表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はるかな物語3「青春の光と影」  作者: 東久保 亜鈴
6/16

(6)

2学期も半ばに差し掛かったある日のこと。

いつものように、佳奈と春彦は肩を並べて帰宅途中、唐突に佳奈の方から話しかける。

「ねえ、春。

 最近、福山君の道場に行ってないでしょ。」

佳奈は、心配そうな口調だった。

「ああ、あれ以来だよ。

 最近では、すれ違っても無視されるようになった。」

「えー、そうなの?

 中学の頃から、あんなに仲良しだったのに…。」

「……。」

春彦は、苦い顔をする。

「やっぱり、怪我させちゃったのが原因なのかしら。」

佳奈は、春彦を気遣って遠回しに言ったつもりだったが、春彦には直球デッドボールだった。。

「そうだろうな。

 特に田口の前で怪我して、結構、ショックみたいだったし。

 俊介には、本当に悪いことしちゃったよ。」

春彦は、そういうと、小さなため息をついた。

佳奈は、春彦の友人の中で俊介が一番仲が良かったことを知っていたので、春彦の寂しそうな顔をみて、表情を曇らせた。

「その内、きっと、前みたいに話しかけてくれるわよ。

 だって、春と福山君て、親友で仲良しだったじゃない。

 だから、きっと、時間が経てば、また、前の様に仲良しに戻るわよ。」

佳奈は、そう言いながら、涙声になっていた。

「え?」

春彦は、そんな佳奈の態度に驚く。

「おいおい、なんで佳奈が泣くんだよ。」

「え?

 だって、春が寂しそうなんだもん。」

春彦は、まるで自分と同じ痛みを感じているような佳奈をまじまじと見つめる。

「そうだな。

 佳奈の言う通り、その内、また、元の様に戻るだろう。」

「そうよ、絶対にそうなるわ。」

力いっぱい返事をする佳奈を見て、春彦は少し気が晴れた感じがした。

「佳奈に言われると、何だか気分が軽くなってきた。

 くよくよしても、仕方ないな。

 あいつのこと好きだから、気長に待つさ。」

「うんうん。」

佳奈は、一生懸命笑顔を作って頷く。

「そう思ったら、なんだか、腹減ったな。」

「え?」

「佳奈、鯛焼き食べて帰ろう。

 おごるからさ。」

「まあ、春が御馳走してくれるなんて。

 でも、私もお腹空いたわ。

 いつものお店に行こう。」

「おいおい、なんだかんだって言っていつもたかるくせに。」

「えへ。」

佳奈は、すっかり気分を変えて、笑いながら舌を出した。

(佳奈は、いつも、俺を元気にしてくれる)

春彦は、そんなことを思いながら、佳奈と並んで鯛焼きのお店に向かって行った。

佳奈は、春彦の気分が明るく変わったのを感じ、自分まで嬉しくなり、いろいろなことを話しながら、春彦と肩を並べて歩いていた。


しかし、結局、佳奈と話してから、しばらくしても俊介は春彦を無視したままだった。

そして、ある日のこと、いつものように春彦と佳奈は肩を並べて歩いていた。

「結局、福山君とは、あのままなの?」

佳奈が残念そうに切り出した。

「ああ、結局な。

 もともと、クラスも違うし、階も違うから、すれ違うこともなく、尚更かな。」

「そうなんだ…。」

「まあ、前も言ったように気長に待つさ。

 その内、何かのきっかけで、また、前の様に話すようになるかもしれないし、な。」

春彦は、半分自分に言い聞かし、半分は佳奈に気を使わせないように言った。

「そうね、きっと、前みたい仲良しに戻るわよ。

 きっとね。」

佳奈も、春彦が割り切っているのを見て、話題を変えた。

「そう言えば、知っている?

 最近、近くの『五商』の不良が、うちの高校の生徒をターゲットにしているんだって。

 この前は、違うクラスの子がカツアゲされたって。」

『五商』とは、佳奈たちの通っている西高のそばにある高校で、進学コースと就職コースに分かれている学校だった。

もともとは、西高と同じくらいにレベルが高い学校だったが、最近、一部の不良学生が、周りに迷惑行為を行い、問題になってきていた。

「ああ、その話、知っている。

 うちの生徒、結構、おとなしいから狙われているって。

 担任も、寄り道しないで真っ直ぐ帰る様にて言っていたな。」

「嫌だわ、何でそんなことするのかしら。」

「まあ、そういうことをする奴らは、見かけだけで、からっきし弱いって決まっているんだけどな。

 だけど、相手をすると、こっちは内申に響くしな。」

「そうね…。

 あれ?」

佳奈は、不意に目を正面にやった。

佳奈の目線の先には、その『五商』の校章をつけた、どちらかというと不良っぽい2人組が春彦と佳奈の方を見ながらニヤニヤして歩いてきた。

しかし、五商の二人は、近づくにつれ春彦を見て厳しい顔になっていた。

「春、だめよ。

 相手にしないでね。」

佳奈は小声で春彦のブラウスの袖をひいて、呟いた。

そして、すれ違いざま、春彦と五商の二人はにらみ合ったが、そのまま、すれ違っていった。

にらみ合ったといっても、春彦は、何の感情も顔には出さず、無表情で相手を見ていただけで、相手の方が、険しい顔をしていた。

「春。」

すれ違って、すぐ、佳奈は春彦の袖を再度、引っ張った。

「ああ、なにもしなかったろ?」

春彦は、佳奈に話しかけた。

「うん。

 でも、なんだか怖かったわ。

 あの話、本当なんだ。」

「でも、五商の生徒が、みんな不良じゃないよ。」

「うん、わかっている。

 ほら、中学の時に一緒だった田中さんも五商に通っているもの。

 たまに、あったりするけど、変わってないわよ。」

春彦は、佳奈の言うことに頷いて見せた。

(でも、怖かったのは、春のことなのよ。)

佳奈は、すれ違う時に、以前、俊介との組手の際に感じた、嫌な雰囲気を春彦から感じ、怖かったが、声には出さなかった。


それから数日後、ちょっとした事件が起こった。

俊介が同級生を恐喝されたことに腹を立て、その恐喝した『五商』の生徒のところに行き、結果、相手を怪我させてしまった。

「ねえ、春、たいへんよ。

 福山君の話し、聞いた?」

佳奈が休憩時間に息せき切って春彦の教室に飛び込んできた。

「ああ、聞いた。

 俊介が、『五商』の不良に喧嘩を売って、相手を怪我させたって話だろ。」

春彦は顔をしかめて答えた。

「そうなの。

 それで、先生に呼ばれて、たいへんなの。」

春彦は、じっと佳奈の次の言葉を待っていた。

佳奈たちは生活態度もよく、教師に可愛がられているので、正確な情報を知っていた。

「喧嘩した相手が、うちの生徒を恐喝したことが確かなことだと判明したので、今回は反省文で済んだのだけど、次に、もし、喧嘩をしたら、即刻、停学かひどければ退学だって。」

「でも、今回は、お咎めなしなんだろ。」

春彦はすこし安心した。

「そうなんだけど、この前話した『五商』に行っている田中さんから心配して電話があったの。」

「……?」

「『五商』の不良グループが、福山君を絶対に許さないって息巻いているそうよ。

 なんでも、今回、福山君がやっつけた不良って、そのグループの一員なんだって。

 なので、今度はもっと強い番長みたいのが出てくるって噂らしいの。

 福山君に気を付けるようにって、言付かったわ。」

「やれやれ。

 昔の、不良マンガじゃあるまいし。」

春彦は、また、顔を曇らせた。

「田中さんの情報じゃ、その不良グループって、50人位いるんだって。

 それで、番長やそれに近い人たちって、空手や何とかっていう格闘技をやっているって話よ。

 特に番長は格闘技の有段者に引けは取らない実力の持ち主だって。」

「50人?

 それは、大げさだよな。」

「でも、嘘じゃないみたいなの。」

「そうなんだ。

 俊介も、変なのに目をつけられたな。

 なまじ、正義感が強いからなぁ。」

どんなことがあっても、今度、俊介がもめ事を起こすと停学になり、内申書にも影響が出るのに、不良どもにつけ狙われたらと思うと嫌な予感が頭をよぎった。

それから、あけすけに『五商』の不良グループは、西校の近くで恐喝まがいな行為を行い、生徒を震え上がらせていた。

西高の教師も、俊介には絶対に相手にしないようにと念を押しながら、校外の見回りを強化し、西高の生徒に危害が加えられないように気を配っていたが、教師の姿を見かけると不良たちはそそくさと場所を換え、同じことを繰り返していた。

春彦は、なるべく帰りは佳奈が巻き込まれないように、一緒に帰ることにしていた。

佳奈は、春彦が自分のことを心配し、一緒に帰る機会が増えたのを、不謹慎化と思いながら、心の中では歓迎していた。

「春、いつもありがとうね。」

帰り道、佳奈は、素直に言った。

「本当、助かるわ。」

木乃美も、ちゃっかり佳奈にくっ付いて3人で帰ることが多かった。

木乃美も佳奈と春彦の降りる駅が一緒だった。

春彦も、佳奈と同じように木乃美のことも気になったので、一緒に帰るのは、どちらかというと安心でき、好都合だった。

「ああ、どういたしまして。

 不良が間違えてお前たちを襲ったら、不良の方が危ないからな」

春彦は軽口を言った。

「ちょっと、どういうこと?」

佳奈は、怒ったふりをして言い返した。

「冗談だよ。

 佳奈や木乃美には、例え、少しでも怖い思いをさせたり、指の一本でも触れさせないからな。」

「え?」

春彦の思いがけないセリフに、佳奈は、言葉を失い、顔が熱くなるのを感じ、うつむいて小さく「うん」と返事をした。

佳奈は、ふと横を見ると、木乃美も顔を赤らめ、恥かしそうに下を向いていた。

しばらく、三人は沈黙しながら歩いていた。

そして、電車を降り、木乃美は春彦や佳奈と別方向の道に分かれるところで立ち止まった。

「春彦、ありがとうね。

 佳奈だけじゃなく、私まで心配してくれて。」

そういうと、木乃美はぺこっとお辞儀をして、二人に背を向けて歩きだした。

「じゃあね。木乃美。

 また明日ね。」

佳奈は、そう声をかけると、木乃美の方に手を振った。

春彦も、木乃美の後姿に向かって、手を振った。

振り向かず手を振り返した木乃美の顔には万遍の笑みがこぼれていたのを、佳奈も春彦も気が付かなかったが、佳奈には木乃美が恥ずかしいのをごまかす時の仕草を思い出していた。

「なんか、あんな照れた木乃美を見たの久しぶりかな。」

「そうだな、あいつも可愛いとこあるな。」

「まっ!

