第3話 能力を測ろう1 ソロモニエルとロイエル
第3話 能力を測ろう1 ソロモニエルとロイエル
女神のような風貌をした女性。光を放っているものの、着ているものは他のものと同様に、端切れのようなみすぼらしいものだった。金髪は、クルクルと少し巻いてある。
俺の心は矢で射抜かれた。かわいぇ・・・。
顔が勇者としてふさわしくないくらいに綻んでしまったかもしれないが、今の俺は勇者ではない。貧民街で物乞いをする「平民」以下の存在なのだから、関係ない!
ジーツは、すでに鼻血をプシャ___と流していた。彼の足元に、鼻血の絨毯が出来上がる。
隣では、連れてきた勇者ヲタクが、頬を赤くして興奮している。
「え? ちょま、ジャンヌって、こんな可愛いやつと生活してたんだああああ。くぅ〜、羨ましい」
「いや、今日からここで一緒に生活するんだ、貧民街で。俺は彼女を今日、初めて目にしたよ」
勇者ヲタクは、彼女を見て当然のように興奮し、「デュフ、デュフフww」といささか気持ち悪くも思える奇声を上げた。
彼女の前に出てくると、モジモジしながら、言った、
「俺、ソロモニエルといいます。ここで勇者さんと女神さんと一緒に生活していきたいと思っていますっ・・・! どうぞお見知り置きを」
緊張しているのとは、少し違い顔をしていた。まあ顔を赤くはしていることはしている。しかし、ジリ貧生活への不安のようなものも浮かび上がっていた。
俺は、慌てて女神のような美女に弁明した。
「えっと、彼は今日からここで過ごすんだ。見た目的には中流階級ぽいけど、軽蔑しないであげてねーっ⭐︎-」
「まあ、ソロモニエルっていうのね。商店街へようこそ。共に歩みましょう。生活をしていきましょう。私はセル・ロイエル。よろしくねぇ、これから」
デレデレと話している様子を見て俺は、やや怒りを覚えた。いや、ヤキモチを焼いてしまったという方が正しいかもしれないが。
セルは、話す。
「私たちには、お金が手に入りました。ぱーっ、と、遊びましょう」
「遊ぶ、か」
遊びましょうという言葉が放たれた瞬間、ジーツが不服そうに眉間に皺を寄せて顔を顰めた。
「? どうかしたのか、遊ぶって」
「いいや、前に金が入ったとき、ロイエルが同じような提案をしたことがある。おいらたちは、それに乗ってしまった。そして、一日から二日でその全てのお金を使い果たしてしまったんだ・・・ッ!!」
緊迫した言い方だ。これは、ちょっとだけ信用してもいいかもしれない。それは所詮「無駄遣い」という意見に落ち着くようなものになるだろうから。
ならば、遊びでもない、無駄にならない金の使い道があるじゃねえか。俺はニヤリと微笑んだ。
ギルドだ。これなら、無駄にならないし、金の量が一万倍に跳ね上がるような可能性だって秘めている決断だと言える。
「あのさ、ギルドって、わかる?」
俺は恐る恐る訪ねた。すると、彼らは、
「何ですか。そのあの、ぎるどって」
「え、マジでなんですか。そのギル、なんちゃらっていうものは」
俺は正直怖さを覚えた。この世界に生きる者、ギルドに多かれ少なかれ貢献するのはことわりの一部となっている。なのにだ。
彼らは、そのギルドという組織を知らない。存在すら知らないのだ。噂は聞いたことがあるだろうと思ったが、噂さえ聞いたことがないとなると流石にこちらとしても驚きを隠せない。
俺は、説明し始める。
「俺は、王宮に仕えていた。ギルドという騎士団のような存在にあった。しかしながら、俺は死んだことになっている。回復のジャンヌ、と言われていたんだが。聞いたことはあるかい」
「「ジャンヌ?」」
どうやらこの反応は「名前だけは知っている」というものもしくは「とても有名です」というものの二つの意味を持つものと読み取るに限る。
「ジャンヌ、ジャンヌ、なんか聞いたことがあるような・・・」
「そうだ! ジャン●・ダルクだ!」
違うぞそれは。伝説上の勇者だ。
でも、俺はそのダルクというやつの遠い遠すぎる親戚ということを幼い頃より聞いたことがある。確か母親からだったっけ。
俺は、割と親近感を抱いている存在の名が出たことに、少し戸惑いを覚えた。知ってんだな〜彼を、的な感じのね。
でも俺はフローク家の人間・・・って、今はそういう話をしているような時間ではなかった。
「とりあえず、騎士団を今手に入れた所持金で作ろう。そしてその金を、何倍にも何倍にも増やしていこう。 ーー君たち、魔術とかは使えるかい?」
「あ、まあ、一応。でもおいらたちの術はヘボだからヨォ」
