第1話 追放という誕プレ
本日は3話ほど投稿させていただきます。よろしくお願いします。
第1話 追放という誕プレ
俺ーージャンヌ・フロークは、今「魔道書」の書庫に立っている。待ち合わせで。
もうそろそろギルドメイトのフォークル・ゲレインが来る頃なのに、遅いなぁ。そう思いながら、魔道書の棚にざっくりと目を通す。
老朽感のある本の背表紙をジンロリジンロリと見つめる。黒くなっている背表紙はもう三百年弱触れられてないように朽ちているが、純金で掘られた文字は、綺麗に光っている。
ああ、綺麗だな。
ふと、一つのタイトルが目についた。
ーー己の心を絶って得る大魔法
キュンと胸が躍った。大魔法を得て、俺は強くなって、夢想して伝説の勇者として後世へと語り継がれゆく・・・なんていうくそ妄想を繰り広げている。
大体俺がそれを得たって、伝説にまで昇格するかはわからないしね。
冷静な己を取り戻して、その本の背表紙を持って、下ろそうとしていた手を止める。そして本を本棚に戻し、のんびりと待ち続ける。
ーー呼び出しておいて、待たせるな。
俺はやや苛立ちを覚えた。苛立ちを覚え、同時に少し寂しくもなった。暗い書庫に放置するとか、新手の嫌がらせでもしているのかと思った。
はぁ。ため息をつくと、もう無心になることにした。
本棚に寄りかかり、腕を組む。これで「待ち遠しかったんですよ」アピールは完璧であろう。本当に、待っているんだから。
数分経った。
俺はやや眠りかけていたが、奴の声でぱっちりと目が覚めた。
目の前には、細い背の高い男。ーーこいつが俺をここへ呼び出した、ゲレインだ。視界は彼の長身で覆い隠される。
なかなかの迫力だ。
「俺を呼び出して、なんか用か。フォークル」
「そんなふうに偉そうにいられるのも今のうちだ。後ろには仲間もいるんだよ、せっかくのバースデーパーティーなんだからなぁ。誕生日祝いだ。総長」
ゲレインは書庫の外にいる人に声をかけた。フォークルが呼んだ、総長のキョール・サイが、なかなかの見幕で出てきた。
キョール総長は、滅多に見せないような笑いを浮かべて、言った。
「やあやあやあやあ。そんな恐ろしい面持ちは浮かべるもんじゃないよ。曹長とも呼ばなくていいんだよ、喜びたまえ。この恐ろしい生活から解放されるんだよ」
「はぁ? 解放? どういうことだ」
総長は、「やれやれ」と言わんばかりに煽る顔を迎えて、口を開いてみせた。
「この危なっかしい恐ろしいギルドからの追放。冒険生活からの解放。ーーつまり、安全な生活を送ること。ーーこれが僕たちからの君へのバースデープレゼントだよ」
「そうだよぉ〜」
書庫の外から出てきたたくさんの仲間。茶化すように俺をいやらしくいじめる。誕生日に相応しい振る舞いとは、とてもではないけれど言えなかった。
とんでもねぇプレゼントをくれやがって。
俺は、俺は、どうすればいいんだ。どうすれば、どうすれば、どうすれば。急すぎる追放に、俺の頭は沸きかけていた。
なんでいらなくなったんだよ。
「なんでだよ」
「お前が弱いからだよ。お前が単独任務に出た時、一人だけ周囲の無関係な奴が死んでしまった。ブラックドラゴン討伐なら一人くらいは死ぬだろう。傷跡を少しでもつけようと努力した場合はな。でも、お前はその時死ぬ前にも傷つけたりはしなかったんだとよ、話に聞いたら」
痛いところを突く。でも俺は、炎で、大ドワーフぐらいは焼き尽くして殺せる。し、回復なら可能だった。同伴者の傷に気付くのが遅かっただけだ。
確かに、俺の戦士記録は、下記のように雑魚だが。
★
ジャンヌ・フローク
職業 勇者
役割 援護
総ステータス ∞
攻撃 69
体力 185
耐久 78
共鳴 66
回復力 ∞
回復量 ∞
★
回復関係と体力以外は、どれも全冒険者の平均値を下回っているというのが現状なのだ。かろうじて回復関係だけで総ステータスを∞にしている。
そもそもの話、いつ俺がここから追放されることになったんだよ。どうしてだよ。
あいつは、俺を安全な生活をさせるためという綺麗事を理由にしてここへ追放した。しかし、それのオブラートをひっぺがせば、俺が邪魔だから冒険者を辞めさせているということになるだろう。うざったいものだ、まったく。
嫌だ。
「じゃな」
サイの声が、寂しく響き続ける。
俺は何が何だかわからないままその場に立ち尽くす。
俺か、ギルドを辞める? あり得ない。あり得なさすぎる。誕生日プレゼントでもなんでもない。これは、ただの嫌がらせだ。俺に相応しい誕プレは、最強の騎士号とか、最強の剣とかそういう類のものだろ。冒険者が望むものは、そんなものではないのだ。
これは、プレゼントという名の拷問だ。これは、平和への解放という名の追放だ。
ふと、衝動的に足が走っていた。
目の前には俺が前所属していたギルド、『赤獅子騎士団』の連中が、たくさんいる。わはははははと笑い合って、俺を背に歩いている。俺を孤独にしておいて。
眩いばかりの宮殿の装飾。それが、色褪せて見えた。
「お前ら。俺を追放したことについて、カロスク王にはどのように説明する。俺は王からとても愛されていたんだ」
そう。『赤獅子騎士団』は、王家直属の専門騎士団なので、リストラや退職も王の許しを得ないと不可能なのだ。さあ、どう説明する。
「は? 適当に戦死したとでも言っとけばいいんじゃね?」
奴らは振り向くと、適当そうな返事を返してまた向きを変えて歩き出した。それは、もう王を舐めすぎてるっていうくらいだった。
それで許されるのかな。
急に総長が立ち止まった。俺は、びくり、と少し揺れた。
「とりあえずお前のことを正確に追放したようにする。いや、正確に追放、というか。正しくは戦死したということにしておこうか。尊厳死だ、王家から離れて生きられる。そのことを喜ぶんだなあ」
「はーッははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
後ろで連中が俺を嗤う。
「俺が今まで、『回復』でやってきたからお前らは生き残ってたんだ」
と言おうとしたとき、奴らはもういなくなっていた。
俺は、俺は。
ーー俺は、こいつらを見返してやる。
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