 春ったら。」

佳奈は、春彦の脇腹を肘で小突いた。


翌日、部活の後、佳奈と春彦は二人で学校を出た。

「今日は、木乃美は用事があるって、先に久美と帰ったの。」

「そうか。

 でも、二人なら安心かな。」

「そうね。

 ねえ、春。」

「ん?」

「昨日言ったセリフなんだけど…私、一人だったら…。」

佳奈は、なぜかもじもじしながら語尾を濁していた。

校門を出て少し歩いたところで、春彦は、それを遮る様に、少し離れたところを見ていた。

「あれ?

 あれって、高野じゃないか?」

「え?

 中学の時に、一緒だった高野君?」

「ああ、あいつ、確か『五商』に進学したんだよな。

 なに、あそこで、きょろきょろしているんだろう。

 挙動不審で、うちの教師に呼び止められるぞ。」

「そうね、本当。

 なにか落ち着きがないわね。」

佳奈は、先程までのことを全て忘れたように、興味が旧友の男子学生に向いていた。

「高野君、『五商』の進学組に入ったはずなのに。

 まさか、不良のメンバーに入ったのかしら。」

「いや、高野に限ってそれはないな。

 もともと、平和主義だし、学生生活を楽しむぞー、ってやつだから。

 ちょっと、行ってみよう。」

「うん。」

春彦に促され佳奈も一緒に、きょろきょろと挙動不審な高野の方に近づいていった。

「おーい、高野。

 こんなところで、何やってんだ。」

春彦が高野の後ろから声をかけると、高野は、びっくりして飛び上がり、おそるおそると振り返り、春彦を確認した。

「ああ、立花か。

 びっくりしぃ。」

「びっくりしたは、ないだろう。

 なんで、おれが声を掛けたらびっくりして飛び上がったんだ?」

「えっ、それは…。」

高野は歯切れ悪く、言葉を濁した。

「高野君、お久しぶり。

 元気だった?」

春彦の後ろから、佳奈がにこやかに笑いながら高野に挨拶をした。

「あっ、菅井も一緒だったんだ。

 お前たち、昔から変わらずいつも一緒やな。」

高野は佳奈の笑顔を見て、緊張が少し薄らいだのか、つられて微笑んだ。

それを見て、春彦は、改めて質問をした。

「それで、どうしたんだ?

 こんなところで、きょろきょろしていると、良くも悪くも目立つぞ。

 それに、最近、そっちの学校とうちの学校、気まずい状態になっているんだから。

 巻き込まれると、たいへんだよ。」

「えっ?!」

高野は、春彦の「巻き込まれると、たいへん。」という言葉に思わず反応した。

そして、決めたように何かを春彦に言おうとしたが、佳奈を見て、躊躇してしまった。

春彦は、ふと気になり、目立たないように周りを見渡した。

そして、少し離れたところのコンビニの駐車場にこっそりこちらを窺っている『五商』の不良グループとおぼしき二人組が目に入った。

そして、逆の方には、西高の教師が通学路の途中に立って、生徒たちの下校を見守っているのが目に留まる。

春彦は、高野の挙動や、不良グループとおぼしき二人組を見て、何とはなく状況がわかった気がして、こっそりと佳奈に耳打ちをした。

「佳奈、きょろきょろしないで話を聞いてくれ。」

「え?

 うん。」

急なことに、佳奈は少し体を強張らせた。

「この先にコンビニがあるだろ。

 そこの駐車場に『五商』の不良の二人組がいるみたいなんだ。

 おれの陰から、こっそり、見える?」

佳奈は、そーっと、春彦を壁にしてコンビニの方を窺った。

「うん、二人いたわ。」

「なんだか、雲行きが怪しいから、こっそり戻って、見回りの先生に言ってきてくれないか?

 先生、少し戻ったところに立っているから。」

「うん。

、熊野先生でしょ?

 さっき、見かけたわ。

 あの先生、迫力あるから。

 わかったわ。

 で、春は?」

「おれ?

 ちょっと、高野と話をしたいから、ここにいるよ。」

「うん、じゃあ、ちょっと行ってくるわね。」

佳奈は、春彦に言われたことに何も疑問を持たずに、踵替えして、何事もないように歩き出した。

「さんきゅー、佳奈。」

春彦は、佳奈の後姿に向かって小さな声で言った。

こういう時、特に聞き分けが良くなる佳奈に、春彦はいつも感謝していた。

佳奈としては、本当は、いろいろと聞きたいのだが、いつも何かあると、後ででもきちんと説明をしてくれるので、春彦を信頼し、素直に言うことを聞いていた。

佳奈が離れていったのを見届け、春彦は高野の方に振り返って、うつむきがちに話の続きを始めた。

「で、どうしたの?

 何か困ったことに巻き込まれたのか?」

「あっ、ああ、そうなんだ。」

「後ろにおっかないのがこっちを見ているけど、あれか?

 あっ、振り向かなくていいから。」

「ああ、実はそうなんや。

 立花も知ってるんな?

うちの学校の問題児と福山の件。」

「ああ、知ってる。

 『五商』の不良グループと俊介がいざこざを起こし、不良グループが俊介にお返しをするって、息まいているって件だろう。

 それより、お前、変な訛になっているよ。」

高野は少し顔をゆがめたが、話しを続けた。

「うん、ほら、俺ら中学の時、結構、仲良かったじゃん。

 それで、うっかり俺が福山の友達で、あいつのことを良く知ってるけって、口を滑らして。」

高野は、そこで一回言葉を切って、唾を飲み込んだ。

「そうしたら、それが不良グループの耳に入って、これを渡して来いって。」

そういって、高野は茶封筒を取り出して、春彦に見せた。

「なんだ、それ?」

「中は、福山への呼出し状みたい。

 今日中に福山へ渡せって言われて。

 渡せなかったら、袋にするって脅かされてるんよ。」

高野は、小刻みに身震いをしていた。

「なんか、友達を売るみたいで気が進まなくてさ。

 でも、渡さないとあいつらに何をされるかわからないっしょ。」

「なんで、あいつら、俊介の家に直接行かないんだ?」

「ああ、福山の家の職業を話してあるからじゃないか。」

「お前が言ったの?」

「うん、福山の家は警備関係の仕事で、道場があって、みんな鍛えちょるって。」

「そうなんだ。

 でも、それなら尚更、俊介に手を出そうとしないはずだよな。

 なんせ、俊介はああみえても、有段者でかなり強いからな。」

「それがさ、不良グループのボスも空手かなんかの格闘技の有段者で、また、その取り巻きの親衛隊って呼ばれている奴らも結構強いって噂でさ、それが出張って来るみたいなんよ。」

春彦と会話しているうちに高野は何か元気が出てきて、口が滑らかになっていた。

「ふーん、そうなんだ。

 だけど、お前、やっぱり変な訛り。」

春彦は、そう言いながら、佳奈の向かった先に目をやった。

佳奈は、見回りの熊野という教師のところで話をしていた。

が、その話も終わったらしく、熊野という教師のみがこちらに、正確に言うと不良たちがいるコンビニの方に歩き出していた。

それを見て、春彦は顔を上げ、高野の方に手を出した。

「わかった。

 その手紙、おれが今日中に俊介に渡してやるよ。」

春彦は口の動きで、後ろで見ている不良たちにも内容がわかる様に、少し声のトーンも上げて話した。

「え?

 いいんか?」

高野は地獄に仏のような顔で春彦に聞き直した。

「ああ、だから、不良どもには、俊介の友達に渡すように頼んだと言っておきな。

 うーん、そうだ。

 届けたら、夜、高野の家に電話するって付け加えておけばいいかな。」

「そうだね、そうする。

 でも、だれに渡したって聞かれたら、立花の名前を出していいか?」

「ああ、いいよ。」

春彦は普通の顔で答えた。

その顔を見て、高野は、思いっきりほっとした顔になった。

うしろでは、丁度、熊野に追いやられて不良たちが退散するところだった。

「助かるよ。

 恩に着るっす。」

高野は、そう言いながら、手を合わせ、春彦に何度もお辞儀をした。

「おいおい、お地蔵さんじゃないんだから。

 高野も気をつけてな。」

「サンキューでっせ。

今度、何かおごるからね。」

「ああ、期待してるよ

 でも、お前、その変な口癖、直せよ。」

高野は用事が済んだので、とっととこの場から立ち去っていった。

春彦は、高野の後ろ姿に手を振っていた。

「春、高野君は?」

後ろから佳奈の声が聞えた。

佳奈は、熊野に説明をした後、熊野が不良に向かって歩き出した後、しばらくしてから春彦のもとに合流してきた。

「ああ、用事が済んだのと、不良がいなくなったので、とっとと帰ったよ。」

「そうなんだ。

 で、なんの用事だったの?

