【短編】うちのダンジョンだけメタルモンスターの巣なので攻略できません〜みんなこんなヤバイ事を乗り越えてると思ったら異例中の異例だった〜
「それでは、卒業試験の課題を発表する」
卒業試験、それはギルド入団チケットと言い換えてもいい。
この世界には幾つものダンジョンが存在し、そこから得られる凡ゆる物を活用し、生活は回っている。ギルドとは、そのダンジョンに挑む事を生業とした団体で、そこに所属していれば食いっぱぐれる事はなくなる。つまり人生安泰。引いては結婚のしやすさや、周囲の目線もまるで違った物になってくる。
ギルドに入団する。それは人生のスタートでもあるが、ある意味でのゴールでもあるのだ。卒業試験とはつまり、一生安泰が掛かった、この学校に入学した理由の全てと言っても過言ではない。
「俺23だってよ」
「俺は48だったぜ? これどこだよ」
「やりー、俺家の近所だ」
「うぜー、山の向こうかよ」
この辺りはダンジョンの出現が極めて多く、最初はみんな頭を抱えていたらしい。ところが、いくつか攻略していくと、気が付いた事があった。
本来1〜100の間で階層が分かれるのがダンジョンで、その深度は10階層毎でランダムだ。レベル1の魔物が1階にいたなら、10階には大体レベル10前後のボスが待ち構えている。それを繰り返してダンジョンボスを倒した時、そのダンジョンは消滅する。
「みな、行き渡ったな?」
だが、この地域のダンジョンは特別だった。全てのダンジョンが10階層で終わり、レベルは10以下の魔物しか出現しない。つまり、超高出現、超低ランクの初心者ダンジョンの群生地だったって訳。
そして、ダンジョンが低レベルだと確定しているなら逆に利用してしまおうと考えた昔の偉い人が、この場所に学校を設立した。
ダンジョン攻略専門学校の誕生だ。
ここを卒業すれば、即戦力としてダンジョン攻略の役に立てる。実際にここの卒業生は経験豊富でとても役に立つと、ギルドからの依頼があり、卒業試験を越えた生徒は無条件でギルド入団が確約されたのだ。
「各自励む様に。期限は半年だ!」
俺は家柄もそれほど良くなく、この学校に入るのもギリギリの状態で、明るい性格でもないからいつも一人で行動している。だからと言って成績落ちこぼれかと言えばそうでも無く、無難に卒業して生涯安泰を目指しており、それさえ叶えばそれで良かった。
のだけれども。
俺が割り当てられたのは【16】と書かれたダンジョンで、少し辺境にあるダンジョンだった。全てのダンジョンは先生が一度下見をしており、安全は確保されている。筈なんだけど。
_____
【B1】
「えぇ……なんだこいつ」
そこにいたのはスモールラビットという魔物、だと思うのだけれども。
「は、速過ぎる……」
全身が銀色に輝いており、金属でできているかの様な印象のスモールラビット。その重々しそうな見た目に反して、こいつめちゃくちゃ速い。
「ダメだ、全然当たらない」
信じられない速度で逃げ回るスモールラビット。ダンジョンは全ての階層がフロアになっており、一部屋の大きな空間となっている。ここはまだ1階なので部屋は小さめで、後ろに来た道、前に進むべき道があるのだけれど。
「キュー!」
「ち、ちくしょう……」
何一つ擦りもしなかった。
こうなったら仕方ない。こいつは特に攻撃してくる訳でも無さそうだから、無視して次の階層に行き、様子を見てみよう。
「キュキュキュー!」
「うげっ!」
次の階層への道へ入ろうとしたら、突然横からスモールラビットに突撃され、5mほど吹き飛ばされた。痛過ぎる。
こいつを倒したとしても、1日経てばまた復活してくる。ボスを攻略するまでは何度でも。そしてダンジョン内でもお腹は空くし、水は飲みたい。だからある程度したら帰る必要がある。
俺がやるべきなのはこれらの手順だ。
・それぞれの階の敵を把握する。
・全て短時間の内に倒せる様になる必要がある。
・ボス階を確認し、攻略法を考える。
・この日と決めた日に一気に攻略する。
これをするか、もしくは大量の食料を持ち、ここから出ない覚悟でボスまで到達するか、このどちらしかない。
何故ならボスを攻略せずに戻ると、帰り道にもまた敵が沸き始める。もしそいつらが進路を塞ぐなら、ヘタをすると死んでしまう。そういう訳だ。
1週間毎に学校に集まり、進捗の報告義務があるから、まずは1週間、頑張ってみようと思う。
卒業試験、何とかなるかと思っていたけれど、まさかこれほどまでとは思いもしなかった。半年以内に攻略なんて出来るのか?
