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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

奥田光治 短編集

おそうしき

作者: 奥田光治

 きょう、きんじょのおてらでおそうしきがありました。わたしは、そのおそうしきにいくことになりました。

 おそうしきというのがなんなのか、わたしにはよくわかりません。ただ、おてらにはたくさんのひとがあつまっていて、いつもあえないしんせきのこたちもたくさんきていました。がっこうもいかなくていいし、しんせきのこたちとあえるのなら、おそうしきもわるくないとわたしはおもいました。

 でも、なんでかわからないけど、おそうしきにきているおとなのひとたちはみんなかなしそうだったりつらそうだったりで、たのしそうにしているひとはだれもいません。なんでなのかなぁ。


 おとうさんとおかあさんは、いそがしそうにあちこちをあるきまわって、やってくるひとにあたまをさげていました。わたしはひまだったからちかくにあったいすにすわってたけど、こっそりはなしをきいていると、おとうさんは、もしゅ、というやくわりになっているらしいです。でも、それがどんなやくわりなのかはわたしにはわかりませんでした。

 これだけしんせきのひとたちとかはきているのに、おばあちゃんはどこにもいませんでした。ずっとにゅういんしていたし、やっぱりまだびょういんなのかなぁ。おじいちゃんもにねんくらいまえにきゅうにいなくなっちゃったし、おばあちゃんもきゅうにいなくなったりしないよね……。


 おそうしきには、おとうさんたちやしんせきのひとのほかにも、たくさんのひとたちがきていました。いつもやさいをくれるとなりのおじさん。きのうもいっしょにこうえんであそんだうらのおねえさん。まいにちいえのまえをはしっているしんぶんはいたつのおにいさん。よくかいものにいっているだがしやさんのおばあさん。おこるとこわいけどとてもやさしいちょうないかいちょうのおじさん。あいさつするとわらってくれるこうばんのおまわりさん。それにわたしのがっこうのこうちょうせんせいもいました。いつもはぜんこうしゅうかいでとてもはなしがながいのに、きょうはなにもしゃべっていないのでびっくりしました。

 でも、わたしのしらないひともいました。うしろのほうにコートをきたおとうさんとおないどしくらいのおじさんがいたけど、いったいなんでこんなところにいるんだろうとおもいました。


 おそうしきがはじまると、おぼうさんがやってきておきょうをよみはじめました。へやのしょうめんにおおきなぶつぞうがあって、そのぶつぞうのまえにおおきなひつぎがおかれていました。おぼうさんはこのひつぎにむかっておきょうをよんでいたけど、おとなのひとたちはそのおきょうをきいて、なんでかしらないけどないたりかなしそうなかおをしています。わたしには、このおきょうのどこがかなしいかまったくわかりませんでした。というか、なにをいっているのかぜんぜんわからなくて、きいているだけでもとてもたいくつです。

 それから、おぼうさんがおきょうをよみつづけているのに、みんながひとりずつまえにでてひつぎにおまいりしはじめました。ごしょうこうとみんなはいっていたけど、こまかいつぶみたいなものをけむりがでているべつのいれものにいれて、じゅじゅでひつぎにおがんでいました。みんながみんなとてもかなしそうだったけど、おまいりをしてなんでかなしくなるのかあいかわらずわたしにはさっぱりわかりません。とくにうらのおねえさんはおがむときにものすごくないていて、すぐうしろにいたおまわりさんがものすごくこわいかおでおねえさんをみているのがとてもきになりました。たしかにあんなところでおおなきするおねえさんもわるいとおもうけど、あんなにこわいかおでにらまなくてもいいのになぁとわたしはおもいました。

 だけど、みんながおまいりをおわっても、おきょうはずっとつづきました。もうげんかいです。ひまでしかたがなかったから、わたしはいすからとびおりてへやのそとにでて、おてらのそとのにわでひとりあそんでいました。おこられるかもしれないとおもったけど、おかあさんとおとうさんはただないているだけで、わたしになにもいいませんでした。うん、やっぱりわたしはたいくつなおきょうをきくより、こうやってそとであそぶほうがすきかなぁ。

 でも、そしたらすこしして、おてらのなかからひつぎをもったおとうさんたちがでてきて、そのひつぎをくろいくるまにつみこんでいました。おいていかれるとおもって、わたしはあわてておとうさんとおかあさんのところへはしってもどりました。


 そのまま、わたしたちはおてらとはべつのばしょにいどうしました。そのたてものにはおおきなえんとつがあって、そのえんとつからもくもくとけむりがでているのがとてもおもしろかったです。

 おとうさんたちは、くろいくるまではこんできたひつぎをそのたてもののなかにはこんでいきました。そのままわたしはみんなといっしょにちいさなへやにつれていかれました。そこはテレビでみたことがあるかまどみたいなところで、そこでもおぼうさんがひつぎのまえでまたおきょうをよんでいました。ここはどこでなにをするところなのかわからなくてとなりのおかあさんにきいたけど、おかあさんはないてばかりいてこたえてくれません。

 ほかのひとたちも、ないたりかなしそうなかおをしていました。でも、おまわりさんだけはうしろのほうでコートのおとこのひととなにかひそひそとはなしていて、コートのおとこのひとがこわいかおでどこかにでんわをかけていました。なんでそんなことをしているのかわたしにはわかりません。でも、そのでんわのあとでたてもののそとにたくさんひとがいるみたいにすこしうるさくなったようなきがしました。


 そしたら、おぼうさんがおきょうをよむのをやめました。くろいスーツをきたおにいさんが、さいごのおわかれです、っていって、ひつぎのうえのちいさなとびらをあけました。みんな、そのなかをのぞいてめになみだをうかべて、さようならとか、ごめんねとか、くるしかったねとか、よくわからないことをいっていました。へやのそとのろうかのほうからあしあとがいっぱいきこえてくるけど、だれもきにするひとはいないみたいです。

 わたしは、このひつぎのなかになにがはいっているのかきになって、ちょっとせのびしてなかをのぞいてみました。でも、なかにはわたしがとてもびっくりするものがはいっていました。それをみて、わたしはとてもこわくなって、なかをみなきゃよかったっておもってしまいました。そして、わたしはなんでみんながかなしんでいるのか、やっとわかることができました。だって……



 だって、ひつぎのなかには、ねむっているわたしがいたのだから。

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