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戦闘員Lv100  作者: 飯盛食太
1/1

#01 戦闘員拾いました。




観察記録、一日目。

今日から僕は、悪の組織の戦闘員を家に住まわせることになりました。




#01『戦闘員拾いました。』




悪の組織というものは、10年前のある騒動以来、世に出る事が無くなった。有り体に言えば、潰れたのだ。恐らく日本中の、全ての組織が。


その騒動は災害だとか不況だとか、そういう類のものでは無く、たった一人のヒーローによる、殲滅だった。かかった期間は一ヶ月とも一週間とも言われているが、詳しい事は誰も知らない。



その10年後たる現在、未だ残る悪の組織の残骸が、表立って現れ始めたのだ。


例えば地震で地盤沈下が起こったかと思えば、それは壊滅した地下基地が崩れたせいだったり、UFOが降ってきたかと思えば、それは老朽化した空中要塞が機能停止したせいだったり、大規模な山火事があったかと思えば、それは隠された工場や研究所の怪しい物品が爆発したせいだったり。


当然悪の組織も容易く見つかるような所に拠点は持たないし、ヒーローにしても殲滅活動の記録も無ければ目撃者も居ない。悪者そのものは片付けても、それ以外には全く興味が無かったようだ。


故に、僕の勤めるような会社が生まれた。突然実害を伴って表出した悪の組織の秘密基地を、お片付けするお仕事が。



さて、今日もそんな仕事。

火事のあった家屋の下に、何やら施設があるのではという報せを受け、調査に来たのだ。聞けばその家屋、どう見ても普通の民家といった佇まいだったらしいが、近所では有名な幽霊屋敷でもあったらしい。

かくして、取り払われた家屋の瓦礫の下には工場が隠れていた。マンホールのように地表にドアがあって、梯子を伝って降りる形だ。家のド真ん中辺りかな。


工場内に降り立つと、一部分だけぼんやり明るかった。その明かりを辿ると、自家発電により一基だけ稼働していた、大きなビーカーのような機械があった。

ビーカーは何かの液体で満たされ、裸の少女が浮かんでいた。16か17歳くらいだろうか。手前に備え付けられたディスプレイを覗く。



自動生産:ON

型番:Hi-K1

調整:全機能Lv100

排出しますか?

[はい][いいえ]



タッチパネルのコンソールのようだ。これは僕では如何ともし難い。上に投げよう。

そう考えていると、何やら衝撃音がした。


慌てて工場から出た僕は、唖然とした。

僕と先輩、上司の三人が乗ってきたバンに、4WDが突っ込んでいる。横から。

運転席には先輩が突っ伏して…いや、シートに圧されている。微動だにしない。上司は見知らぬ男に、銃を突きつけられている。男は知らない言葉を喚き立てている。


言っている事は分からないが、何が起きたかはわかる。所謂火事場泥棒だ。

露わになった施設にあるのは大体、悪の組織が持てる技術を注ぎ込んだ、何処にも出回らない、とんでもない性能を秘めた武器やら何やらだ。悪い奴はそりゃあ欲しいに決まっている。実際そういう物を何度か見た事がある。


男は僕に気付くや否や、上司の頭を銃の柄で殴り、僕の方へ来た。サングラスから目の色は窺えないが、眉間に皺を寄せて、上気した赤い顔をして、上向きに歪んだ口角は引き攣っている。怒っているのか笑っているのか分からない表情だ。


こういう時は、敵意を持たない事を示し、どうぞご自由にお入り下さいと促して逃げてから通報すべし、と教えられている…のだが、男は僕のそんな身振り手振りに目もくれず、肩を組むように首に手を回し、分からない言葉を発しながら、銃で地下工場を指し示す。案内しろ、と言うのだろう。僕は身の安全を第一に考え、首肯し工場への入口を開けた。



男を連れて、また少女の前に戻ってきた。が、男は歯を食い縛り震えている。ものすごい銃火器や化学兵器の山を期待していたのに、宛が外れた、といった所だろう。

その後男は取り乱し、僕に何かを捲し立てた。勿論僕は聞き取れないし理解出来ない。

きょとんとした僕に焦れた男は、顔を赤くして僕を突き飛ばし、コンソールを銃で撃った。途端、けたたましい警告音が鳴り響く。



エラーコード:2204 緊急排出



撃ち抜かれひび割れたコンソール上に、辛うじて見て取れた文字列。この少女が、出てくる…?


