小話 ナンパ
「キレイな顔だね。一緒に飲まない?」
そう声を掛けられているのは私では無い。
ヤマトが熱を出しヴァルドが狩りに行った夜、夫婦で夕食を食べる機会があった。
オーダーを待つ間に手洗いに行き戻って来るとセクシーなお姉さんにルッカが声を掛けられていた。
……お待たせっ♡て無邪気な感じで戻るか、ここで見守るかどうしよう。
好奇心から遠巻きに見守りたくなった。
そりゃあの顔でモテない筈がないのよね。
こっちの世界って女性から積極的に異性に食いつくことが少ないからこういうのは珍しいけど。
「連れがいるんで」
ルッカは一瞬女性を見た後そう言うと顔を背けた。
わかりやすい拒否の反応に相手が少し怯む。
「待ってる間に少し話さない?」
もう一度女性が声を掛けるものの、これには反応も無い。
手応えがないと知って女性が去って行った。
「いつまでそこにいるの。戻っておいで」
見守っていたことがバレていた。
「なんか戻り辛くて。よくあるの?」
声を掛けられることに慣れているような感じがした。
もしかして私が知らなかっただけでよくあったのかな?
2人で旅していた頃はヤマトもヴァルドもいなかったのだから今より1人になる機会は多かったはず。
「そんなにはないけど1人になると時々ね」
そっかぁ。ナンパなんて経験がないからどんな気持ちになるのか全くわからないわ。
「心配しなくても付いて行ったりしないよ」
「それは心配してないな。私は経験がないからどんな気持ちかなって思って」
「どんな気持ちも何も……知らない人に話しかけられて断るだけなんだけど。あと経験ないって言ってるけどミオリも声掛けられてるからね」
そんな機会あったかな?
首を傾げるとルッカが真顔で言う。
「初対面の冒険者に食事に誘われたりしてたでしょ」
「……あったような無かったような?」
私は記憶力がアレでして……。
「あったよ。覚えてなくていいけどさ」
経験はあったらしい。残念ながら全く覚えてないわ。
料理が運ばれて来たので話題は自然と他に移っていった。
「ヴァルドって旅の資金どこから出してるんだろうね?」
食事代も宿代もヴァルドは自分の分は出している。
人みたいに働いているわけでは無いだろうから資金源が少し気になる。
「ドラゴンって金とか宝石とか巣に沢山貯めるって昔から伝説にあるから、ヴァルドも何処かに沢山持ってるのかもね」
「そうなんだ。キラキラした物が好きなのかな」
強い可愛いお金持ちで、しかも世界の修理屋さんってどこの主人公なのか。
「新しい紙芝居の話書けそうな気がして来たわ」
「そっか。ミオリはドラゴンの財宝は興味ない?」
「あんま無いなぁ。珍しい物とかなら見てみたい気はするけど」
宝石とか金銀見せられても綺麗だねーって感想しか出ないと思うもの。
「やっぱり俺ミオリと結婚して良かったな」
「……急にどうしたの」
にこにこと機嫌が良さそうなルッカが私の頭を優しく撫でる。
「ずっとそのままでいてね」
「年相応な見た目にはなっていくと思うけど」
「中身の話だよ」
忘れっぽいちょっと残念な頭だけどね。
こんな感じで久々の2人での食事はたまに甘い空気になったりして楽しく過ぎて行った。