 やっぱり、福山君の件?」

佳奈は興味津々に春彦に尋ねた。

「ああ、その通り。

 高野が俊介と中学の時一緒で、親しかったっていうことが、不良たちの耳にはいったみたいだ。

 それで、俊介を見つけて連れて来いって、脅かされていたんだよ。」

「まあ、ひどい。

 だから、高野君、おどおどしていたのね。」

「ああ、それで熊野先生が、その不良どもを追っ払ったから、チャンスとばかりに帰ったってわけだよ。」

「そうなんだ。

 でも、そうならば、明日も、脅かされて福山君を捜すのかしら。」

佳奈は、顔を曇らせて言った。

「うーん、どうだかな。

 今日は、帰りにいきなり捕まったって言ってたし、明日、学校の先生に相談してみるって言っていたからな。」

春彦は、めずらしく佳奈に嘘をついた。

「そうなんだ。

 ならば、大丈夫ね。」

「そうかもな。

 それに、いざとなれば、あいつ逃げ足は速かったからな。」

春彦は、笑いながら言った。

「まあ、他人事みたいに。」

佳奈は、不謹慎と怒るそぶりをした。

「佳奈、なんかお腹すかないか?」

「え?

 うん、空いた。」

佳奈は、小声で恥ずかしそうに言った。

「じゃあ、鯛焼き食べて帰ろ。」

「うん、春のおごりね。」

一転、佳奈はうれしそうな顔をし、それから、二人は、いつもの鯛焼きを食べて、帰宅する。

佳奈と別れた後、春彦は、高野から預かった茶封筒を開け、中に入っている紙を出してみた。

内容は、呼出し状で、明日の放課後、時間指定で待つと書いてあった。

来ない場合、また、他の人間に密告したら、西高の生徒をあたりかまわず危害を加えるというものだった。

春彦は、それを読んで、ため息をついた。

「いったい、いつの時代だよ。

 しかも、出来の悪い不良漫画みたいだし。

 こういうのって、本当にあるんだな…。」

半分、呆れて書いてある紙をつまんでひらひらと振っていた。

「さて、どうするかな。

 空手の有段者か……。

 ちょっと、お目にかかりますか。」

春彦は、最初から俊介にこのことは言わずに、自分一人で相手をする気でいた。


翌日、放課後、春彦は佳奈に用事があるから先に帰るので、友達と一緒に帰る様にと話し、一人不良グループに指定された場所に向かった。

一方、佳奈は、いつもの仲良しグループと待ち合わせしている校門のところにいた。

しかし、一番乗りだったのか、他の皆はまだきておらず、手持ち無沙汰に校門のところでぶらぶらしていた。

「佳奈ちゃん?」

知った声に佳奈は振り返った。

そこには、『五商』の制服を着たおさげの女学生と、昨日会った、高野が立っていた。

「もっち?

 田中さん?」

もっちと呼ばれた田中は、佳奈に向かって頷いた。

「わあ、この前の同窓会以来ね。」

佳奈は、嬉しそうに田中の手を取って話しかけた。

「うん、この前は楽しかったね。

 また、ちょくちょくやろうね」

「うん。」

佳奈は、そう言うと、ふと、すまなそうな顔でたたずんでいる高野の顔が目に入った。

「高野君?

 どうしたの?」

佳奈が怪訝そうに聞くと、田中はあっと用件を思い出し、息せき切って話し始めた。

「そうそう、佳奈ちゃん、聞いて。

 昨日から、高野がなんかおどおどしていたから、今日、問いただしてみたのよ。

 そうしたら…。」

それから、田中は、昨日、春彦と高野が交わした会話の内容を説明した。

佳奈は、その話を聞きながら、だんだんと険しい顔になっていた。

「で、高野君、その手紙に何が書いてあったか知っているの?」

佳奈は、いつもと違い、きつい口調で高野に話しかけた。

高野は、いつもおっとりしている佳奈が緊張した声で問い詰めてきたので、びっくりして口籠った。

「ほら、あんた、内容知っているんでしょ。

 話しなさいよ。」

田中もきつい口調で高野に詰め寄る。

田中は、友人を不良に渡したようなことをした高野に腹の底から怒っていた。

高野は、二人の剣幕におそるおそる、手紙は不良グループから俊介への呼出しの内容で、日にちや時間と場所が書いてあったこと、無視した場合どうなるかが書かれていたことを話した。

高野の話が終わるや否や、佳奈はいきなり小走りに走り始めた。

「ちょっと、佳奈ちゃん。」

田中が、佳奈を呼び止めようとした時、すでに佳奈は走り出していた。

田中は、佳奈が急に走り始めたのをあ然としてどうしたらいいかわからず、立ち尽くしてしまった。

「どっ、どうしよう……。」

「あれ?

 田中さんじゃない?」

田中は自分の名前を呼ぶ声に、はっと振り返った。

そこには、やはり中学時代仲の良かった木乃美が笑顔で立っていた。

「あっ、木乃美ちゃん。

 大変なの。」

田中は、泣きそうな顔になって木乃美に急いで状況を話した。

「え?

 それじゃ、佳奈は場所を聞いて飛び出していったの?」

「そうなのよ。

 あっという間に駆け出して。

 私、どうしたらいいかわからなくて。

 この人が、変なことするから。」

田中は、そういうと高野をにらみつけ、睨みつけられた高野は肩をしぼませた。

「行った先に、春彦がいるのならば、たぶん、大丈夫ね。

 春彦、ああ見えても結構、腕っぷしは強い方だし、特に佳奈が絡むとね。」

「そうなんだ。」

田中は、木乃美の話を聞いて少し、ほっとした。

「でっ、でも、立花がいくら強いって言っても、不良グループ、10人以上いるんでっせ。

 それに、今回は空手の有段者も入ってるんよ。」

高野が、おどおどしながら横から口を挟んだ。

「うーん。

 でも、たぶん、大丈夫じゃないかな。

 さっきも言ったように、佳奈がいると、春彦は佳奈を絶対に守ろうとするから。

 それより、あんた、何て変な訛りなの?

 どこの生まれよ?」

「こいつ、いろんなアニメに影響されて、変な言葉遣いになっているのよ。」

呆れたように田中が言った。

木乃美も呆れた顔をする。

「でも、ともかく、そこに行ってみましょう。

 場所はどこ?」

「場所は、鷲沼鉄工所跡地だと書いとっと。」

木乃美が高野に尋ねると、高野は即座に返答した。

「鷲沼鉄工所跡地?

 佳奈は、それを聞いて走り出したってことは、場所を知っているのね。

 私は知らないなぁ。

 田中さんや高野君は、場所、わかる?」

「ううん、知らないわ。」

「俺もわからんない。」

3人とも場所がわからないことには、どうすることもできずに途方に暮れてしまっていた。

「うーん、困ったわね。

 もう少ししたら京子や慶子たちが来ると思うから、それまで待つしかないわね。」

木乃美は冷静に言った。

木乃美の中では、春彦なら絶対に大丈夫という確信があった。

田中はやきもきしていたが、すぐに、京子や慶子、久美が集まった。

だが、だれも、その場所に検討は付かなかった。

「そうだ、福山君に聞いてみよう。

 福山君なら、わかるかも。」

京子が不意に言いだした。

「え?

 でも、福山君、学校にいるの?」

慶子が不思議そうに聞いた。

「うん、こんな時だから、下校の時間をずらして、みんなが帰るまで校舎の中にいるのよ。」

「え?

 何で知ってるの?」

「あはは、うちの道場で遊んでるの。」

「えー!」

京子があっけらかんというと、皆、呆気に取られてた。

「そんなことより、それなら、早く行きましょう。

 春彦ならと思うけど、もしものことがあるといけないから。」

木乃美が、急に嫌な感じがして、真顔で言うと、皆頷いて弓道部の道場に向かった。

木乃美は、どうしていいかわからず呆然と立ち尽くしている田中と高野に気が付いて声をかけた。

「田中さん、高野君、知らせてくれてありがとう。

 結末は、あとで、田中さんに連絡するね。」

「え?

