4-7.魔物退治2
軋んだ金属のような音を立てて暴れていた赤大蠍が動かなくなった。
倒れた身体の全長は馬3頭分くらいありそうだ。
「毒針封じてくれるとやりやすかったなぁ」
戦闘慣れした集団は俺が氷で尾の毒針を封じると見事な連携攻撃を繰り出して巨大なサソリを仕留めていた。
想定していたよりも大きかったので少々手こずった感はあるものの怪我人はない。
「本体と巣穴の中に卵がないか確認したらゴブリン班の様子見に行くか」
「あっちももう終わってるかもな」
口々に言いながら確認作業に入る。
「俺は先に行ってていいですか。あっちに妻がいるんです」
「妻って……あれじゃないのか?」
ゲラルドの視線の先には腕を組んだヴァルドがいる。
ヴァルドといると大抵間違えられる。
4人でいるとミオリはヤマトとペアだと思われがちで、それが少し面白くない。
「違います。ヴァルド、ミオリ達のところに行くぞ」
ヴァルドなら案内がなくてもミオリの居場所がわかるはず。
「よし、ついて来い」
ヴァルドを追って駆け出した。
何だか胸騒ぎがする。
単なる心配し過ぎであって欲しいけど、ミオリもヤマトも変に引きが強いから……おかしな事態になっていないといいけど。
「速いなー」
後ろで誰かが呟いた。
◇◇
わりと大ピンチだわ。
「……両方いたから賭けは引き分けだね」
「そんなこと言ってる場合か」
洞穴に入るとゴブリンがいなかった。
いないなー?思ってるより広いなー?とフラグを立てたカロル達と不安いっぱいに進んで行くと、開けた空間に辿り着いた。
カロルが魔術の明かりを放り込んで辺りを照らす。
ゴブリンの生活スペースだったのかな。
今はゴブリンの死骸だらけになっていた。
顔が猿に似た身体は獅子のような大きな獣がゴブリンを食い散らかしている。
ヤバそうなので後退しようとすると、後方から棍棒を持った2m以上はありそうな角の生えた灰色の巨人…オーガが現れた。
前に猿顔の獅子、後ろにオーガ。ヤバいな。
「……オーガを攻撃して退路を作ろう」
青い顔をしたバティカさんがそっと言う。
確かに獣がゴブリンを食べているうちにオーガの隙を突いて逃げるのが良策だと思う。
と思った矢先、獣の顔がこちらを向いた。
グォオオオオ!!
オーガと獣が同時に咆哮を上げた。
「ヤマト、マリエル、ディオはオーガ!」
バティカさんが慌てた様子で叫ぶ。
「ミオリ、カロル、俺は獣!なんとか退路を作れ!隙を見て逃げるぞ!!」
『はいっ!!』
情け無いと言うなかれ。
ランクがCかDしかいない面子で大型の魔物2匹は荷が重いのだ。
片方だけなら何とかなったかも知れないけどね。
前後を挟まれては前衛と後衛に別れることも出来ない為にとても厳しい。
剣を引き抜いて敵と対峙しながら、魔力石を投げ付け、カロル達が炎の矢を放つ。
獣と接近しないように連携して距離を保つ。
後ろから悲鳴が聞こえて反射的に振り返るとマリエルがオーガに打ち払われて吹っ飛んだ。
あわや壁に衝突すると思った瞬間、
「水の壁!!」
ヤマトの魔法が展開してマリエルは水で出来た壁に突っ込んだ。
ずぶ濡れになったけど壁に叩きつけられるよりは遥かに良かった。
「来るぞ!!」
バティカさんの声にはっとして視線を戻すと炎の矢を交わしながら獣が迫って来ていた。
魔力石で胴体を攻撃しても構わずそのまま駆けて来る。狙いは私のようだ。
ーーー大丈夫、やれる!
集中して剣を強く握る。
獣が跳躍した瞬間、動きがゆっくりに見えた。
鋭い牙が並ぶ口が眼前に迫る。
ドンッ!!
地面が振動して氷の槍が生えたのと同時に私も踏み込んで獣の喉を掻き切った。
「……」
胴体を氷に貫かれ、喉を切られた獣が事切れたのを見届けてから振り返る。
「遅くなってごめん。大丈夫?」
タイミングが素敵過ぎると思うの。
世界一のイケメンに笑みを返した。
「大丈夫。オーガは……」
視線を巡らすとヴァルドの足元に倒れていた。
ヤマトがマリエルを助け起こしている。
どうやら終わったらしい……疲れたわ。
「お疲れ様。間に合って良かった」
緊張が解けて膝に手を付いた私に手を貸してくれる。
「ルッカ本当かっこいいわ」
「惚れ直した?」
「うん、惚れ直した」
にこにこと笑い合う私達にバティカさんが呆れ顔になる。
「そういうの外出てからやろうか」
すいません。
ずぶ濡れになったマリエルをヴァルドが魔法で乾かしてあげていた。
「あの……ありがとうっ」
マリエルが頬を染めて少し恥ずかしそうにお礼を言った。
「ああ。気にするな」
ヴァルドが男前な笑みを返す。
……ねぇそこはヤマトじゃないの?
そこに半分命の恩人のフリーの男子がいるよ。
キュンってならない?ダメ?
なんかヴァルドを赤い頬で見つめてるけども……。
「ヤマトもナイスフォローだったと思うよ!マリエルが助かったのヤマトの活躍のおかげもあるし!」
「ああ、うん……倒したのはヴァルドだし仕方ない。印象に残らなかったんだろ」
そんな悲しいこと言うなよ……!
「ヤマトもかっこ良かったよ!大丈夫!」
いつかその良さに気付いてくれる女子が現れるよ。
「……どうも」
こうして私達のゴブリン退治は無事に終了したのだった。
ゴブリン1匹も倒してないけどね。