巨大ビーカーが持ち上がると、底の機械から外れ、隙間から少女を浮かべていた液体が溢れ出てきた。

僕も男もその液体に戸惑っていると、解放された少女はゆっくりと立ち上がり、男の方へ飛び掛った。


足元に気を取られていた男は反応が遅れ、押し倒される。少女は押し倒した男の胸元から刃物を抜き出し、後ろ飛びに僕の前へ来た。


「お前!雇い主か!?」


背を向けたまま、恐らくは僕に向けられた言葉。しかし意味は分からなかった。


「おい!違うのか!?」

「えっと、ち、ちがう」

「違う!?じゃあここは!?」

「き、君が造られた工場だよ」

「そうだ!で、お前は?」

「僕は、潰れたこの工場を片付けに」

「潰れた!?潰れたのか!?」


どうやら彼女は、自分の置かれている状況がよくわからない様だった。それでも咄嗟に大柄の男に飛び掛ったり刃物を奪ったり、そんな真似がよく出来るものだ。


「オーケー、お前が協力的な事は分かった。コンソールの破壊を検知したが、それはあっちのグラサンハゲだな?」

「う、うん」

「状況。あのハゲがコンソール壊したせいでアタシ様は出て来られた。が、アタシ様を造った奴等はもう居ない。だな?」

「う、うん」

「オーケーオーケー。じゃあ一先ずのミッションはハゲの片付けとお前の確保だな」

「う、うん?」


話している途中から、男は蹌踉めきながら立ち上がってきていた。頭を強打したようだ、かぶりを振っている。足取りも覚束無い。

男が顔を上げた瞬間、裸の少女は、サバイバルナイフ一本だけを携え、再度男へ飛び掛った。


長いポニーテールを振り乱し、男を掠めるように縦横に飛び回る。その度にサバイバルナイフが男を裂き、鮮血が少女を飾っていく。それを何度か繰り返したかと思うと、またも正面から男へ突進し、そして男を蹴ってまた僕の前へ飛んで来た。さっきまで少女の握っていたサバイバルナイフは、蹴られて倒れた男の胸に突き立てられている。



「じゃあ、自己紹介な。アタシ様はHi-K1(ハイケーワン)、高機能戦闘員の11世代1号。Lvは100に設定されている、無敵の戦闘員だ」

「む…無敵…?」

「そ。じゃあお前ん家行くぞ」

「えっ、え?」

「ここじゃ生活できないからな、とりあえずの宿としてお前ん家を使う」

「な、なんで?」

「なんでってお前、お前は大人の男として、こんなライフラインの無い廃墟に全裸の少女置いてくわけ?」

「え、あ、あー」

「納得いったようで結構、ほらジャケット貸して」


僕の家、の部分は納得してないけど…とか、自家発電で電気はあるけど…とか考えつつ、言われるがままジャケットを脱いで、そこで気付く。「待って、血塗れのまま着るの?」

しかし、その問いが口から出る前に、彼女は躊躇い無く僕のジャケットを羽織った。まあ、ハンカチ程度じゃ拭き取れないか。そろそろ暑くなるし、このジャケットは諦めてまた今度買い直そう。


「いいけどさ、僕ん家の前に、会社に戻って報告だよ。いや、その前に救急車かな」


思い出す暇も無かったが、先輩と上司が心配だ。流石に近隣の誰かが通報してくれているだろうか。


「何、片付けって仕事なの?いやそりゃ趣味なわけないか。にしても、変な会社もあったもんだよ」

「その辺の事も教えてあげるから、一先ずうちの会社来てよ。情報交換しよ」

「しゃーないなー、じゃあ先に出ててくれよ、3分で行くから」

「え?何で?」

「お別れくらいさせろっつってんの」

「あ、ああ、わかった」



地上に出ると、何やら物々しい雰囲気だった。緊急車両が数台と警察と救急、あとうちの会社の人が何人か見える。会社の人が僕に気付くと、駆け寄って来た。

さて、説明するには少女がいた方が話が早いかな…等と考えていると、爆音と地震がした。恐らく、震源は足元だ。地下工場の入口の扉が、爆音とともに吹き飛んだから。

そして、扉を失った入口から、黒煙とともに少女が出て来た。


「お待た〜、んじゃ行こうか」


…この子、ほんとに僕ん家に来るの…?

一抹どころか、両手いっぱいでも有り余る不安をもたらした少女。名前はHi-K1…なんだか味気無いので、「ひのき」と呼ぶ事にしよう。




……Next to #02

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