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第2話 武具を売る勇者

第2話 武具を売る勇者



俺は静かに取り残された。見事に、取り残されてしまったのである。

寂しい。これが、いわゆるこの世界での「追放者」の気持ちか。痛いほどに理解できたような気がする。


この世界では、主に七つのカーストが存在する。カーストが高い順に、「騎士団長」「勇者」「従者」「召使い」「商人」「農夫」「漁師」という七つの仕事がある。一度失業すると、取り返しのつかなくなる。そのためほとんどの人々は、その七つのカーストのうち二つ以上の数に入っている。

しかし俺は例外だった。この「勇者」のカーストの一つだけで、満足して飯を食っていくことができた。役にも立てたと思った。


俺は、宮殿を出て、王都に出た。王都「セロビウム」、ここは広い場所である。街が広がっているが、ほとんどが商人であった。

みんなの笑顔が、生き生きと輝いて見える。それが、なお辛い。


でも、それであいつらがいいなら。


そう思うと、辛いけれど、安心してしまう。でも、本当は。本当は。もっと冒険が、したかった。あいつらの仲間に、なりたかった。もっとなっていたかった。


「商人」階級のものが、多く存在している。しかし一番最底辺なのも、かなりいる。現に毎日の要に追放や戦死についての話は聞いてきた。お気の毒に程度にしか思わなかった。でも階級のないものは少なかった。物乞いをしているようなものも、減った。

ーーなのに、俺がする側になるとはなぁ。


俺は、現実を全て受け入れて、王都の端の方にある貧民街、「フォートリウス商店街」の入り口へ身を任せた。商店街といっても、昔は栄えていたが今は全店閉店したため、名前だけであるということである。そこには、他にも俺のような仕打ちにあったような方が何人か居座って、物乞いをしていた。歯切れのような着物を、着ていた。


そんなところに俺のような豪奢な武装をしたものが突然現れたら、どのような反応をするのだろうか。


体育座りしている奴らが、手を胸の前に持っていき、手のひらを上に向けて構える。当然、救いの手が舞い降りたとか考えるのだろう。

周りには、貧乏な格好をしている奴しかいない。顔も、若いのにシワがあるやつも、年齢で皺が刻まれたやつもいる。


「金、持っているんでしたら少しほど譲っていただけませんか?」


一人の貧民が俺の膝を見た目とは桁違いの力で掴んで、話しかけてきた。貧相な腕が、痛々しい。


「悪りぃけど、俺もお前らの仲間なの。これから、この貧民街で物乞いをさせていただく、ジャンヌ・フロークでぇすっ! わからないことがあるかもしれないので、ぜひ色々教えてください!」


「いや、あのさ。金持ってたら、頂戴って言ってんの、新入り。持ってるだろ、というか少しはあるだろ。金に変えられそうなものが。たとえばその武具。割との勇者ヲタクの方は、八百七十キリぐらいで買い取ってくれるだろうよ。金に変えてきてくれないか、これを」


と、もう片方の貧相な腕で俺の着物を指差しながら懇願した。悲痛な声が上がっているのが、心の奥底からよくわかる。

俺の情はそれに負けた。


「わかった。勇者ヲタクさんに売ってきてやるよ。えっと七百八十キリ以下だったら、ごめんな。でも、分けられるようにするから。ーーえっと、十四人か。あと、そこの俺に命令した人。名前を教えてくれ」


「おいらかい。おいらは、ジーツ」


「おう、ジーツ。行ってきます」


ジーツら貧民街の方々に一度挨拶。


俺は勇者買取士みたいなやつを探しに、貧民街を一度抜けた。勇者買取士は、王都にいそうだ。聖地巡礼とか言って、王宮の前で騎士団の帰りをストーキングしているようなイメージがある。怪しまれないように顔を変えて、王宮に向かう。


ニヤニヤ笑う。これで行こう。


歩いてみると、いかにも「聖地巡礼しにきましたっ!」ていう感じの熱々ヲタクアピールをしている方が結構いた。

素顔を見せたら、イケメン。そんな感じの髪型と鼻。金も持ってそうだし、ーーいけるな、こいつが取引相手(お客さん)だ。


「お客さん、出待ちですかい、勇者御一行の」


「は、はい。っていうか、あなたマジの勇者ですよね、確か「回復のジャンヌ」さんでしたっけ。ついこの前死んだと聞いたんですが、本物ですよね。援護側のレジェンドとして、僕らの業界でとおっても有名なんですよ。サインしてください!」


「あ、ああ、サインね」と彼の熱に引きつつも、なんとか話を取引にする。防具を脱ぎ、彼に渡した。


「あの、これ買ってくれませんか? こちら、八百七十キリぐらい以上が好ましいんですけどね」


「お安いもんですよ、そんぐらい。なんなら一万キリも払いましょうか。それぐらいの価値がある代物であると思いますんでね」


彼が想像以上のヲタクでよかった。お金も結構ズバズバと貯まる。これは割とすぐに貧民街を脱出できるかもしれない。彼一人だけの力のおかげで。

俺は彼に防具を渡すと、お金をねだるポーズをしてみせた。


「あ、はい、お金ですね。一万二千キリくらいでよろしいですか? そしたら十分でしょう」


と彼は言って、俺の手の中にお金をチャリンと入れた。そして服のポケットに金を入れると、貧民街の方へと歩いて戻ろうとする。


すると、


「貧民街から来たんですよね、勇者やめて。そしたら、貧民街に俺も連れてってください。今あなたに金を渡して無一文なんです」


「俺に付き纏うんだろ。『回復のジャンヌ』にとっちゃ、お安い御用」


俺は彼を引き連れて、貧民街へ無事に戻ってくる。



 ★



貧民街は、相変わらず陰険なムードが渦巻いていた。ドヨーンとしている。

その中で今は俺が連れてきた「彼」のそんざいがまばゆいものとなっている。


俺は彼からもらったお金をみんなに見せた。


「ジーツ、君は八百七十キリくらいでいいと訊いたな。でも、聞いて喜べ。一万二千キリだ。一万二千を、十何人かで分け合おう」


「神かよこの人」


彼に対して恐ろしいほどの尊敬の目をジーツは向けた。


「あのなあ、俺もここで物乞いをするんだよな」


すると、一つの光が列の後ろの方で輝いた。そして、貧民街の雰囲気に似合わないほどに澄んだ声が、聞こえてくる。


「私たちのために自らを犠牲にする、なんて優しいお方なのかしら。一万二千もあれば、とりあえず私たちは現時点では不自由はしませんね」


女の声だ。彼女は立っており、美女ということと場がふさわしい風貌を持っていた。

昨日は連続投稿できずにごめんなさいm(__)m

ですので、週末に一挙投稿させていただきます。


そして、少しでも面白いと感じたら、ブックマークと⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価の方だけよろしくお願いいたします。そして古参様、これからもよろしくお願いいたします。

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