 私たちも、一緒に…。」

「大丈夫。

 それに、あなたたち、不良に目をつけられるといけないから。

 後のことがあるでしょ。」

田中は、一瞬、考えたが、素直に木乃美の言うことを聞くことにした。

「じゃあ、なにかあったら、すぐに連絡ちょうだいね。」

そういうと、木乃美に携帯の番号を書いて渡した。

「おおー、携帯、持ってるんだ。

 今時だね。」

木乃美は、素直に驚いて田中たちと別れ、みんなの後を追った。


その頃、春彦は不良グループから指定された鷲沼鉄工所跡地にいた。

鷲沼鉄工所跡地は、鉄工所の跡地で、引っ越したか何かで、5、6年前くらいから広い更地になっていた。

場所的にも、幹線道路から少し中に入ったところで、周りは山や野原で人通りはめったにないところだった。

春彦が跡地に足を踏み込むと、少し離れたところに不良たちが屯しているのが見えた。

そして、見張りと思しき数名の学生は春彦が着いたと同時に両脇を固めるようにして、その屯している輪の中に連れて行った。

そして、15人位いるだろうか、相手校の学生たちが、春彦を取り囲み、皆、肩を怒らせるように凄んで見せた。

「おい、お前が福山か?」

一人が叫んだ。

「おまえ、最近、この前、うちの仲間を痛めつけてくれたそうだな。

 今日は、ちょっと、そのお礼をさせてもらうからな」

リーダー格の学生が春彦に向かって声をかけた。

その時、取り巻きの一人が声をあげた。

「陣さん、そいつ、違います。

 福山じゃなくて、やつの仲間です。」

陣と呼ばれたリーダー格の学生は眉間に皺を寄せた。

「なんだって?」

「悪いな、漫画に出てくるような設定で。」

そこで、春彦はうんざりというような声を出す。

「てめえ、何舐めてんだ。」

「いや、ただ、招待状を受け取っただけだ。」

「なにー、お前になんて呼び出してねえよ。」

「そうかい?

 なんか、手紙をもらったけど。」

ひょうひょうとしゃべる春彦に、相手はだんだんと怒りが頂点に達してきた。

「陣さん、構うことないよ。

 まず、こいつ、やっちゃいましょうよ。」

「こいつだったら、陣さんの手を借りるまでもないんで、うちらだけでやっちゃいます。」

ほっそりした体形の春彦を見て、自分たちの方が優位と思ったのか、福山に喧嘩を吹っ掛け返り討ちに合った5人が興奮して口々に叫び始めていた。

何分、今日は、大勢であること、また、リーダー格で空手の有段者の陣という学生と、その親衛隊と言われている腕が立つ学生が何人も後ろにいることで、怖いもの知らずになっていた。

実際、一人に対し10人以上いれば、数の優位から、そうなることは当たり前だった。


その騒ぎを、少し離れたところに停まっている車の中から二人の男が見ていた。

「おい、予定と違うじゃないか。」

「俺にもわからない。

 シナリオだと、あいつの友達が来て、半殺しの目にあうはずだったんだが」

「怒らせないとだめだろうに、あれだと、あいつの本来の力がわからないだろう。」

「確かに」

「おっ、あれを見ろ」

男たちの目線の先には佳奈が映っていた。


その車の中の会話を知らず、春彦は恐れる様子を見せずに、口を開きひょうひょうと話し出す。

「福山は昔からの友人でね。

 ここは穏便に話し合いで、解決できないか?」

そう言いながら、自分も随分漫画じみたセリフだなと思っていた。

その時、春彦の目線の片隅に、佳奈が塀を盾てにして固唾を飲んで見守っているが映った。

(ちっ、余計なところに)

春彦は、心の中で唸る。

「何をいまさら。

 ビビリ君かぁ」

誰かが、そう、春彦に罵声を浴びせると、ドッと、一同が笑った。

明らかに、春彦が尻尾を巻いて許しを請うのを今か今かと待っているようだった。

しかし、その当てが外れるように、春彦は無表情のままだった。

取り囲んでいる学生は、そんな春彦を見ているうちにだんだんと嫌な感覚に襲われてきて、苛立ち始めていた。

その親衛隊と呼ばれる中の一人が金属バットを持って、春彦の前に立ちはだかる。

「てめえ、舐めてんじゃないよ。」

その学生は、春彦に罵声を浴びせて、いきなり金属バットを振りかざし、上から春彦の頭上に振り下ろす。

金属バットが春彦の頭に当たり、「がっ」という鈍い音がした。

「きゃ。」

佳奈が小さな悲鳴を上げたのと同時に車のクラクションの音が佳奈の悲鳴をかき消すように鳴る。

だが、不思議と誰も佳奈の方には振り向かず、皆、春彦を見ていた。

正確に言うと、眼を逸らすことができず、釘付けになっていた

春彦と佳奈の間に金属バットで春彦を襲った学生がいたので、その陰で春彦の状況が、佳奈からは見えなかった。

そして、春彦ではなく、金属バットを持っている学生の方が、ゆっくりと腰を抜かしたようにしゃがみ込む。

学生がしゃがみ込んだので、佳奈から春彦の姿を正面から見ることができた。

佳奈は、春彦の頭から一筋の血が流れているのが目に入った。

「どっ、どうしよう。

 春が大怪我してる。」

佳奈は春彦の怪我を見て心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた。

しかし、ふと周りを見ると、春彦を中心に囲んでいた学生たちの雰囲気がおかしいことに気が付く。

学生たちは、皆一同に額から汗が流れ、息遣いが荒くなっていた。

そして、ゆっくりと春彦が動き始めると、ある者は、春彦の拳がいつの間にか自分の顔面にめり込み、嫌な音とともに前歯がへし折れ、鼻血が止まらず、苦痛で悶えるしかなかった。

また、ある者は、やはり同じように春彦の拳がいつの間にか鳩尾に吸い込まれると同時に肋骨数本が砕ける音とともに苦痛が押し寄せてきた。

また、ある者は春彦に腕を掴まれ、捻じりあげられ、腕があらぬ角度に曲がり、悶絶した。

しかし、それらはすべては現実ではなかく、まるで現実に起こったような感覚で、そこにいた全員が何かしら春彦に打ちのめされたように感じていた。

それは、圧倒的に力の差がある者から受ける殺気のようなものだった。

そして、気の弱いものから、腰を抜かしたようにその場にへたりこんで行った。

「なんだ、こいつ。」

陣も、腕を取られ、ねじ切られたような恐怖の感覚に襲われていたが、さすがに、リーダー格だけに、何とか耐えていた。

しかし、圧倒的に不利と感じ、ふと、先程、車のクラクションが鳴った方向にいた佳奈のことを思いだした。

(あの女、こいつの知り合いか。)

そう思うと、陣は佳奈を探し、親衛隊を自分の壁にし、そっと輪の中から外れていった。

その他の学生は、完全に恐怖で戦意を喪失し、その場でしゃがみ込むか、虚ろな顔で立ち尽くすだけだった。

「きゃあ、痛い。」

佳奈の悲鳴が聞こえ、その悲鳴の方に春彦は目をやった。

そこには、佳奈の髪を鷲掴みにして、頬にナイフのような刃物を当てている陣が見えた。

その瞬間、春彦は、眼の前を真っ赤なセロハンで覆われたような気がして、自分が自分ではなく、激しい殺意の塊になっていた。

「オマエガ、…コロシタ…ノカ?」

「あー、なんだって?」

佳奈を掴んでいる陣は、春彦の言う意味がわからなかった。

ただ、佳奈を人質にとったことで、優位な立場になったということを心の糧にし、気力を振り絞っていた。

「ひぃ!」

しかし、陣は、自分を見ている春彦の目が、まるでぽっかりと穴が開いて、底なしの闇の様で、口は薄笑いを浮かべているように見え、とても直視が出来ないような禍々しい何かに感じ、思わず小さな悲鳴を口に出した。

捕まえている佳奈の人間らしい暖かさを感じていなかったら、とっくにこの場から逃げていたのだが、生半可に佳奈を人質に取ったため、逃げることも出来なくなっていた。

「春…、どうしたの?」

佳奈も、雰囲気がたまに怖くなるような別人に変貌していく春彦を、ただ、あ然と眺めていた。

佳奈にとって春彦は、見た目、どこが変わった訳ではなかったが、春彦の周りの空気がどす黒く禍々しいものに変わっていくようで、とても、恐ろしく、気持が萎えていくのを感じた。

