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4-4.獣人の集落へ

「では小さな者よ、お前に選ばせてやろう」


地面に転がる少年に突然ヴァルドが言った。


「帰りたい家がないならば我々と来い。ずっとは無理だが暫く面倒は見てやろう。それをやった者がおらん場所に連れて行ってやる」


「ちょっとヴァルド?!」


何言ってるのかな!?

急に子供連れてったら誘拐ですよ!


「何だ。小さいのが1人増えたところで困らないだろう」


「いやいや、困るよ普通に。保護者も騒ぐでしょう」


「……いない」


少年が身体を起こしてヴァルドをじっと見ている。


「親はもういない。本当に連れて行ってくれるのか?」


「ああ。遠くへ運んでやろう」


えー。何かヴァルドの中でもう決定してる感じ?


「この辺りは子供が一人で生きるには適していない。運ぶくらい構わんだろう」


「その子に保護者が本当にいないならね」


「嘘だった場合は家から離れてこの小さい者が困るだけだろう」


ヴァルドは少年に意味深な笑みを向ける。


「家に帰ると言っても無理になるぞ。それで良ければ来い」


この見た目のヴァルドに言われたら天使の救いに見えるかもなぁ……。

気を付けなよ少年、世の中には見た目が凄く良い死神とかもいるんだよ。


「……里親はいるけど、帰りたくはない」


「うむ。決まりだな」


「決めるの早くない?これ誘拐にならない?」


「問題ない。問題になってもその時はもう国外だ」


いや問題あるじゃないかそれ……。


道端で話すのも人目があるのでまずは移動することにした。

まだ身体が辛そうな少年をルッカが背負って歩く。

ラッシュと名乗った少年はぽつぽつと事情を話してくれた。


半年ほど前に傭兵だった父親が他界し片親だった為に教会に引き取られた。

そして冬に下位貴族の里親が決まりこの街へやって来たけど食事もまともに貰えない、機嫌が悪ければ殴られる日々だったという。


「……犬って呼ばれる」


ラッシュの言葉にぐっと胸が詰まった。


「駄目だ凄い腹立つ!そいつの家に持ってる魔力石全部投げたい!」


「気持ちはわかるけど指名手配されるぞ」


「では私が潰して来てやろう。家の主人ごと灰にすれば訴える奴もおらんだろう」


「ヴァルドもやめようか」


ヤマトとルッカが私とヴァルドを宥める。

私はともかくヴァルドなら出来てしまうもんね。


「捕まった方がマシかと思って物取りみたいなことした……ごめん」


だからあんな下手だったんだな。常習犯のような気がしなかったもの。

ちゃんと謝れるいい子だ。あと可愛い。


「教会に帰るのはどうかな」


「……また同じことになると思う」


ラッシュが呟く。教会もあまり居心地のいい場所ではなかったのかな。


「他に頼れる人はいない?」


「森に爺ちゃんと婆ちゃんがいるけど遠いし森は危なくて一人じゃ行けないから……」


お?親族いるじゃないか。良かったー。


「何で親族の所に連れてかないのかな?」


「そりゃ遠いからだろ。しかも危険を冒して森の奥まで行ってくれる物好きはそうそういないだろ」


そりゃそうか。


「お爺ちゃん達は好き?」


「うん」


「じゃあ決まりだね」


私が言うとヴァルドが微笑んだ。


「ミオリならそう言うと思った。悪いが来た道を数日分は戻ることになるぞ」


「そんなの構わないよ。私達よりヴァルドが大変だと思うけど。場所はわかる?」


「集落の位置は大体わかるが、いくつかあるからどれだろうな」


「赤い塔がある所だよ……でも凄い遠いよ」


「問題ないぞ」


ヴァルドがにやりと笑った。

少しの間だけど一緒に空の旅をしようか。


街から出てヴァルドが変身するところを見たラッシュは驚きのあまり呆然としていた。

尻尾を脚の間に巻き込んで震えていたので、怖がり方が犬と同じだなと思ったけど口には出さないでおいた。


◇◇



私達はラッシュと出会った街から数時間……徒歩や馬ならば何日もかかる距離の街へ来ていた。

汚れていたのでお風呂に入らせて購入した新しい服を着せた。

艶々になった赤茶の髪と耳や尻尾、洗って明るくなったすべすべの子供肌。

シンプルな服だけどラッシュが着れば何でも可愛いね。

ついついあれもこれもと買うところだったわ。

数日分でいいのよね。

可愛い可愛いと褒めちぎる私に本人は居心地が悪そうな顔をしていた。それも可愛い。


「お昼ご飯食べよう。あとね、お願いがあるんだけどイヤだったら断ってくれていいからね」


「助けて貰ってるから出来るだけ聞くけど」


「頭撫でてもいい?耳触ってみたくて」


ふかふかした厚みのある耳は触ってみたくなる魅力でいっぱいだ。

尻尾はセクハラになりそうな気がして流石に触らせてとは言えない。


「……」


「イヤなら断っていいんだぞ」


黙ってしまったラッシュにヤマトが言う。

元の世界だって頭撫でるのタブーな国もあるもんね。


「ちょっと恥ずかしいけど……いいよ」


いいの!?言ってみるもんだね!


「じゃあちょっとだけ……」


そろそろとラッシュの頭に手を出して、まずはさらさらの髪を撫でた。

辛い目に遭ったね、頑張ったねという気持ちでよしよしと撫でる。

耳の部分は髪より毛が細いな。ふわふわと揺れる毛にそっと触れるとくすぐったいのか耳がぱたぱたと動いた。


可愛いぃっ!なんでこんなに可愛いの。

ヤバいわ。既に心を鷲掴みにされてるわ……獣人の子供の魅力恐るべし。

ふかふかの耳を堪能してから手を離した。


「……俺も触っていい?」


その様子を見ていたヤマトが言う。

触りたくなるよね。

結局全員がラッシュを撫でて耳を触らせて貰っていた。

なんかごめん。



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