2-22.思いを馳せる
青の月が満ちる夜、訪問者が扉を叩く。
トントン、
「入るぞ」
カシャンと鍵が外れて扉が開く。
……速度が上がってるじゃないか!
現れた黒服の男に私はビシッと手刀を落とした。
「勝手に入るなって言ったのに前より早くなっててどうするの!あと勝手に鍵開けるな!」
「開けろ開けないのやり取りは時間の無駄だろう」
手刀には何も感じていないようなグラディウスが金色の目で私を見下ろしている。
首を傾げるとさらりと白銀の髪が揺れ、エキゾチックな色気のある顔が不思議そうな表情をしている。
……相変わらず顔だけはいいなこいつめ。
「少なくともこのやり取りよりは有意義だよ」
「そういうものか。中に現れることも可能なのだがそれはやめておけと同僚に言われてな」
……まともな同僚いるんだね。
「顔の使い方とやらも聞いて来た」
そう言ってグラディウスは片膝をつく。
私の手を取ると指を自分の唇に軽く当てた。
「契約をお願いしに参りました」
………誰だこんなポンコツにちゃんと顔の使い方を教えたのは!同僚か!!
顔にぶわっと熱が集まったのを感じる。
顔がいいのよこの死神!!
静かに中から歩いて来たルッカが無言で私の手をグラディウスから奪って降ろす。
「……ミオリ赤くなってる」
「ちがっ……!こんなのされたこと無かったから!」
誤解です!浮気心ではありません!
「今のが気に入らなければ別のパターンもあるぞ。壁に叩き付けて動きを封じるやつだ」
「やらなくていいよ」
それもうただの物理攻撃じゃないか。
壁ドンのことかも知れないけど叩き付けるとか怖いわ。
「前より少しマシになったな」
グラディウスは私を見て微笑を浮かべた。
……ちょっと複雑だけど確かに助言をくれたから色々と気付けたし改善しようと思えたんだよね。
「……ありがとね」
「契約前にすぐ死なれては困るからな。」
まぁそうだろうけどさ。
「その件だけど、やっぱり断ろうと思って」
「何故だ」
隣りにいるルッカに目を向けてからグラディウスに視線を戻す。
「こ、婚約者なんだけど……魂になっても彼がいないところには行きたくない」
ぐあー!恥ずかしい!!
けど本音なんだ。どっちが先なのかはわからないけど、いつか天に還る時はルッカの魂と同じ場所に行きたい。
私の言葉を聞いてグラディウスはふむ、と考え込む。
「ではそいつも契約者になるというのはどうだ?」
え、そんなの有りなの?
「……俺は死神とは契約しない」
ルッカが少し不機嫌そうに言う。
「ではもう暫く通うことにしよう。同僚によると長きを共にした夫婦は愛情が薄れることがあるようだからな」
……同僚さん人間の事情に詳し過ぎやしませんか。
愛が薄れる夫婦もいるけど絆が深まる夫婦もいるんだよ!
「あと面倒くさがらずにもっと通えと言われたので小の月が満ちる日も来よう」
月1通いますから月3通いますになった。
それ求めてないわ。
「来なくていいし契約もしないよ」
「さっきのは効果があるとわかったので俺も勉強して来よう。楽しみにしていろ」
「ねぇ人の話聞いて」
死神なのになんでそんなポジティブなの。
グラディウスは楽しげな笑みを浮かべて私の髪を一房手に取ると口づけをした。
……心臓に悪いからやめて!!
「また来る」
「来なくていいよ!」
このやり取り何回目なんだろう。
いつものように人の話は聞かずにグラディウスは姿を消した。
「……ミオリちょっとあいつタイプでしょ」
「そんなことないよ」
「褐色っぽい肌の男が好みなの知ってる……」
「なんで知ってるの!?」
確かにワイルド系が好みだったけど言った覚えないのに!
「見てたらわかる……」
拗ねたように目を合わせてくれないルッカの機嫌を取るのに時間がかかった。
来る度に迷惑だなあいつ!
ルッカと並んで青い満月を眺める。
先輩達もこの月を見ていたかな。
生きた時間も場所もばらばらだけど、私達には確かに繋がっているところがある。
望郷の念にかられながらもこの世界を愛しているということだ。
愛してもいないものに命を掛けて尽くす人なんていない。
私にも先輩達のように残せるものがあるだろうか。
凄い功績とかじゃなくていいから、後の誰かを少しでも助けられる人になりたい。
焦らないで今まで通り私は私のペースで探して行こう。
月明かりの下で見るルッカは金の髪と白い肌が天使のように幻想的でとても綺麗だ。
「綺麗だね」
「そうだね」
たぶん月のこと言ってると思ってるだろうな。訂正しないけど。
隣に愛しいと思う人がいる幸せを大切にしよう。
「好きだよ」
「俺も」
優しく笑う宝石みたいな青紫の目も大好き。
これからもずっとよろしくね、愛しい人よ。
これで旅編の二章が終了です。
お付き合い頂いている皆様、誠にありがとうございます。
三章は人を増やして賑やかにやっていけたらなぁとふんわり考えております。
息抜きや暇潰しで今後もお付き合い頂けたら嬉しいです。