それは、この前、俊介の道場で見せた、全く別の春彦のようだったが、しかし、今日は、そんなものの比ではないと佳奈は感じた。

「うるさい、黙ってろ。」

陣が佳奈の頬にナイフを押し付け叫んだ。

自分が空手の有段者であることを忘れたように、ただただ、ナイフに頼っているようだった。

陣は、恐怖と逃げなかった後悔で、びっしょりと汗をかき、呼吸も乱れていた。

「おい、この女に怪我させたくなければ、そこを動くな。」

春彦に向かって、搾り出すような声で、叫んだ。

春彦は、そんな声が聞こえないように、佳奈の方に向かって速足で近づいていく。

「カナ、メヲツブッテ」

佳奈は、そういう声が聞えた気がしたのと、全く別人のようになってしまった春彦を見ていられず、目を固く閉じ、身体も固くしていた。

「おい、本当に止まらないと、この女がどうなっても知らないぞ。」

最後通告の様に、学生は息を切らせながらわめいた。

しかし、春彦は構わず近づき、ナイフと佳奈の頬の間に、自分の手を滑り込ませた。

「うわああ…。」

陣は恐怖のあまり、佳奈をつかんでいる手を離した。

その瞬間、春彦は佳奈の腕を取って、自分の懐に抱き寄せた。

そして、佳奈に近づかせないように片方の手を陣の方に伸ばした。

陣は、半狂乱になりながら、ナイフをブンブン振り回していた。

シュッという音とともに、春彦の前腕をナイフの刃先が滑り、ブラウスが切れ、そこから血が流れ始めていた。

「くっ、来るなー。」

陣は、訳の分からないことを大声で叫んでいた。

そんな陣から目を離さず、春彦は佳奈を庇うように自分の後ろにそっと追いやった。

陣は悲鳴にも似た声を上げ、再度ナイフを振り回しながら春彦に向かって行った。

しかし、春彦の近くでよろけて体制を崩し、意図したものではなく、ナイフを春彦の脚に突き刺してしまった。

おそらく、そのまま倒れていたら自分のナイフで自分を傷つけていたが、たまたま、春彦の足にナイフが刺さり、倒れずに済んだものだった。

春彦は、刺された痛みを感じないかのように平然と相手のナイフを持っている腕を切られた方の腕で掴んで、容赦なく捻った。

陣は痛みでナイフから手を離し悲鳴を上げた。

春彦の切られた腕からは、力を入れているせいか、血が流れていた。

それでも、春彦は捻じりあげる力を緩めず、とうとう、陣の肩からゴキゴキと嫌な音がして、肩が脱臼の様に外れていった。

陣はあまりの痛みに、声にならない声を上げ、うずくまろうとしたが、春彦が手を離さなかったので、尚更、捻じりがひどくなり苦痛が倍増していた。

「春、手を離して。」

春彦の後ろに隠れていた佳奈は、目を開き、春彦と陣の方に目をやった。

そこには一方的に傷めつけられている陣の姿があり、無表情で陣の腕を絞り上げ続けている春彦が見えた。

その無表情な顔の春彦と陣の悲痛な悲鳴を聞いて、恐怖より止めなければという強い気持ちが優り、慌てて春彦を制した。

「オマエガ、…ヲコロシタノカ。」

春彦は、佳奈の制止が聞えていないように、聞き取れないようなくぐもった声で苦痛に呻いている陣に向かって話しかけていた。

「春、だめー!」

これ以上は、たいへんなことになると察した佳奈が、自分で何をしているのかわからず、本能のまま叫び春彦の正面に回り、春彦に抱きついた。

「…」

春彦は抱きついてきた佳奈を感じ、陣を掴んでいる手を離した。

陣は、苦痛と恐怖とで顔を涙でぐしゃぐしゃにし、失禁しながら、外れた肩を押さえるようにうずくまる。

親衛隊の中から、なんとか動ける2~3人が、春彦を恐怖の目で見ながら、うずくまっている陣のところに来て、抱えて両方から陣を抱えあげた。

相手の学生たちからは、春彦とやり合おうという気が失せていて、ただただ、恐怖に駆られ、早くこの場から逃げることだけを考えているようだった。

そして、肩を怪我した陣を抱きかかえながら、全員、ある者は悲鳴に似た声を上げ、逃げるように思い思いに散っていった。


「ちっ」

車の中の男の一人が舌打ちをする。

「陣て、あんなに弱かったか?」

「いや、そんなでも」

「まあ、仕方ない。

 何が起こったか、まったくわからん。

 結局、ナイフを振り回して自滅か」

「そんなところだな」

「長居は無用だ」

「OK」

二人の男を乗せた車は、そのまま何処かに走り去っていった。


佳奈は、不良グループが雲の子を散らすように皆、逃げって行ったのを見て、ほっとした。

が、すぐに、春彦から血の匂いを感じた。

恐る恐る春彦の方を見ると、春彦は頭や左腕、左脚から大量に血を流していた。

佳奈は一気に頭に血が昇った気がした。

「たいへん、春、怪我している。

 頭から血が出ているし、腕も、それに…。」

恐る恐る春彦の足をみると、左脚の腿の辺りにナイフが生き物のように刺さっているのが見えた。

佳奈は、気が遠くなるのを感じたが、一生懸命、気持を奮い立たせた。

「足にナイフが刺さっている。

 ねえ、お願い、じっとしていて、すぐに救急車を呼んでくるから!」

佳奈が、春彦を座らせようとしたが、春彦は、佳奈を手で制し、もう片方の手で刺さっているナイフの柄を掴み、無雑作に腿から抜き取った。

そして、抜き取ったあとから血が流れ出ていた。

「いやー!!

 春、無茶しないで!

 大丈夫?

 痛くない?

 すぐに救急車を呼ぶから。」

佳奈は、いきなり春彦がナイフを抜いたりしたので、パニックに陥っていた。

佳奈のブラウスも随所に春彦の血で赤く染まっていた。

しかし、そんなことも気にせず、手で脚の傷を押さえ、血を止めようと奮闘する。

「?」

が、すぐに、春彦の様子がおかしいことに気が付いた。

まだ、いつもの春彦でなはない、別の春彦が目の前にいる感じがした。

「は…る…。

 私よ、佳奈よ。

 わかるでしょ。」

恐る恐る佳奈は、春彦に声を掛けて立ち上がり、春彦の頭の後ろに手を回し引き寄せた。

佳奈と春彦は身長差で10㎝以上離れていたので、春彦は背中を丸めるように佳奈の肩のあたりに顔を近づけた。

佳奈は、春彦の耳元で優しく声をかけた。

「私は大丈夫だから。

 安心して。

 それより、春が大怪我しているの。

 早くお医者さんに行かなと。

 ね、春。」

春彦は、無言だった。

佳奈は、ハッと春彦が陣に向かって言った言葉を思い出した。

(「お前が、…を殺したのか…」

 確かに春はそういった。

 誰が死んだの?

 あっ…。)

その意味は、佳奈にはわからなかったが、春彦の心のピースが一つ欠けている気がしてならなかった。

そのピースを埋めることができれば、もしくは、ふさぐことが出来ればと、佳奈は懸命に考えを巡らせていた。

そして、佳奈は、涙声で春彦に話しかけ始めた。

「春、いつも一人だったの?

 でも、悠美姉は、もういないけど、私がいるから。

(私が、春彦のことを好きな私がずっと一緒に居るから)

 私が悠美姉の代わりにいるから。

 ね、だから、安心して。」

佳奈は、心と裏腹なことを言葉に出した。

本当は、春彦の恋人として傍にいたいのだが、全く違うことを言っている自分に悲しくなっていた。

ただ、今の春彦には恋愛相手より、肉親、そう、兄妹の様に、何も気にしなくていいが、離れていても決して切れない完成されたパズルのピースが必要に思えてならなかった。

すると、春彦は、力が抜けたように、身体が傾き今にも崩れ落ちそうになった。

佳奈は慌てて春彦の身体を支え、懸命に支えながらそっとしゃがませ、そして、支えるように抱きしめた。

「春、しっかりして。

 お願い、死なないで。」

佳奈は、泣きながら、春彦の頭の傷に自分のハンカチを当て、腕から流れ落ちる血、足の傷から流れる血を見ながら、泣きながら大きな声で話しかけていた。


「あ、いたいた。」

どこからか声がして、佳奈は、その声がする方を見ると、木乃美達と俊介が走ってくるのが見えた。

「木乃美!!

 助けてー、こっちぃー。

 春が、大怪我しているの。

 死んじゃうよー。

 早くお医者さんを。」

佳奈は、木乃美達を見ると、絶叫した。

「佳奈…。」

ふと佳奈に寄りかかっていた春彦が声を出した。

佳奈は、すぐに視線を春彦に戻した。

「春?

 大丈夫?

 しっかりしてね。

 いま、救急車呼ぶから。」

佳奈は、取り乱し、興奮した話し声になっていた。

「佳奈」

それを制するように春彦は、再び、佳奈の名前を呼んだ。

今度は、しっかりした声だった。

その声で、佳奈は少し落ち着きを取り戻した。

「春……。」

「佳奈、大丈夫だよ。

 血は出ているけど、たいしたことないよ。

 ちょっと疲れただけ。

 もう大丈夫だから、心配しなくていいよ。

 それより、佳奈は大丈夫か?

 怖くなかったか?

 怪我はないか?」

春彦がいつもの春彦に戻ったのを感じ、佳奈はほっとしたのと、怖いと感じたのは他でもなく、春彦だったことを思いだした。

しかし、そんなことをおくびにも出さずに、安心させるように春彦に話しかけた。

「私は大丈夫よ。

 それより、心配するなって言ったって、バットで頭を殴られて、ナイフで切られて血がたくさん出ているのに、心配するに決まってるでしょ。」

「ふう。

 あいつらからの呼び出し状を俺がどこかに落とし、それを佳奈が拾って、血相変えて飛んできた。

 それを見ていた佳奈の友達が何だろうと、そこに俊介も加わって…

 本当に出来すぎたドラマだな。」

春彦は、ため息交じりに呟いた。

「ちょっと、立花、大丈夫なの。」

京子、久美、慶子、木乃美、そして、俊介が佳奈に抱きかかえられている春彦を取り囲み心配そうに二人を覗き込んだ。

「救急車、呼ぶね。」

久美が、慌てて言った。

「ちょっと待って。

 春彦、傷を見せてね。」

木乃美が制する様に言い、丹念に、春彦の傷を一つずつ診ていた。

「木乃美?」

佳奈が、心配そうに木乃美の名前を呼ぶと、木乃美は、にっこり笑いながら言った。

「うん、腕の傷は、深くないわね。

 傷口が浅く広いから、血がたくさん出ているように見えるけど、もう止まってきているし。

 足は、傷自体は大きくないけど、深いわね。

 でも、血管とか切れていないみたいだから、これなら大丈夫。

 頭は……。」

木乃美は傷を丹念に見ながら、涙ぐんでいた。

そして、春彦の顔に両手を添えて、自分の方に近づけ、頭の傷を丹念に確認した。

「頭は、擦り傷みたい。

 すこし、こぶが出来ているけど、大丈夫そう。

 春彦、気分は大丈夫?