名前:ライアン・ランドフォード
称号:剣士見習い
レベル:15
HP:158
MP:10
筋力:21
敏捷:43
耐久:28
精神:35
魔力:13
スキル
【一線斬り】
______
「それでは各員、状況を報告したまえ」
「ダンジョンを発見、現在3階を攻略中です」
「うむ、次」
「同じく、4階を攻略中です」
おぉーと、歓声が上がる。
馬鹿な、あの難易度でもう4階?
早すぎる。
俺が……弱すぎるだけなのか?
「次、ランドフォード」
「はい、同じく、1階を攻略中です」
「うむ、まぁ焦らずとも良い」
「はい」
「次!」
クスクスと、笑い声が聞こえた様な気がした。
これはマズイな、まさかみんなこんなに進んでるとは思ってなかった。きっと順調にレベルも伸ばしているだろう。
ダンジョンを攻略するハイランクギルドの面々は、レベル70ほどのステータスでチームを組んで、何人ものメンバーで戦っているらしい。
俺のレベルはまだ15。きっと卒業する頃にはそこに追いついていて、即戦力になるのだろう。高難易度のダンジョンで活躍するにはレベルが100近くは必要になる。ましてや攻略なんてしようものなら、それらを軽く凌駕していくのだろう。何せ、そんなレベルのダンジョンボスだ。倒した時のレベル上昇値は計り知れない。
はぁー、ため息が出るな。
______
【B1】
「くっそ、何なんだこいつは!」
「キュー!」
戦えども戦えども、何一つ攻略の糸口が見えてこない。いくらなんでも速過ぎるんだ。
他の連中は4階を攻略とか言ってたな。って事はその間、1、2、3階の敵は毎日倒している事になる。倒せたのならレベルも上がる。もう俺なんかより随分先に進んでいるに違いない。
どうすれば……。
それから俺は、毎日毎日、このスモールラビットを追いかけるだけの日々を過ごした。
______
「さて皆の衆、今週はどんな成果があったのか聞かせてくれ」
「はい、現在は9階を攻略。遂にボスの姿を捉えました。対策を考案中です」
「うむ、素晴らしい進歩だ」
どうしよう。
「次、ランドフォード」
「はい」
「……どうした? 報告を」
「え、と。現在、1階を、攻略中です」
周りから、とんでもない勢いで笑われた。
「毎日家で寝てるのかよ」
「何をどうやったらそうなる訳?」
「腹いてー、こいつ笑わせにきてるなー」
「笑に命かけすぎー」
そりゃ、そうなるよな。
「これ、静まりなさい。ランドフォード、君はこの2ヶ月の間、毎日1階を攻略していると?」
「はい」
「……もう少し真面目に精進したまえ」
「……はい」
胃が、痛い。
毎週この日が苦痛で仕方なかった。
何一つ進歩のない俺は、報告する事なんて何もない。
だから笑われても……仕方ない。
仕方ないけど、悔しくない訳じゃない!
______
【B1】
「こんの野郎……」
「キュー!」
ずっとずっと、毎日毎日。
気が狂いそうになる時間を過ごしながら、進展しない状況を打破すべく、戦い続けた。変わらない景色、変わらない敵、変わらないレベル。変化がないというのは信じられないほどの苦痛だ。
ところがある日。
僅かな変化に気がついた。
レベルが上がらないとステータスは上がらない。それ故に見ていなかったのだけれど、どうやら違ったらしい。レベルは変わっていないが一部ステータスに変化があったようだ。
名前:ライアン・ランドフォード
称号:剣士見習い
レベル:15
HP:158
MP:10
筋力:21
敏捷:63
耐久:28
精神:59
魔力:13
スキル
【一閃斬り】
敏捷と精神の値が上昇している。今までこんな事見た事も聞いた事もなかった。訓練したり戦ったりしていると、やがてレベルは上がる。その時以外で能力が変化するなんて考えもしなかった。
それにスキルだ。
良く見ると、僅かに変化している。
元々はこうだった。
【一線斬り】消費MP 1
剣を持つ時、威力が上がる。
それが今はこうなっている。
【一閃斬り】消費MP 10
剣を持つ時、威力が上がる。
消費するMPによって威力が変化する。
【一線斬り】消費MP 1
剣を持つ時、威力が上がる。
項目が増えた?
というか一閃斬りって何だ。もしかして発現に条件があって、ステータスがそれをクリアしたのか?
試してみるか。
俺はおもむろに剣を抜いた。
何百何千と繰り返したやり取り。
「キュー!」
その中で掴んだ法則性。
この角度で突っ込み、向こうに追いやって、そこからこっちに移動する。すると奴は再び逃げるが、ここで2階層へと続く道を目指せば!
