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小話 温泉と花

ある日の昼間にヴァルドが降り立った川辺で、川の所々が小さな池のようになっていてほわほわと湯気が立っていた。


……これは温泉?

触ってみるとじんわりと温かい。


「人は湯が好きだろう」


私達の視線を受けてヴァルドが言う。

うん、毎日入りたい程度にはお湯大好きだわ。

天然温泉入りたい。

入りたいけど衝立も何もないただの川辺で服は脱げないしなぁ……。

ヤマトもルッカもラッシュも困った顔をしている。

私がいなければ男性達だけで入れるかな。

あ、そうだ。


「一緒に浸かる?」


「はぁっ!?」


「ミオリ何言ってんの!?」


私の台詞にヤマトとルッカがびっくりした声を上げた。

ラッシュは尻尾がピン!と張って目を見開いている。

ごめん言い方間違えた。やだわセクハラ案件かしら。


「いや足だけ浸けたらいいんじゃないかと思って」


続けて言うと3人が安堵の表情になった。

全身浸からなくても足湯で楽しめばいいよね。

私は一番先にブーツと靴下を脱ぐとお湯に足を浸けた。

今日はキュロットスカートだったので捲し上げなくて済んで丁度良かったわ。



「うん、気持ちいいな。ヴァルドは入らない?」


「その入り方は初めて見たな。どれ、やってみるか」


私の隣にヴァルドが同じようにして座るとルッカ達も続いて裸足になり始めた。

温泉は何箇所もあるのに全員同じ場所で輪になり足湯をしているので何だか面白い光景だ。


「ふふっ。なんか変な感じだね」


「確かに。飯の時とはまた何か違うな」


「ミオリ達の故郷にはこういう入り方があったの?」


「うん。温泉街とかによくあるよ」


ルッカに笑顔で答えてからラッシュを見るとゆっくり尻尾が左右に揺れている。


「気持ちいいね」


「うん」


声を掛けると少し照れたような笑顔が返って来た。


「うむ、時期も丁度良いし位置も近いから今日は野外で寝るぞ」


急なヴァルドの提案に全員が不思議そうな顔をする。


「面白い物を見せてやる。夜の分の食料はあるか?ないなら何か狩って来てやろう」


「食べ物は大丈夫だけど……どこ行くの?」


「この近くの渓谷だ。少し珍しい光景が見られるぞ」


「どんなもの?」


私の質問にヴァルドがにやりと笑う。


「まぁ見るまで楽しみにしていろ」



◇◇



人の足では越えられなさそうな険しい山の谷間にその光景はあった。

あたり一面に爽やかな青い花が咲き乱れ、谷間は澄んだ青で埋め尽くされている。


「わぁ凄い凄い!綺麗だねぇ!」


上から見ても凄かったけど、降りて見るとまた違った美しさだ。


「これは凄いね」


自然を見慣れているルッカも感嘆の声を出す。

ヤマトもラッシュも感心したようにじっと見入っている。


「夜になると更に面白い光景になるぞ」


ヴァルドが得意げに言い、私達は青い空間で野営の準備をして夜を待った。


日が暮れて辺りが真っ暗になると満点の星空が現れた。


「星も綺麗だねぇ」


「そろそろ始まるぞ」


ヴァルドは上ではなく暗くなった谷間を見ている。

同じようにその視線を追って見つめていると、暗い空間に淡い青が灯り始めた。

少しずつ青い光が広がり、暫くすると谷間は青い星空のようになった。


「……凄い」


本当に神秘的で綺麗なのに凄いしか出て来ない。


「どうだ?この時期にだけ現れる光景で私は気に入っているのだが」


「ヤバいわこれは……」


「神話の世界みたいだね……」


ヴァルドにぎゅっとハグをした。


「見せてくれてありがとう!凄いよ一生の宝物になる光景だよこれ!」


「それは良かった」


機嫌の良さそうなヴァルドにお礼を言ってハグを終えると隣にいたルッカが立ち上がって私に手を差し出した。


「ちょっと歩かない?」


「行って来い。そんなに長くは光らんからあまり遠くへ行くなよ」


ヴァルドの言葉を聞いてルッカの手を取った。


手を繋いで2人で青い光の中を歩く。


「本当に綺麗で凄いよね。ヴァルドに感謝だね」


「そうだね。俺はヴァルドだけじゃなくてミオリにも感謝してるけど」


私は何もしてないよ?

首を傾げるとルッカが微笑む。


「最初にヴァルドに出会って仲良くなったのもミオリだし、ヴァルドもミオリだからあちこち連れて行こうと思ったんだよ」


「そうかな?ヴァルドはみんなに優しいよ」


「そうだけど、俺はミオリといなかったら見られなかった景色が多いから。たぶん旅にも出なかったし、国越えるとかは絶対なかったと思うし」


「そっか……そう考えたら一緒にいたから見られた景色がいっぱいあるね」


「だから出会えて良かったなって心から思ってるよ」


そう言ってからルッカが私の頬に触れる。

幻想的な景色の中、幸福感のあるキスをした。


度を越さないやつね。


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