 気持ち悪くない?」

「ああ、疲れただけだよ。」

木乃美は、安心した様に息を吐いた。

「救急車を呼ぶと、後が厄介じゃない?」

佳奈は、木乃美が言っている意味が分かった気がした。

「あ…」

「そうね、これじゃ、転びましたって言う話は通らないわね。」

「京子…」

「そうなれば、喧嘩ということで警察沙汰になるわね。

 学校に知れたら、受験も響くし。」

「慶子。」

佳奈は、冷静に状況を把握し、対処を考える友人たちを、ただあ然と見ていた。

「みんな、ハンカチやタオル持ってる?

 タオルみたいのがあるといいんだけどな。

 それと、お水がほしい。

 傷を洗浄したいから。」

木乃美がみんなに指示を出した。

「わかった、私、途中にあったコンビニで水を買ってくるわ。

 そこで、タオルもあれば、見てくるわ。」

「それなら、氷もお願いね。

 頭を冷やすから、細かくなっているのがいいわ。」

「わかった。

 慶子、一緒に来て。」

久美に言われ、慶子はうなずいて付いて行った。

「ああ、タオルなら持ってる。

 これを使ってくれ。」

俊介は、木乃美達のてきぱきとした行動にあ然としながらタオルをバックから取り出した。

「うーん、だめね、これは。

 泥だらけじゃない。

 久美たちが戻ってきて、タオルがなければ、それを洗って使いましょう。」

「っていうか、おまえ、すごいな。

 親は医者か?」

俊介は、まじまじと木乃美を見て言った。

「違うわよ。

 私、これでも病弱少女なのよ。

 だから、しょっちゅう保健室のお世話になって、それで、いつのまにか保健室の先生の手伝いをさせられて、応急処置くらいは覚えたの。」

「へえ、すごいな。」

「違う、違う、木乃美ったら、しょっちゅう、授業をさぼりたくて、具合が悪くなるのよ。」

横から、京子が口を挟んだ。

京子も、木乃美の見立てを聞いて安心し、軽口をいった。

「もう。

 保健室に咲いた一輪の華麗な花に向かって!」

「え?

 雑草じゃないの?」

木乃美と京子は状況とそぐわないような、軽口の応酬をしていた。

佳奈は、ただ、あ然と春彦を抱えながらそのやり取りを見ていた。

そうしながら、木乃美は、佳奈の方に目をやった。

「佳奈も、ブラウス、血だらけじゃないの。

 どこか怪我してない?」

木乃美は、佳奈を見て心配げに尋ねた。

その一言に、春彦は自分で上半身を起こし、佳奈を見た。

「佳奈、ほんとうか?

 やっぱり怪我したのか?」

春彦の心配そうな顔を見て、佳奈はいつもの春彦に戻ったことを実感し、心の底からほっとした。

「ううん、大丈夫よ。

 これ全部、春の血だから。」

その一言に、春彦は安どのため息をついた。

「おい、立花、何で…。」

俊介は、何で自分の代わりに無茶をしたのか春彦に尋ねようとしたが、春彦の注意が一身に佳奈に向いているとわかり、口をつぐんだ。

「ん?

 俊介、何か言ったか?」

「いや、また、今度ゆっくり聞くよ。」

俊介はかぶりを振って答えた。

「俊介、お前、どう思っているか知らないけどさ。

 中学の時、転校してきた俺に、初めに声をかけてくれたのがお前だった。

 すげえ、嬉しくてさ、俺の中で、お前は勝手に無二の友達になっていたんだよ。」

「立花…。」

俊介が何か言おうとしたところに、久美と慶子がコンビニの袋を下げて戻ってきた。

「ほら、水と、氷とタオル、あと、絆創膏に包帯も。」

「ありがとう。

 それだけあれば、完璧ね。

 ほらほら、男通しの胸キュンの話しは、また後にして。

 佳奈、手伝ってね。」

「うん。」

木乃美は手際よく、春彦の傷の手当てを始めた。

まず、水で血や泥を洗い流し、切られた腕は、傷をハンカチで押さえ、その上から包帯を巻き、足のケガも同様にタオルを包帯代わりに巻いて止血もかねて固定していた。

頭も、水で血を洗い流し、氷を入れたハンカチを渡し自分で押さえるように春彦に言った。

「すっ、すごいね、木乃美」

佳奈が、あまりの手際よさにあ然として言った。

「佳奈も、これくらいのこと、出来るようにならないとだめよ。

 でないと、このやんちゃ坊主の面倒は見れないわよ。」

「うっ、うん。」

少し、複雑な思いで佳奈は頷いた。

「春彦、自分で歩けるかな?」

木乃美は春彦に尋ねた。

「ああ、大丈夫。

 サンキューな。

 木乃美。」

「でも、応急処置だから、必ず帰ったら直ぐにお医者さんに行ってね。

 傷は、たぶん、縫って終りだろうけど、頭が心配だから、ちゃんとお医者さんに話してね。

 でないと、これ以上、バカになったら、佳奈が困るから。」

「ちょっと、木乃美。」

佳奈が慌てて木乃美を制止したが、木乃美は構わずに続けた。

「あとは、血が少し出たから、たくさんご飯を、そうね、レバーでも食べておいてね。」

「はい、はい。」

春彦は、苦笑いしながらうなずいた。

「木乃美ったら、まるで、おせっかいおばさんみたい。」

京子が、呆れていった。

「ちょっと、それを言うなら世話焼き女房でしょ。」

木乃美が言い返すと、一同、笑い転げ、緊張感から解き放たれた。

「だけど木乃美ったら、いつもはフニャフニャして佳奈に引っ付いてばかりなのに、いざという時は、しっかりするのよね。」

久美が感心しながら言った。

「そう?

 えへへへ、それほどでもー。」

木乃美は照れ笑いをしながら、佳奈の方を見た。

「そうそう、佳奈。

 さすがにその血だらけ姿だと、周りの人が何事かと思うから、私のジャージの上を羽織ってね。」

木乃美は、そう言うとバックからジャージの上着を出して佳奈に手渡した。

「え、いいよ。

 血が付いたりしたら大変だから。」

「ちょうど、体育で泥だらけになったから、洗おうと思って持って来てたの。

 だから、気にしないで。

 あと、汗臭くても勘弁してね。」

「汗臭いなんて、そんなの。

 それより、本当にいいの?」

佳奈がそう尋ねると、木乃美はウィンクして見せた。

「じゃあ、きれいに洗って返すからね。」

佳奈は、そういって木乃美のジャージの上を羽織った。

(あっ、木乃美のいい匂い。)

木乃美は、隠れたおしゃれをする娘で、とくに香りが好きで、自分で香りの調香するのが好きだった。

佳奈は、そんな木乃美の作る香りが好きだった。

佳奈の注意が春彦から反れたのを見計らい、木乃美が春彦に小さな声で耳打ちした。

「さっき、佳奈の手前、傷は浅いって言ったけど、腕も脚もひどいのよ。」

「……。」

「脚は骨まで行っている感じ、腕も腱が少し切れているんじゃないかな。」

木乃美は、真剣な顔をして春彦を見つめた。

「サンキュー、たぶんそんなところだと思った。」

「早くお医者さんに行ってね。」

「ああ、わかった。

 しかし、ナイフで刺されるとは、油断したな。」

「そんなこと言って。

 どうせ、佳奈を守りながらだったんでしょ。

 名誉の負傷じゃない。」

「違いない。」

そういう会話をした後、春彦は自分で体を起こしてみた。 

「うっ」

春彦は立ち上がり、2,3歩、歩いたところで、痛みで眉を寄せた。

「春、大丈夫?」

「ああ、やっぱり歩くと、傷が痛むな。」

「うーん、仕方ないわね。

 包帯で押さえているだけだからね。

 早く、お医者さんに行った方がいいわ。」

「ああ、わかってる。

 でも、木乃美、ほんと、サンキューな。」

春彦がそういうと、木乃美は嬉しそうに頷いて見せた。

その時、俊介が、だまって春彦の方に寄ってきて、手を出した。

「?」

「鞄、家まで持って行ってやるよ。

 それに、肩に捕まれ。」

ぶっきらぼうだが、照れ臭そうに言う俊介に、春彦は「サンキュ」と短く言って鞄を差し出した。

それを見て、佳奈をはじめ皆、目くばせをした。

「じゃあ、私達、佳奈を送って帰るから。」

京子がそう言って、春彦のことは、俊介に任せ、ここで別れることにした。

「春、あとで、ちゃんとお医者さんに行くのよ。

 傷の具合も、教えてね。」

別れ際に、佳奈は心配そうに春彦に言った。

「ああ、わかった。

 佳奈も、今日はサンキューな。

 おかげで、助かったわ。」

「うん。」

(いまは、いくら考えても仕方ないわ)

佳奈は、そう思って春彦に笑って頷いて見せた。


それから、二人が家に帰ると、お互いの家で大騒動が起こった。

まず、佳奈の家では、泥だらけのスカートに、ジャージを脱いだら血だらけのブラウス姿の佳奈を見て、茂子の目が吊り上げっていた。

「佳奈、一体全体、何があったの!

 怪我はしてないの?

