5.先人の残した物が凄い
キラキラしていないお前など我が村には不要じゃ。
図に乗るなモブ顔めが!
と言われることもなく私は今、ルッカ家族と共に会議室のような部屋で村長っぽい男性と対面している。
そもそも言葉は通じない。
ブルーノさんがルッカの無事の帰還と、何か付いてきちゃったオマケの報告をしているのだろう。
私はその様子を黙って見ている。
奥さんらしき美人が入れてくれた温かい甘みのあるお茶が美味しい。
ていうか本当にここ美人ばっかだな……
村長さんは私がイメージしていたよりだいぶ若い。
40代くらいだろうか。イケメンに渋みも加わったナイスミドルだ。
一通り話が終わったのか、こちらを向いて自分の顔を指差した。
「オリヴァー」
「……」
……何だろう。自分がやり出したことなんだけど、こう色んな人にやられると居た堪れない気持ちになって来る。
あぁ奥さんが笑ってる。やらなくていいですよ。
あ、ナタリーさんですか。承知しました。
オリヴァーさんは一旦席を立ち部屋から出て行った。
その間にルッカ達とお茶を楽しむ。
ナタリーさんがレック達にはクッキーを、私とルッカにはホットドッグ風のパンを出してくれた。
少し前に食べた果実はどこへ消えてしまったのかと思うほど腹ペコだったのでとても嬉しい。
スパイスの効いたソーセージが美味しいなー。
レックとニナはクッキーを食べながらわいわいとルッカに話し掛けている。
3人とも可愛いわ。
見てるだけでほのぼのするけど、私も話したいなぁ…
少ししてオリヴァーさんは木箱を持って戻って来た。
向かい側に座り、私に見せる位置で箱を開ける。
中にはアンティークなデザインのネックレスが入っていた。
太めの長いゴールドのチェーンの先に青い石が嵌め込まれたトップが付いている。
何だろう、我が家のお宝自慢ですか?
不思議に思っていると、ナタリーさんがネックレスを手に取り私の首にかけた。
理由がわからなくて首を傾げたその瞬間、ネックレスから身体中にピリッと電流が走った気がした。
驚いて胸元のトップ部分を見ていると、
「驚かせて申し訳ない。言葉は理解出来るようになりましたか?」
オリヴァーさんが言った。
「え…言葉がわかる……」
驚いてそれしか言えない私にオリヴァーさんは頷く。
「そちらは相手の思念を言語と共に受け取れるように作られた魔道具です。ホンヤクキ、という名前が付いています」
翻訳機……!!
もしかしてこれ…!
「100年程前に来た、あなたと同じ渡り人が作り上げた物です。魔法と知力に長けた人物だったと伝えられています」
うおぉぉー!やっぱ先人いたー!
そして素晴らしい物を残してくれているー!!
先輩ありがとぉぉーー!!
オリヴァーさんはこれは時代と共に少しずつ軽量化され、量産されたものだと言う。
村長のところにしかないらしいので、それなりに値段がするものなのだろう。
「これ、少しの間お借りしててもいいですか?」
「構いませんよ。時々外国から来る人と話す際に使ったりしていた物なので、普段は無くても特に困りませんから」
オリヴァーさんの返事を聞いてから、私はルッカの方を見る。
「ルッカ……」
「なに?」
うわぁ言葉わかるよー。本当に嬉しい……。
私の言葉を待つ宝石みたいな青紫の目をじっと見つめる。
「助けてくれてありがとう」
「……」
何より言いたかったことだ。
「ルッカが居なかったら私、たぶん死んでたよ。
何もわからなくて、森に1人きりでずっと怖くて」
うわー駄目だ、泣きたくないのに勝手に出て来る。
「ありがとうっ……」
もっと言いたいことが沢山あるのにが声がつまって上手く話せない。
暗闇で隣にいてくれたぬくもりとか、本人だって寒かっただろうに貸してくれたマントとか、採ってくれた果実の美味しさとか、ゴブリンだってルッカが倒してくれて。
私はルッカに助けられてばかりだ。
どうやったらこの大きな恩って返せるのかな。
頭を下げてぐしぐしと目元を擦っていると、
「……縄を解いてくれたのはミオリだよ」
顔を上げるとルッカが困ったような表情で笑っている。
「あんなに時間かけて切ってくれて。手が不自由なままじゃ俺だって困ってたよ」
逆にあれしかやってないんだけど、そう言って貰えると嬉し……え?俺?
ルッカの一人称が気になって目を丸くする私にブルーノさんとラナさんも笑顔で言う。
「息子がお世話になりました。私達からもお礼を言わせて下さい」
「ミオリ、兄ちゃんがありがとなっ!」
「兄ちゃんがお世話になりました!」
レックとニナも言う。
うむ……私が今まで見た誰よりも可愛いと思ってた美少女は、どうやら美少年だったようだ。
こっちに来た時よりびっくりしたよ!!