ジーツは半ば不満そうに答えた。そして他の者も、それに呼応してウンウンとうなずいてくちびるを尖らせた。
でも、ソロモニエルは。おそらく彼はやや中級の階級のものらしかったので、役には立つ魔術師ではあろう。そう信じて、彼に目をやるとーー
ソロモニエルも、周りの者とともにくちびるを尖らせていた。
「とりあえずみんなの術量を教えて欲しい。俺に向けて、その術を放ってくれ。そしたら、みんなのいまの実力がわかるからな」
「でも、それしたらお前が傷ついちまうじゃねえか」
「大丈夫、大丈夫。俺は割と強い方なんだぜ」
すぐにバレるような嘘?をついて、俺は構える。とりあえず体力も高いし、回復もすぐに頑張れば余裕のよっちゃんだ。
みんなは、不安そうな顔面になる。
俺は、それを見て、慌てて弁解した。
「いやいやいや、俺回復上手だから。間違っても、君たちの魔術を喰らって死んだりはしない。だから、ドーンと来い。ドーンと!」
「じゃあ、やるぜ」
ソロモニエルが立ち上がった。
「君の魔術は」
「俺の魔術は、寿命をその人から七時間ずつ吸い取れます。俺自体死神属性の者なんで、こういうのが結構得意なんすよ」
「へぇ、見た目によらねぇもんだなあ」
「逆に見た目で決めつけるという考え方なやめた方がよろしいかと思いますがね」
とソロモニエルも苦笑する。
「では、実際にやって見せてくれ」
「いきます」
自身の目の前に手をかざし、彼は叫ぶ!
「ブーンルナゴム!!」
俺の体を、不思議な感覚が襲う。何か胸に穴が空いたような、その空いた穴から何かが寂しく抜けていくような感じの感覚である。
見ると、青い穴が胸に開いていた。怪しいオーラを放っているが、間も無く、そのオーラが消える。そしてそれと同時に胸に開いていた穴も見事に塞がっていた。
すげーな。ぐらいの感想しか出ない。
「これで七時間吸えました。でも回復すればすぐに大丈夫になりますよね。時間の調整もできるんですけど今回は最大時間の寿命を吸い取らせていただきました」
「へぇ、さっきの短時間で七時間も吸えるのか。かなり上流能力家系に生まれたみたいだな。いい感じの人生歩んでんじゃんかよー」
俺は茶化すつもりで言った。
「僕は死神族の中でもかなり強いと言われていましたが、果たしてそうなんでしょうかねぇ? それはそうと、あのお姉さんの能力が知りたいですけど」
完全な無視!
俺は怒りを腹の奥にそっと押し殺した。多分あのお姉さんはロイエルのことであろう。
「ロイエル、能力を見せてください」
俺は頼んだ。
「私の魔術は光属性の術、『イギリエル』です。この魔術は、私の家系で代々引き継がれている魔術でして、無差別に大ダメージを与えることができると聞いたことがあります」
「その能力も、俺にやって見せてくれないか。おれにむかって。ほうら、このクッソ不細工な顔面がうざいだろうなあ」
内心イケメンだと思っているけれども。いわゆる世間一般の言う「ツンデレ」っていうやつなんだ、俺は。だから仕方ないよな。と無理に自分を納得させる。
つまり今のは翻訳すると、(こんなイケメンな顔に魔術などぶつけられるわけないよな)という意味である。
「では、やって見せてくれ」
俺は恐ろしい術が来るだろうという期待と恐怖が現れたのか、どっしりと腰を下へ落として構えた。そしてすぐに直せるのに不安感に陥った。
こういうのはぶっちゃけ、早くやっておいてくれた方が安心感がある。なのに、なのになぁ・・・。
ロイエルは、ニヤリと彼女の口角を上げて、微笑んだ。
「ーー行きますね」
ぞわり、首筋の毛が逆立つ。
彼女は彼女の手に光を宿した。シューーーン、という爽やかな音を立てて。そしてその光はやがてゆっくりと炎へと変貌し、俺に殺意のこもったような暑さを得る。
ロイエルの美しい手は、やがて炎を宿した地獄の鉄拳へと変わる。
「イギリエル!」
ロイエルが叫んだその瞬間、
ボワアアアアアアアアアアアアアアア!
俺の服が凄まじい勢いで燃え始めた。暑さは、確かに伝わる。でもーー
俺は心の中で強く念じた。
「力よ、我を救い給え」
すると服がみるみる修復されていき、体の暑さも消える。
「なかなか強え術じゃねえか」
俺は、微笑んだ。ニッカリ、って。
そして、後ろを振り向いて、宣言した。
「さて、と。お次は、お前たちが力を見せてくれ。どんな雑魚能力にも真価というものは必ずあるから、恐れずにまずはやってみな」
ジーツたちは、少し自信が湧いたというような、希望に満ちた目で俺を見た。