 ともかく上がって、見せなさい。」

茂子は、口から泡を飛ばすように激昂していた。

「おばさん、落ち着いて。

 怪我はしていないって。」

久美が、茂子をなだめにかかった。

「何言ってるの。

 傷が残ったら、お嫁にいけないでしょ。」

「お嫁って、お母さん」

佳奈が、呆れていった。

「本当に、何があったの。

 木乃美ちゃん、教えて。」

木乃美は佳奈とは小学校から一緒の幼馴染で、茂子も良く知っていた。

「ふぇ、おばさん、こわい…。」

木乃美は、先程までの毅然とした態度が消えていた。

一同、なんて茂子に説明したらいいか考えあぐねていた。

春彦と他校の不良のいざこざに巻き込まれたと言ったら、また、茂子が何を言い出すかわからなかった。

「あのね、おばさん。

 佳奈ね、春彦が不良と喧嘩して、怪我していたところに私たちと通りがかって、春彦の手当てをしてたの。

 佳奈がね、一番心配して、一生懸命介抱していたから、春彦の血が付いちゃったのよ。」

木乃美がたどたどしい声で説明した。

その木乃美の説明を聞いて、一同、ナイス!と言わんばかりに、その作り話に同調した。

「まあ、そうなの。

 ならばいいけど。

 で、春彦君は大丈夫なの?

 この血は、春彦君の血なんでしょ?」

茂子の関心が春彦に向いたの聞いて、一同、安堵のため息をついた。

「ええ、大丈夫ですよ。

 傷もそんなにひどくないみたいだし、福山君と歩いて帰ったから。

 今頃、お医者さんに行っているんじゃないかしら。」

京子が、横からフォローした。

「まあ、でも、あの春彦君が喧嘩なんてするのね。」

「あっ、お母さん。

 学校にばれると春彦の内申書に響くから、内緒にしてね。」

佳奈は、茂子にくぎを刺すように言った。

「わかったわ。

 さあ、じゃあ、皆も上がって、お茶でも飲んで行って。

 佳奈も、早く着替えていらっしゃい」

「はーい」

佳奈も、ほっとして、部屋に着替えに行った。


そのころ、立花家では。

「春彦!

 その怪我は、どうしたの?

 喧嘩したんじゃないだろうね。」

鬼のような形相の舞が、春彦を問い詰めていた。

我が子のぼろぼろの姿を目の前にし、舞は、興奮で我を忘れていた。

「痛いって。」

舞は、問い詰めながら、怪我をしている春彦の頭を叩いた。

「おばさん、春彦、頭をバットで殴られてるんだから。」

俊介は、必死に舞を止めようとしたが、そのセリフが、さらに、舞の怒りに火をつけていた。

「なにー!

 バットで頭を割られたって?

 いい加減にしなさい。」

舞は、今度は春彦の頭を掴んで、ヘッドロックをするように絞り上げていた。

「痛いって、

 降参、降参だってば。

 それに、割れていないから。

 でも、痛いって。

 おい、俊介、助けてくれ。」

舞の昂奮が治まるまで、そんな調子が続いていた。

やっと、舞は怒りが収まり、冷静に春彦の傷の具合を見て、病院の手配をしていた。

「お前の母ちゃん、おっかないな」

俊介が、驚いたようにいった。

「まあ、な。」

春彦は、苦笑いしながら答えた。

「それじゃ、おれ、そろそろ帰るから。

 また、何かあったら、今度は俺もな。」

「ああ、そうする。」

「あと、今度聞きたいことがある。」

「ああ、俺も俊介に話しておきたいことがあるんだ。」

「そっか。」

俊介は、わだかまりのとれたようなサッパリした顔になっていた

「あ、福山君だっけ?」

奥から電話が終わった舞が出てきた。

「はい。」

「ごめんね、折角送ってきてもらったのに、これから、このあほを病院に連れて行かなきゃならないんで。

 本当は、お茶とか出さないとと思うんだけど。」

「いえ、お構いなく。

それじゃ、僕はこれで失礼します。」

「ぼく?」

春彦がおかしそうに笑ったのを見て、俊介は、思わず睨みつけていた。

「それじゃ、お大事に。」

「ああ」

そういって、俊介は帰って行った。


二人きりになり、舞は春彦の包帯をはずし、傷を丹念に確認していた。

「で、一体何があったか話してごらん。」

舞は、春彦の目を見ながら、優しい声で尋ねた。

春彦は、俊介と不良グループのいざこざから、今日の喧嘩を買ったこと。

佳奈が巻き込まれたが、怪我をさせなかったこと。

金属バットで殴られたこと、相手にナイフで刺されたこと、相手を逆に返り討ちにしたことを簡単に説明した。

「まあ、あんたのことだから、そんなことだろうと思ったわ。

 でも、佳奈ちゃんには、絶対怪我させちゃだめよ。

 女の子なんだから。」

「ああ、わかってる。」

「あと、向こうが先に手を出したんでしょ?」

春彦は頷いて見せた。

「なら、こっちが正義ね。

 まあ、よくやった…。

 なんてほめるわけないでしょ。」

舞は、渋い顔で言った。

「やっぱり…。」

春彦は、すこしだけ褒めてもらえるかと期待をしたが、がっくりと肩を落とした。

そんな春彦を見て、舞は小さく微笑んだ。

そして、春彦は木乃美から耳打ちされた怪我の状態を舞に説明した。

「まったく、あんたって子は。

 腕の傷は、ほんとに広いし、深いわね。

 グーパーできる?」

そして、舞に言われた通り、切られた腕でグーとパーを交互に作って見せた。

掌を動かすと、傷から鈍い痛みがし、春彦は眉間に皺を寄せた。

「まあ、動くか。

 脚がやっぱり深いわね。

 転びながらだから、体重が掛かっちゃったのね。

 それにしても、ガキの分際で、よく切れるナイフを持ってたのね。

 まったく、今どきのガキんちょは。

 あと頭は、輪切りにしてみないとわからないわね。

 痛みや気持ち悪くない?」

「何言ってんの、とどめを刺したのは、かあさんだろ。

 痛みはあるが、気持は悪くないよ。」

「あら、そう?

 まあ、気持ち悪くなければ大丈夫ね。」

舞は、涼しい顔をしていった。

「でも、きっちりと応急手当が出来ているわね。

 保健室でも寄ってきたの?」

「そんな。

 保健室に行ったら、今頃、たいへんな騒ぎになっているよ。

 木乃美、木乃美だよ。

 応急手当てしてくれたの。」

「まあ、あの娘は、何でもできるのね。」

舞は適切な応急処置をしたのが木乃美だと聞いて舌を巻いた。

木乃美は、小さなころから、佳奈と一緒に遊んでいたので、舞も良く知っていた。

そして、佳奈と春彦と木乃美だと、見た目より木乃美が一番しっかりしていることも知っていた。

「いつもの病院にお願いしたから、取りあえず、着替えてとっとと行きましょう。

 知っている病院でないと、こんな刃物で切られた傷を見せたら、今どきは警察に通報されるでしょ。

 まったく、内申書に響いたらどうするの。」

「はいはい」

(内申書だとかなんだとか、誰かも、そんなこと言ってたっけ。)

返事をしながら、春彦は思い出していた。

「まあ、相手もナイフを振り回したんだから、騒ぎ立てることはしないか。

 でもね、もし、あんたに何かあったら、私、あの人に合わせる顔がなくなっちゃうからね。」

寂しそうにつぶやく舞を見て、春彦は、はっと思いだした。

(そうだった、かあさんに心配かけないようにしなくっちゃ)

「ごめん、母さん」

素直に謝る春彦を見て、舞は再び微笑んだ。

「わかったら、病院に行きましょう。」

(まあ、性格も悪くないし、素直だし、なかなかいい子に育ってること)

舞は目を細めて心の中で思った。


病院は、悠美の入院していた病院で、舞は良く通い、医師や看護婦と親しく、こういう時は無理の言える間柄だった。

「おや、珍しいね。

 傷だらけの春彦君なんて。

 春彦君も、喧嘩することがあるのか。」

診察室に通された春彦は、やはり顔なじみの外科の医師と向き合っていた。

「ん?

 これは、刃物の傷だね。

 どうしたのかな。」

医師は、春彦の腕と脚の怪我を見て、怪訝な顔で尋ねた。

「先生、聞いてくださいよ。」

たまらず、舞は口を挟んできた。

そして、春彦から聞いた怪我の顛末を聞いて、顔をほころばせた。

「じゃあ、春彦君の怪我は、女の子を庇った名誉の負傷ということだね。

 さて、CTの準備も出来たから、処置室で頭を輪切りにしてあげよう。」

「輪切りって…。」

春彦が絶句すると、医師はおどけたように片目を閉じた。

「じゃあ、スキャンを取った後、傷の手当てとかしますから、舞さんは、待合室で待っていてください。

 結果が出たら、声を掛けますから。」

「じゃあ、先生

 よろしくお願いします。」

舞はそういうと、診察室から出ていった。

舞が出ていったことを確認すると、医師は春彦に上半身の着物を脱いで、診察着に着替えるようにいった。

春彦は、大人しく言うことに従って着替えをする。

「あれ?

 春彦君、怪我は頭と腕、脚じゃなかったかな。」

「はい。」

春彦は、はっと気が付いた。

(まずい、道場での打ち身や痣が残っていたんだ)

医師は、だまってCTスキャンの検査室に春彦を連れて行って、検査を行った。

その後、診察室で腕と脚傷を縫って手当てをした。

「頭の傷は大したことないから、縫わなくて大丈夫。

 腕の傷はそこそこ深いけど、腱は大丈夫だから縫っておけばすぐに良くなるよ。

 問題は脚の傷だね。

 やはり、骨まで届いているか。

 血管や神経に触らなかったから運が良かったな。

 傷がしっかり塞がるまでは、運動は禁止と。

 松葉杖を出しておくから、使い方を看護婦さんに教えてもらいなさい。」

一通りの処置が終わった後、医師は、少し険しい顔で春彦に尋ねた。

「傷の治療は終わったけど、全身にある痣は何かな?

