3-13.旅の始まり
朝の森の中、黄金色のドラゴンが姿を現した。
「どこにどう乗ろうか?」
ヴァルドの身体は大きい。バスみたいなサイズだけど、いざ乗るとなると場所は限られている。
翼の間は羽ばたくのに邪魔だろうし、尻尾の方もトゲトゲが多いし安定感が悪そう。
前も乗った首の付け根あたりが一番乗りやすそうだけど3人となるとちょっと狭いかな?
ーーー手で掴んでやってもいいが。
「それはちょっと……」
捕まった人みたいだし胴体が辛そうだわ。
「やっぱり首の所が良さそうだよね。一番前が特等席だね」
「俺はどこでもいいけど……」
ヤマトが遠慮がちに言うけどここは一つ平等にジャンケンで行こう。
「よくジャンケンで色々決めたよね」
「そうだね」
私が教えてルッカと旅してた頃はよくやっていたなぁ。
「じゃあやるよー」
ルッカ、私、ヤマトの順になった。
ヴァルドが地を離れてゆったりと飛び始める。
朝のひんやりした風を感じる。今思ったけど1番前って寒いかも。
「寒くない?平気?」
前のルッカに声を掛ける。
「大丈夫。心配ならくっついてて」
人前でイチャイチャはしない主義ですよ。
ーーー山脈の方は同族がいる可能性があるだろうから迂回させて貰うぞ。
「同族に会うと争いになったりするんですか?」
縄張りとかがあるから?
ーーーいや、ツガイになろうとして追って来る為とても鬱陶しいのだ。
「……モテるのね」
ーーー私からすれば齢100年もいかぬ同族などただの子供だがな。
「ヴァルドって何歳なんですか?」
ーーー細かく数えてはおらんが、私が幼竜だった頃はこの陸には森の民しか居なかったな。
それなら500歳にはなってるね。凄いわ。
乗っている私達に気を使ってか、わりとゆっくり飛んでくれている。
「時速30kmくらいかなぁ?」
「もうちょっとありそうな気もするけどな」
ヤマトと大体の時速を予測してみる。2人とも車の免許は持っていないし今の体感での予測なので正解は不明だ。
魔物溢れるこの世界には歩いて測量してくれた人がいないので街の位置なんかも地図で見た距離と違っていたということは珍しく無い。
途中で休憩も挟みながら飛び続け、夕方になったので近くの街に泊まることにした。
宿で二人部屋を2つ頼んだ。
「はいこれルッカとヤマトの部屋の鍵」
「えっ」
私が鍵を渡そうとするとルッカが驚きの声を上げる。
「……夫婦なのに部屋別なの?」
「旅の間はね。ヴァルドとヤマト同室にするわけにもいかないでしょ」
女性と男性で分けるのが一番だよね。
……睨まないで。仕方ないでしょう。
「私は外で構わないんだがな」
「ヴァルドが一番疲れるのに外なんて。あ、人型で寝るのって負担ですか?」
「いや、そうでもない。昼間存分に飛んでいるしな」
私とヴァルドが話しながら部屋へ向かう。
「俺やっぱお前のこと嫌い……」
「はいはい、邪魔者ですいませんね」
ヤマトが呆れ気味にルッカと歩き出す。
窓から空を見てふと思い出す。そういえば今日って満月だったかな。
「ルッカ、今日たぶんあいつ来る日だわ。後で行っていい?」
「いいよ。ヤマトにも説明する?」
「ターゲットがヤマトになったら私は嬉しいな。ヤマトは迷惑だろうけど」
「……何の話だ?」
怪訝な顔をするヤマトに笑みを向けた。
「後で説明するね」
ヴァルドがちょっと熊か猪を食べて来ると出掛けて行った。やっぱり人型での食事だけだと物足りないそうだ。
私は入浴や着替えを済ませてからルッカ達の部屋の扉を叩いた。
「いらっしゃい。何かこの感じもちょっと懐かしいね」
「そうだね」
ルッカが扉を開けて中に入れてくれる。
ヤマトが戸惑った顔をしていた。
「俺どっか行っとこうか?」
「気を使い過ぎでしょ!いちゃつきに来たわけじゃないからね。今からちょっと来客があるんだ」
「来客?」
鍵をかけてから部屋の椅子に座って少し待っていると、扉をノックする音がした。
数秒のうちにカシャンと勝手に鍵が外れて扉が開く。
ヤマトが息を呑んだのがわかった。
褐色の肌に白銀の髪、金の目を持つ美貌の死神が現れた。
「久しいな。どうだ夫とは不仲になったか」
グラディウスが頬に触れようとして来たので手でさっと払いのける。
「なってないわ失礼な。大好きだし」
「そうか残念だ。契約はいつでも気軽にしてくれていいぞ」
「しないから今日も帰ってね」
グラディウスの目にヤマトが映った。
「……異界の者だな」
「うん。ヤマトだよ」
グラディウスがゆっくりと歩み寄り、戸惑っているヤマトの後ろの壁に手を付いた。
「契約をお願いしたい」
「は!?」
壁ドン初めて生で見たわぁ……。
男子のヤマトにやっちゃうあたり、やっぱりポンコツだなぁ。
……いや、顔が良いから有りなのかな?
私には腐属性はないので興奮とかはしないんだけど、見た目的には悪くないように見えるかも。
「意味わかんねーし。近いわ離れろ!」
やっぱ無しだよね。安心したわ。
珍しい魂が欲しいから契約しろと私の時のように説明している様子をルッカと黙って見守った。
そいつ人の話全然聞かないから頑張ってね。




