4-2.聖女疑惑
花が咲いて春めいて来た頃、ヴァルドが再び村にやって来た。
「ここに来るまでに小さい者に何度か声を掛けられたぞ。何かしたか?」
羊に給餌をしていた私にヴァルドが言う。
この春産まれた子羊達はとても可愛い。
いつから愛らしい君達は親達みたいに太々しい顔になっちゃうのかな?
「ちょっとね。歓迎してたでしょ?」
「乗せてくれと頼まれたな。後でまとめて乗せてやるから広場にいろと言い置いて来た」
勇気あるな、チビっ子達……思ったより歓迎モードで良かったけど。
「大体の準備も出来てるよ」
「では明日から行くか」
「わかった。ルッカとヤマトに声掛けて来るよ」
「私は小さい者達と飛んでやろう」
ほんと面倒見がいいなぁ。
粗方の仕事を済ませてグレゴさんに断ってから畜舎を出ると、子供達を乗せたヴァルドが村の上を旋回しているのが見えた。
◇◇
数日後、私達はテヌエという街にやって来ていた。
ヴァルドが向かっている魔素が濃くなっている地域までの途中にある街だ。
夕方になったので街へと入り、ついでにヤマトの冒険者登録をしておこうという話になったので冒険者ギルドへやって来ていた。
ヤマトが受付で登録作業中、待っている間に面白い話を聞いた。
「聖女が逃亡中……?」
「そうなんだよ。見つけて身柄を確保した奴には陛下から報奨金が出るぞ」
剣士のおじさんが笑い話のように教えてくれた。
この国には神に選ばれた聖女がいる。
15歳で選定を受け、力を認められた聖女が神殿で祈りを捧げて厄災から国を守ってきたという。
そして聖女は王族と婚姻することが義務付けられている為、当代の聖女も第一王子と婚約していた。
……この話知ってるかも!
「もしかしてその王子が真実の愛とやらを見つけて勝手に聖女追放して王様激怒ってやつですか?」
「そうだよ。なんだ知ってるのか」
いえ、この国の話は全く知りませんけどね。
ラノベ好きには胸熱ネタなのですよ。
「あいつら仲間か?あれ違うよなぁ……?」
おじさんの視線の先にはヴァルドとルッカがいる。
輝く波打つ金髪の美少女ヴァルドと淡い金髪の美男子ルッカはまるで一対の人形のように見た目が良い。
その聖女は護衛騎士と一緒に追放されたらしい。
……確かにそれっぽい感じに見えてしまうね。
誤解で通報とかされたら困るな。
「残念ながら違いますよ」
聖女に会ってみたいな。もちろん身柄を確保なんかはしないけど。
たぶんこのパターンだと聖女も王子を好きじゃなかっただろうな。
絶対帰ってやらないぞって意思で逃げてるんじゃないかな?
「今からちょっと講座受けて来るわ」
「行ってらっしゃい」
ヤマトが冒険者の心得講座を受けに行き、暫くして私が手洗いへ行き戻って来た時に騒ぎは起こった。
「聖女様ですよね!?神殿へお戻り下さい!」
……あらま。心配してたことが起きてしまってるわ。
複数人の冒険者にルッカとヴァルドが囲まれている。
先に宿に行っといて貰うべきだったかな。
「何の話かわからんぞ。人違いだろう」
囲まれたヴァルドが不愉快そうに言うが、冒険者達も引く様子がない。
ヴァルドは優しいのでいきなり暴れたりはしないだろうけど、捕まえようなんてしたら怒って相手を薙ぎ倒すくらいはやるかも知れない。
早めに止めないとだわ。
「金の髪に銀糸の模様入りのローブ、神秘的なお姿……全て聖女様の特徴と一致してます。どうか我々とご同行を」
聖女の特徴ってそうなんだ。
「私が逃げてる聖女様ならまず着替えて髪染めて変装するけどな。報奨金狙いの冒険者がいるギルドには来ないし」
そう声を掛けると男にじろりと睨まれた。
「関係ない奴は引っ込んでろ」
「そこの2人の仲間なので部外者じゃないですよ」
そこにいるの私の夫だし。
なんか空気的に言いにくいけど。
「俺の妻なんだけど。どいて」
ルッカに押し退けられた冒険者が目を丸くしている。
うん、ヴァルドとペアだと思った後に私が出て来るとバランス悪いよね。何かごめん。
「なんか絡まれてるけど人違いみたいだから大丈夫だよ」
ルッカが安心させるように私の隣に立って微笑む。
「妻って……聖女様の護衛騎士じゃないのか?」
「さっきから違うと言っている。お前達には耳がないのか」
ヴァルドさん、煽るのやめようか。
「ヴァルドは私達の仲間なので聖女様ではないですよ」
まだ納得がいかなさそうな冒険者達にどう説明したものかと悩んでいると冒険者カードを持ったヤマトが戻って来た。
「魔法戦士になったぞ。Fランクだけど……あれ、何かあった?」
「かっこいいね魔法戦士。それがさぁ」
事情を説明するとヤマトは笑ってルッカとヴァルドを見る。
「確かにそれっぽく見えるな」
「だよね」
「ルッカさんとヴァルドが護衛騎士と聖女なら俺らは何だろな?」
「お供のモブ1モブ2じゃない?」
「仲間なのにモブなのかよ。もうちょい存在感欲しいな」
「賑やかしメンバーその1その2かな?」
「変わってないなそれ」
ヤマトと冗談を言い合っていると冒険者達が拍子抜けしたような顔になった。
「……ほんとに違うんだな?」
「違うってば。うちの仲間を連れてっても報奨金は出ませんよ」
「そうか……悪かったな」
がっかりしたように集まっていた冒険者達が散って行く。
「見た目が良過ぎるって面倒なこともあるんだな」
「縁がない話よね」
「だな」
まぁ何事もなく済んで良かったわ。
ギルドから出て宿に向かい始めた時、すれ違いざまに「ごめんね」と誰かに言われた。
振り返ると帽子を被った赤い髪の女の子が一瞬悪戯っぽくこちらに笑って連れの青年と街の中に去って行った。
……もしかして?
「どうかした?」
「……ううん、何でもない」
どうかうまく逃げ切ってね。
見えなくなった後姿に心でそっと声援を送った。