 診ると打撲の跡に見えるけど。

 今日の喧嘩じゃないね。」

春彦は、覚悟を決めて話し始めた。

「ええ、むかしから通っている道場での稽古の跡です。

 その道場は、フルコンタクトで、防具なしで殴る蹴るをするんです。

 今度、その道場の後輩の昇段試験があるので、稽古につき合った跡です。」

「そうなんだ、でも、痣の位置も人間の急所のあたりだし、一歩間違えれば危なそうだな。」

医師は、少し、考えながら話した。

「そうですね。

 本当は、とっくに辞めていたのですが、面倒を見ていた後輩の頼みで今回だけなんです。

 それと、先生、母には内緒でお願いします。

 母に余計な心配を掛けさせたくないのと、今回だけなので。」

「そうなんだ、今回だけなら、内緒にしておいてあげる。

 ただし、また続けるのであれば、いつ、ひどいケガになるかわからないから、お母さんに話すからね。」

「はい、すみません。」

春彦は、深々と頭を下げた。

その後、舞と一緒にCTスキャンの結果を聞き、二人は家に帰った。

家に入り、舞は、テーブルの椅子に座り、ほっとしたようにため息をついた。

「まあ、頭も何もなくてよかったわ。

 これで、ぱーになったら、もう、家から叩き出すところだったんだからね。」

「えー、ひどくない?

 家から叩き出すなんて。」

「当たり前でしょ。

 勝手に喧嘩して、くるくるパーになったから、一生面倒を見てくれなんて、嫌なこった。」

舞は、春彦にあっかんベーをして見せた。

「取りあえず、2,3日は学校休みなさい。

 そんな、セミミイラ男で、学校に行ったら何言われるかわからないから。

 あら?

 留守電が入ってる。」

舞は、そういうと受話器を取って留守番電話を再生した。

再生した音声を聞きながら、春彦の方に向かってニヤニヤ笑いかけた。

「?」

春彦は、音声が聞えないので、舞がなにを笑っているのかがわからなかった。

再生が終わると、舞は、受話器を置いた。

「さて、お前が守ったお姫さまから電話があったわよ。

 何時になってもいいから、具合を教えてって。

 佳奈ちゃん、神妙な声だったわよ。

 意外と、涙ぐんでたりして。」

春彦は、容易に心配で泣き顔になっている佳奈の顔を目に受かべることが出来た。

「げっ、それは苦手だな。

 それに、疲れたから横になりたいし。」

それは、春彦の本音だった。

さすがに、授業を受け、放課後喧嘩をして、怪我し、病院で検査や処置を受け、へろへろ状態だった。

そんな状態で、もし、佳奈が泣き出したりしたら、慰める元気も残っていなかった。

泣き出すことはなくても、いろいろ話すのもおっくうになっていた。

舞は、春彦の疲労困憊の顔を見て、肩をすくめる。

「仕方ないわね。

 着替えて、部屋で休んでいなさい。

 夕飯が出来たら呼ぶから。

 すこしは、食べるでしょ?」

「うん。」

春彦は力なく頷いた。

「それと、後で茂子に電話するから、その時、佳奈ちゃんに今日は疲れて電話に出られないから明日ねって言っておいてあげるから。」

舞の提案は、今の春彦にとっては天の助けのようだった。

「さんきゅー。」

春彦は、両手を合わせ、舞に拝みながら言って、部屋に戻っていった。

「やれやれ」

舞は、独り言のように口走りながら、部屋着に着替えていた。

その後、佳奈の母親である幼馴染の茂子に電話をかけ、お互いの子供の情報交換をした。

「で、春君、大丈夫なの?」

「うん、怪我は、そんなに大したことなく、まあ、丈夫が取り柄だからね。

 包帯が大げさなんで、2,3日は、学校休ませるわ。

 あっ、だから、佳奈ちゃんにも、心配しないでって、ね、お願い。」

「うん、それはいいけど。

 でも、あの子たちったら、最初は佳奈が巻き込まれたなんて言ってなかったのよ。」

「そうなんだ。

 茂子、春の返り血浴びた佳奈ちゃんを見て、大騒ぎしなかった?」

「あっ…、少し、したかな、いや、たぶんした。」

「だからよ。

 みんな、茂子の剣幕に恐れをなしたんじゃない。」

「そうかも。

 でも、もし何かあったらどうするのかしらね。

 今回は、春君がいるからよかったけど。」

「まあ、佳奈ちゃんも、うちのと居る時以外は無茶しないんじゃない。」

「まあ、そうね。」

佳奈はみんなが帰った後を見計らって、茂子に本当のことを話していた。

茂子は、最初は驚いたが、春彦が身を挺して佳奈を守ったことを聞いて、春彦の怪我の具合に気を揉んでいた。

その時に舞から電話があり、春彦の怪我の具合、そんなにひどいケガでないことがわかったので、安堵していた。


次の日の放課後、佳奈は学校帰りに春彦の見舞いに寄った。

茂子から、そんなにひどいケガではないことを聞いていたが、自分の目で確かめるまでは気が気ではなかった。

「舞さん、こんにちは。」

「あら、佳奈ちゃん、いらっしゃい。

 春彦は、起きて部屋でごろごろしているからね。」

佳奈の顔を見て、舞は余計なことを言わず佳奈を招き入れた。

「ありがとうございます。」

佳奈は、舞と一言二言会話を交わすと、そそくさと、春彦の部屋に向かって行った。

「おお、おお、血相変えて。

 余程、気になっていたのかしらね。」

舞は、佳奈の後姿を見送りながら、小声で独り言を言い、ニヤニヤしていた。

「春、入るわよ。」

春彦の返事をお構いなしに佳奈は部屋に入っていた。

「春?

 大丈夫?」

佳奈は、部屋に入り、春彦が起きて雑誌を読んでいる姿を見て、気が抜けるほど安心した。

「ああ、この通り。

 傷は、まだ痛むけど、血は止まっているから大丈夫。

 一週間ほどで、抜糸だってさ。」

「よかった。

 で、頭の方は?」

そう言いながら春彦が座っているベッドに近づいて行くと、春彦は、身体を少し壁際に寄せて、佳奈の座るスペースを空け、佳奈は春彦の空けたスペースに腰掛けると春彦の頭に手をやった。

「ああ、頭も昨日CTスキャンで検査し、たんこぶが出来ている位だってさ。

 キズもたいしたことなく、縫うほどでもないって。

 て、おい、触ると痛いって。」

佳奈は、春彦の傷が気になって、頭を触っていた。

「あっ、ごめん。」

佳奈は、いそいで、手をひっこめた。

「でも、良かったわ。

 もし、寝ていないといけないような怪我だったら、どうしようかと思って。」

「おいおい、そこで、泣くな。

 おれは、この通り元気なんだから。」

佳奈が、泣き出しそうな顔になったのを見て、春彦は大慌てで、元気を強調した。

「(ぐすっ)そうね、本当に良かった。

 バットで、頭を殴られたのを見て、死んじゃうかと思ったし、ナイフが脚に刺さっていたし…。」

佳奈は、そう言いながら手で顔を覆い、泣きべそをかき始めた。

春彦は、そっと怪我していないほうの手で、佳奈の頭を撫でて「大丈夫」と慰めた。

「もう、あんなことしちゃ嫌よ。

 本当に、春が大変なことになったら、私…。」

佳奈は、こみ上げて来る感情がなかなか治まらないでいた。

「大丈夫だよ。

 もう、あんな無茶しないから。」

春彦はどう言いつくろったら佳奈が落ち着くか、考えあぐねていた。

「あらあら。

 早速、佳奈ちゃんを泣かせているの?」

そこにお茶とお菓子を持って、舞が入ってきた。

「また、なんか佳奈ちゃんを泣かせるようなことしたの?

 そんなに、また、母さんの教育的指導を受けたいのかな?」

舞は、お茶の道具を春彦の机の上に置くと、指をぽきぽきと鳴らして春彦に近寄っていった。

「してない、してないって。

 佳奈も何か言ってくれよ。」

春彦は、大慌てで佳奈に助けを求めたが、佳奈は、呆気に取られて呆然としていた。

「昨日、怪我して帰ってきたら、この母さん、俺に何したと思う?

 怒りながら、怪我している頭にヘッドロックで絞り上げたり、殴ったりしたんだぜ。」

「ええ?」

「おーい、人聞きの悪い。

 殴ってなんかないじゃない。

 心配して撫でてやったんじゃない。」

「普通、撫でる時に、ボコって音がするのか?!」

佳奈は、ビックリした顔になったが、舞と春彦の掛け合い漫才のような会話を聞いて、すぐに、笑い出した。

「おいおい、笑い事じゃないって。」

「だって、その時の春に顔を思い浮かべると面白くて。」

佳奈は、ケラケラ笑い出していた。

舞は、そんな佳奈を見て微笑みながら部屋から出ていった。


怪我をして、家でゴロゴロしている春彦。

暇を持て余していると、押し入れの奥に段ボールを見つけます。

その中には…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