別視点 ルッカ
食べたそうに見上げているその赤い実には毒がある。
木の樹液に触れると肌は火傷のようになり、実を食べると喉と口内に焼け付くような激痛が何日も続く悪魔の実だ。
期待を込めた目でこちらを見るミオリに首を振る。
その紫色の実も毒がある。
食べると強力な幻覚症状が出て暴れ回った挙句、手足の神経に後遺症が残ることもあるそうだ。
キラキラした目でこちらを見るミオリに首を振る。
その黄色の実には毒が……どうして毒の実ばかりよく見つけるんだろう。
繰り返すやり取りにルッカは内心ため息をついた。
食べられる木の実は大抵野生動物が先に食べてしまう為に見つけにくい。
彼女が見つける木の実は色鮮やかな有毒の物ばかりだ。
自分がいなければ毒の実を食べて死んでるんじゃないだろうか……
昨夜出会ったミオリは謎の多い少女だ。
まずこの国の公用語が通じない。
どこの言葉を話しているのだろうか。
あの男がミオリの言葉を呪文と勘違いして逃げて行ったのはとても幸運だったと思う。
そして服装がおかしい。
冬も近いというのに、袖が殆どない服を着ていた。
寒そうだったのでマントを貸すと嬉しそうにしていた。
それだけでも十分におかしな話だが、森で必要な荷物や道具を何も持っておらず、見たことのない素材の靴を履いている。
凹凸の浅い顔は笑うと愛嬌がある。
胸元までの黒髪と黒い目。
傷んでいない艶のある黒髪も、荒れていない手も農村の娘には見えないが、貴族にも見えない。
もしかすると本物の渡り人なのだろうか……
首を振る度にしょんぼりする姿が哀れで、早めに食べられる果実を見つけてあげようという気にさせられる。
少し進んだ先で丁度食べられる果実があったので採って渡すと物凄く喜んだ。
だがすぐに困った顔をして果実を眺めている。
食べ方がわからないようだったので皮を剥いてやった。
手が掛かる弟妹のようだ。
道を見つけてから暫く後、4匹のゴブリンに出くわした。
武器を手にこちらを囲んでいるが、こんな雑魚に獲物と勘違いされていることに腹が立つ。
一撃で終わる呪文を唱え始めた時、1匹のゴブリンがこちらに襲い掛かって来た。
そのこと自体には驚かなかったが、突然ミオリがそのゴブリンに体当たりをしたことに驚いた。
どうやら守ろうとしてくれたらしいが、危うくミオリごと蹴ってしまうところだった。
しかもゴブリンと転がったかと思うと、次に頭突きをして自分も痛がっている。無茶苦茶だ。
ミオリは魔法を使えないのだろう。
魔法も武器もない状態で、しかも戦い慣れている様子も全くないのに敵に体当たりする。
無鉄砲としか思えないけれど、彼女なりに必死だったんだろう。
魔法で方を付けた後、呆然と座り込んでいるミオリに手を差し出す。
握った手ははっとするほど柔らかく、そして震えていた。
「大丈夫。守るから」
安心出来る場所に連れて行ってあげたいと思った。