4-3.盗人少年
上空から地上を見ていると、人が住める場所ってとても少ないんだなぁと感じる。
湖や川など水が近い場所にぽつぽつと街があるけれど、殆どが森林や山脈、峡谷や乾いた大地など人がいない大自然ばかりだ。
「日本だって6割以上は森林だぞ」
「そうなの?」
「人が住める所は3割程度らしいし」
「知らなかった……狭いね」
「山多いから住める場所が少ないんだよな」
「そうなんだ」
ヴァルドは南に向かって連日飛んでいるので、段々と乾いた大地を見ることが増えて来た。
もっと南には砂漠もあるらしい。
このモーロ大陸ってあっちの世界じゃどの大陸くらいの大きさなんだろうか。
ヴァルドの話だと森が広くて砂漠はそこまで広範囲じゃないらしい。
氷の大地もあるとのことなのでユーラシア大陸とか北アメリカ大陸かなぁ……こちらの範囲の狭い地図ではイメージが掴めないわ。
「ここらはお前達の住む国より争いが多い。気を付けろ」
乾燥地の街に入った時、ヴァルドがそう言った。
治安があまり良くないみたいだけど一泊するだけだし、さっさと宿決めて外行かなければ大丈夫だろう。
そう思っていた時、急に接近して来た足音にばっと振り返ると隣にいたルッカが足音の主を捕まえていた。
「痛えな!離せ!!」
獣人の子供だった。
狼のような耳が頭に付いていて、尻尾がズボンから出ている。
まああ!ケモミミの子供!うわぁ可愛い!
内心のヤバい興奮を外に出さないように表情筋に力を入れた。
10歳前後だろうか。レックより少し大きい少年だ。
赤茶の髪と目の可愛い顔立ちだけど、服はぼろいし全体的に薄汚れている。
獣の耳と尻尾の毛も髪と同じ色だ。
「財布でもすろうとしたのか?」
急にぶつかって来るタイプの物取りは何処にでもわりとよくいる。
腕を掴んだままルッカが問い掛けると少年はこちらを睨んで口をつぐむ。
「財布はあげられないけど、小銭でよければ少しいる?」
私がそう言うと少年は激怒したような目で私を睨んだ。
「施しなんかいらねぇよ!!」
「でも盗むよりマシじゃない。あげるよ」
「ミオリ」
ルッカが何か言い掛けたけど私は視線でそれを止めた。
大丈夫、わかってるよ。
「ふざけんなっ!ぶっ殺してやる!」
「物騒だなぁ。優しくしてあげてるのに」
微笑むと少年はますます怒りの色を濃くする。
「上から見やがって!離せっ!」
ルッカに捕まれた腕を振り解こうと暴れる少年を見下ろす。
「で、どうするの?」
「は!?」
「君は今捕まってて私に何も出来ないのに殺すだのなんだの言って。相手によっては君が殺されてもおかしくない状況なんだよ」
「……」
「憲兵につき出すとかならまだ優しいよ。動けなくなるくらい殴られることもあるかも知れない」
黙ったので意味は理解出来てるみたいだ。賢いね。
「盗人に優しい人は少ないよ」
「……っ!何も知らないくせに説教すんな!」
「そりゃ知らないよ。初めて会ったんだから」
「うるさい!うるさい!」
喚く少年にちょっと強めにゲンコツを落とした。
「いってえ!!」
「これで済ませてあげるだけ優しいと思うよ」
ルッカに視線を送ると少年の腕を離してくれた。
自由になった少年が驚いた顔をしている。
「もう悪さするなよ」
ルッカがそう言うと少年は一瞬泣きそうな顔をしたけど私を睨んでから走り去って行った。
……可愛い子に嫌われるのは悲しいわ。
「なんかミオリが普通の大人に見えて驚いたわ」
ヤマトが驚いた顔をして呟いた。
「どういう意味かな。元から普通の大人だけど」
「普通……?」
「これ以上ないくらい普通だよ」
ザ・一般人ですよ私は。
「俺の思う普通とミオリが思う普通にはちょっと隔たりがあるみたいだな」
どういう意味かなそれは。
「でも獣人って森に集落があるんじゃなかったっけ?」
「うん、集落は森だよ。けど集落を自ら出る人もいるし、何らかの理由でいられなくなる人もいるから」
そうかぁ。盗みは駄目だけど仲間があまりいない所で育っていくのは大変そうだな。
あの子が捻くれずに育つといいなと思う。
◇◇
翌朝、食料を買い足して店から出ると怒鳴り声が聞こえた。
通りの向こうで図体の大きな男が子供を捕まえて怒鳴っている。
「昨日の奴だな。また何かやったのか」
ヤマトが呟く。
怒鳴っている男が少年の顔を殴って腹を蹴った。
「……!」
私は思わず通りの向こうへ駆け出した。
大人の男が加減せず暴力を振るったら子供の骨は簡単に折れてしまう。
倒れた少年をまだ蹴ろうとする男に怒りが湧いた。
「ちょっと!やり過ぎでしょ!」
「何だよ、このクソガキの仲間か!?」
「いいえ!昨日やられそうになった被害者よ!」
私の返事に男が目を丸くする。
「……じゃあ何で庇うんだ」
「だからやり過ぎだってば。子供だよ?死んでしまうわ」
「……こいつが悪いだろ」
「そうね。でも殺人になったらあなたも困るでしょ」
「……ちっ」
男が舌打ちをして立ち去った。
倒れて動けなくなっている少年にルッカが回復呪文をかける。
「頭打ってないかな。骨と内臓は大丈夫かな」
はらはらした気持ちで見守っているとルッカが微笑む。
「たぶん大丈夫だと思うけど」
「ちょっと見せろ」
ヴァルドがそう言うと少年の服を捲し上げた。
背中や腹部が内出血によるあざだらけだった。
「これ……。あの男のせい……?」
「違うな。背中は蹴っておらんかった」
「じゃあ……」
「親か?」
ヴァルドが薄ら目を開けた少年に聞いた。
「……違う。放っておいて」
地面に倒れたままの少年が両腕で顔を抱えて隠す。
私達は顔を見合わせて黙ってしまった。
……これ放っとけないんだけど!!
困った事態になってしまった。




