3-3.お見舞い
落ち着いて考えたらヤマト君の出会い問題より重大な問題があったね。
3年という短い間に2回も起きた転移現象だ。
これまでは10年から20年は間が空いていたのに急に間が短くなったのは、森の魔素に何か異変が起きているということだ。
オリヴァーさんの家にブルーノさん含む東西南北の班長が呼ばれて緊急会議になり、調査団が森へ派遣されることになった。
魔素の変化は魔物の増加や凶暴化に繋がるので冒険者ギルドにも連絡する深刻な問題のようだ。
「本日のランチお届けに上がりましたー!」
「声がデカい」
私は今日も昼食を診療所に届けている。
仕事の昼休み中だ。ルッカは来れる日もあれば来れないこともあるので今日は一人だ。
朝はナタリーさんかラナさんが、夕食は他の班長の奥さんが届けているらしい。
ヤマト君は怪我が酷いので暫くは診療所で入院暮らしを余儀なくされている。
数日で自力で座れるようになった。
「……俺の治療費とか飯代ってどこから出てんの?」
「村の人達からだよ。最初は私もお世話になってたから、今は気にしなくていいと思うよ」
私は殆どオリヴァーさんにお世話になっていたんだけどね。働けるようになって落ち着いた頃からは生活費を受け取って貰っている。
今回はちゃんと村の予算が組まれることになったと聞いた。
「あ、それ翻訳機?」
ヤマト君の手首に青い石の付いた銀色のシンプルなブレスレットが付いている。
「今朝オリヴァーさんが持って来てくれた」
「みんなと話せるようになるから良かったね。私のとは形が違うね」
私この翻訳機の買い取りに一年以上掛かったんだけど今は言わなくていいか。
元気になってから働いたらいいんだしね。
持って来たコロッケサンドと野菜スープを一緒に食べなら雑談する。
「今日はミオリの旦那は来ない日?」
「まだ旦那じゃないし」
「似たようなもんだろ。てかさ、この村の人達見てると俺が女子に相手にして貰えるとは思えない……」
わかる。美男美女ばかりだもんね。
ヤマト君は別に決して不細工ではない。
背もわりと高くはっきりした眉と目は好みの人もいるだろうし大学でなら彼女も出来たと思う。
ただ森の人が綺麗過ぎるだけなんだ……人族で太刀打ち出来るのはかなり上位の人達だけだと思う。
「まぁ私という例があるから大丈夫じゃない?」
「いるかなぁ……ルッカさんみたいな物好き」
おい。さらっと貶すのやめて。
あとルッカにはさん付けるのね。
「……たぶんいると思うけど」
「目を逸らさずに言ってくれよ」
ごめんよ自信はないんだ。
ルッカは物好きって私も思うからね。
「……俺やりたいこといっぱいあったんだよなぁ」
食事が終わった頃、ヤマト君がぽつりと呟いた。
「うん……」
私はこれに相槌を打つことしか出来ない。
頑張って入った大学、得られた自由、本人が努力して掴んだもの全てがここには無い。
「思うように動けねーし、結構キツいわ……」
そう言って膝に顔を埋める。
「……怪我が治ったら可愛い子がやってる食堂行こうね」
「今そういう空気じゃなかっただろ……」
顔を上げないまま軽く笑った。
「ハグでもする?」
「いらない……」
こんな会話で気を紛らすくらいしか出来ない先輩で申し訳ないな。
「いつでも話聞くよ。泣いていいし、寂しかったら側にいるよ」
私がルッカに言って貰えて嬉しかった言葉だ。
「………惚れそうになるからやめて」
「ごめんね婚約してるんだ」
「知ってるわ」
冗談交じりの会話をして、そのまま暫く顔の見えないヤマト君の側にいた。
「ヤマト君、私そろそろ仕事に戻るね」
私がそう言うと顔を上げてこちらを見た。目が少し赤くなっている。
「呼び捨てでいい。友達みんな呼び捨てだったし」
「ヤマト?」
「うん」
「じゃあヤマト、明日も来るけど何か食べたい物とか欲しい物あったら教えてね」
「可愛い彼女が欲しい」
「頑張るわ」
「ミオリが頑張ったら遠のく気がするからやめて」
「とりあえず片端からヤマトが恋愛対象になるか聞いてみる」
「ほんとにやめて……話したこともない人に振られるだろそれ」
笑ってくれて良かった。
私は彼の友人にランクアップしたみたいだ。




