ていた。そこにはイグもいて、本を読んでいた。
「ねぇイグさん。マサたちは?」
イグは読んでいた本から目を離し、ハルを見た。
「マサは食堂、ユキはトレーニングルームだ」
「なんかそれぞれわかりやすい場所にいるわね……」
ハルが呆れて外を見ると、庭の花壇に誰かいるのが見えた。
「あ、私ちょっと外に出てくるね」
「え、ハルさん?」
「大丈夫、すぐ戻るから!」
そう言ってハルは部屋を出ていった。残されたユミとイグの間には気まずい空気が流れていた。
(どうしよう……何を話したらいいのかわからない……)
当然である。ユミが大型アニマだった時、イグの片腕を切り落としているのだから。
「あ、あのイグさん……」
「お前は何も気にすることはない」
「え……?」
「確かに思うところはあるが、あれはお前のせいじゃないだろ? だからそんなに気に病むな」
イグの言葉に、ユミは涙が溢れそうになった。
「……ありがとうございます」
二人が話している時、ハルは庭に来ていた。
「さっきの子はどこだろ……」
「誰か探しているのか?」
「あ、レンさん」
ハルが周りを見回していると、レンが話しかけてきた。ハルは事の経緯を話した。
「あぁ、その子ならあの花壇の所にいるよ」
レンが指さした方向に子どもが座っていた。
「あ! あの子です」
「彼は猿渡あきらと言って、彼もアニマなんだよ?」
「え? あれ? でもマサたちと違って名前が二文字じゃないような。私の気のせいかな」
ハルが首を傾げていると、レンが首を横に振った。
「気のせいじゃないよ。彼は元人間だ」
「え……?」
ハルは驚いてその子どもを見た。
「あの子は大型アニマが作られた研究所にいたんだ」
レンも猿渡を切なそうに見つめた。
「あの後、俺が研究所に行ったらあの子がいた。調べてみたら、人間とアニマのハーフだった」
「あそこでは、そんな研究までされていたの?」
「みたいだな。だから俺はあの子をここで保護することにしたんだ」
ハルが俯いていたが、レンは話を続けた。
「しかし、それからあの子は心を閉ざしてるみたいで、なかなか話してはくれないんだ。よくあの花壇の所にいるのはわかっているんだが……」
レンは、うーんと唸っていたが、ハルは猿渡を見つめていた。
「あの子は被害者です。私が少し話してみます」
「そうか。難しいとは思うが頼めるかい?」
「わかりました」
そう言うと、ハルは猿渡に近づいていった。そばに行くと、猿渡は絵を描いていた。
「へぇー、君、絵を描くの上手いね」
ハルが話しかけると、一度振り向いたが、また絵の方に目をやる。
(うーん、やっぱり話してはくれないか……)
ハルは困った顔になったが、もう一度猿渡に話しかけた。今度は目線を合わせて。
「はじめまして。私はハルっていうの。あなたお名前は?」
「……猿渡あきら」
「そっか。あきら君っていうんだね」
「お姉さん、さっきあのお兄さんから聞いてたよね」
「え……?」
「僕ちゃんと聞こえてたよ」
ハルを見た猿渡の目はしずんでいた。それから、また絵の方に目を戻した。
「じゃあ、私たちの話全部聞こえてたの?」
ハルがおずおずと聞くと、猿渡は頷いた。
(あちゃー。これじゃ私にも警戒心が強くなるわけだ)
ハルがおろおろしていると、猿渡がじっと見つめてきた。
「あれ? どうしたの?」
「お姉さん、なんか見てて面白い。ここの人たちはみんなどこか隠し事してるみたいで嫌だった」
「そ、そっか。でも、私も君の名前を知ってたのに言わなかったよ?」
「うん……でもお姉さんとてもわかりやすいから面白い。お姉さんならいろんな人たちとうまくいくね」
その言葉にハルはダメージを受けた。
(ち、小さい子どもは思ったことをそのまま言うから怖いわ)
「お、お姉さんはね、アニマの人たちはいるけど人間のお友達は少ないのよ……人付き合いも苦手だしね」
「ふーん……」
猿渡はハルの話を聞きながら、絵を描いていた。
「さっきから何を描いてるの?」
「お姉さんだよ」
「本当! 見せて見せて!」
ハルは猿渡からもらった紙を見て驚愕した。
「なんで私が困った顔をしているところなのよ!」
「だって一番面白かったんだもの」
(この子の感性が全く解らん……)
ハルは苦笑いをしながら、猿渡の頭を撫でた。