「キュキュキュー!」
今だ!!
「スキル【一閃斬り】!!」
「ギュ?」
銀色に輝くウサギは、真っ二つになった。
やった、のか?
「ハァハァ、何だこの怠さは……」
身体が重い、まさかMPが0になった代償か?
キツ過ぎ……ん?
治った?
今度は何が起こったってんだ。
まさかMPが回復した?
いや、レベルアップか。
一応、ステータスを確認しよう。
名前:ライアン・ランドフォード
称号:剣士
レベル:30
HP:318
MP:35
筋力:42
敏捷:128
耐久:60
精神:103
魔力:25
スキル
【一閃斬り】
は? れ、レベルが、倍!?
嘘だろ、大人の剣士でもレベル30あれば普通だぞ。
ダンジョン攻略者の中じゃまだまだ駆け出しとはいえ、レベル30? 俺が? 嘘だろ?
……成る程。
みんなはこうやって攻略していた訳か。
そして強くなってギルドに入団する。だから卒業試験がダンジョン攻略で、ギルドの入団条件になっていたのか。学校の価値が高い、ってのにはこんなカラクリが。
良いだろ、やってやろうじゃないか。
漸く俺もスタートラインに立てたって訳か。
この勢いで2階も攻略してやる!!
______
【B2】
「おい嘘だろ……」
次の階層に待ち構えていたのは。
「キュキュ?」
前よりワンサイズ大きくなったスモールラビットだった。しかもそいつは例によって。銀色に輝いている。
「先手必勝!!」
「キュ?」
俺はスキル一閃斬りの消費MPを35にして一気に切り掛かった! いける!!
「キュッ!」
か、かわされた……!
ダメだ、意識が朦朧としてきた、MP切れか。
マズイ、か、帰ろう。
______
そしてあっという間に月日は流れ、半年が経った。
「私はこの年の担当として、君達の存在を誇らしく思う」
パチパチと皆が祝福される卒業式。
「それでは、卒業証書の授与」
順番に名前が呼ばれていき、そして俺の番がきた。
しかし。
「セナード・ヒューゲル」
「はい!」
俺の順番は飛ばされた。
そう俺は卒業、出来なかったのだ。
理由は簡単。
ダンジョンが攻略出来なかったから。
元々仲間と仲良くなんて事もしていなかったし、励まし合う友人もいない。だから俺はひっそりと、落第した。
「ランドフォード、君はもう一年、うちに通ってみる気はないかね?」
「え? 俺が?」
「私はどうも君がダンジョンを攻略出来なかった事が信じられないのだ。他者より優れているとまでは言わんが、何故ああもダンジョン攻略に躓いてしまったのか。もう一度、やり直してはみないか?」
「ありがとう……ございます」
正直、嬉しい申し出だった。
けど単純に無理だった。
「親がもうお金は出せないと」
「むぅ、そうなのか。残念だ」
兄が二人いるのだけれども、二人ともギルド員として稼ぎを家にいれてくれている。それに対して俺は、吸い取るばかりで何も出来やしない。
家族には、
こんな簡単な卒業試験もクリアできないのか。
世間の笑い者。
末代までの恥と言われ。
学校では、
1階に2カ月の記録保持者。
奇跡のレコードホルダー。
1階マニア。
サボりの手本と言われ。
方々からありとあらゆる罵声を貰った。
もう歯向かう気力もない。
「それで、どうするのかねランドフォード」
「家を……出ます」
「むぅ、無理はせんようにな」
正確には追い出されたと言った方が正しいかもしれない。
俺は家の穀潰しだからな。
そして学校も。
家も。
何もかも失って、身一つの俺に残されたのは。
未攻略のダンジョンだけ。
あいつのせいだ!
あいつだけは!
絶対に許さない!!
必ず攻略してやる!!!
名前:ライアン・ランドフォード
称号:上級剣士
レベル:60
HP:679
MP:82
筋力:98
敏捷:255
耐久:106
精神:211
魔力:54
スキル
【一閃斬り】
______
「ランドフォードは?」
「学校は辞めるそうじゃ」
「そうですか、残念です。しかし妙ですね」
「うむ、まったくだ」
「卒業試験の終了後に確認してきましたが、1階にベビーパンサーがいるだけで、彼の実力だと初日に3階層くらいまでいけても不思議ではないダンジョンだと思うのですが……」
「うむ、何故あの程度の敵に2カ月もかかってしまったのか。今となってはわからぬ事じゃ」
「そうですね」
短編にての投稿です。
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特に評価は昨今のランキングにて重要で、長編化の決め手となりますので是非よろしくお願いします。