2-18.船旅2 歌姫
船旅2日目。
船も2日目になると部屋の位置は覚えたからもう迷わないよ。
ちょっと寝不足だけど今のところ船酔いもせず元気に過ごせているから嬉しい。
身体鍛えたから三半規管も強くなったのかな?
寝てたはずのルッカもなんか眠そうだね。
昨日の夕食は酢キャベツと厚切りベーコンにパンとコーンスープだった。
正直船の食事に全然期待していなかったので思ったより味と内容がまともで安心した。
朝はりんごとクラッカーとミルクというシンプル過ぎる内容だったけど。
私はともかく食べ盛りのルッカは大丈夫かな。
クラッカーいる?ボソボソしてるからいらないか。
船降りたら美味しい物いっぱい食べようね。
ずっと船の狭い部屋にいると身体が鈍りそうだから筋トレもするよ。
腹筋、背筋、スクワット、倒立……からのブリッジ!
「ミオリ、部屋狭いからそれは危ないよ」
「甲板でやって来ていい?」
「やめなさい」
外を見に甲板に出ようと2人で船内を歩いていると弦楽器の音色と美しい歌声が聞こえた。
外に出ると風が髪をなびかせる。
甲板では15,6歳くらいの少女がリュートを爪弾きながら歌っていた。金茶の長い髪をサイドで編み込んだ可愛い子だ。
声もメロディーもとても耳に心地良い。
周りにはやはり船で暇を持て余した人が数人集まっていた。
そのままニ曲を続けて歌い、終わりのメロディーを弾き終えると少女はにこりと笑った。
足元の木箱に拍手を終えた人々がお金を入れる。
聴かせてもらったので私とルッカも小銭を入れた。
「ありがとうございます。私は駆け出しの歌い手ですので、是非皆様の率直なご意見を頂き今後の参考にしたいと思っております」
歌っている時より幼い声になるんだな。不思議。
「私の歌にご意見を頂けないでしょうか」
ん?私を見てる?
どうしてかと思ったけど、なるほど。女性が他にいないせいか。それと年齢が近そうだからかな。
「えっと……声も音楽も素敵でしたよ」
真剣な緑の目が私をじっと見ている。
上辺の言葉が欲しいわけじゃないんだな。
「ほんとに率直な意見を言っていいですか?」
「どうぞ。それが聴きたいです」
「じゃあ言いますね」
他の人が立ち去り出したので本音を言わせて貰うことにする。
「声と音楽が素敵なのは本当だけど、歌詞はあんまり好きじゃないです」
「……どういった風に感じました?」
「約束を守らない男を待ち続ける女にイラッとします。なんて無駄な時間を過ごしてるのかと」
「……はい」
「時間が無駄だから次行きなよって感じ」
「なるほど」
「二曲目も弱くて女々しい。もっと強い女性の歌が聴きたいです」
「……他の女性でもそう感じると思いますか?」
「わかりません。私個人の感想なので」
この世界でどんな歌が流行るかなんて私にはわからないからね。
単に私が待ってる系の女子より自分で行ってやるわ系の女子の方が好きなだけだ。
「そうか、強さね……ありがとう。曲作りの参考にさせて貰うね」
何か思うところがあるのか、顎に手を当てて考えている。
あと口調が急に砕けたなと思ったら、私とルッカ以外の人がいなくなっていた。
だから営業口調やめたのかな?
「私はニコラ。名前を聞いてもいい?」
「ミオリだよ」
「ルッカ」
相手に合わせて私も丁寧な話し方をやめた。
「ミオリとルッカね、よろしく。船にいる間に曲が出来たらまた聴いてくれる?」
「もちろん」
ニコラを見ていると、ふと案が浮かんだ。
「ニコラにちょっと歌って欲しい歌があるんだけど」
「知らない歌だと演奏は急に出来ないよ」
「大丈夫。歌だけでいいから」
私が好きな一時期あっちの世界で流行った恋の歌だ。
何度も歌ってニコラに歌を伝える。
彼女の声で聴きたいというのが単純な理由だけど、もしもニコラが流行らせて後世に残してくれたら。
いつか私の後に来る日本人の渡り人が耳にして懐かしく思ってくれるかも知れない。
「素敵な歌ね。ミオリが作ったの?」
「まさか。私の地元で流行った歌だよ」
「じゃ私が歌ったらマズいんじゃないの?」
「大丈夫。私、渡り人だから」
「へ?」
「作った人も知ってる人もこっちの世界にいないから大丈夫」
著作権は異世界には届かない……はず。
「ほんとに……?」
「うん。他にも色々歌なら知ってるけど、知りたい?」
私の言葉にニコラは首を振る。良かった。
「ううん。他人が作った歌で褒められても意味ないもん」
「そうだね。単にニコラの声で聴きたいなって思ったから伝えたけど、仕事で歌うかは好きにしてね」
「わかった」
イントロの部分も口で伝えるとそれっぽく弾けてしまうので演奏の才能もあると思う。
リュートを鳴らし、ニコラがよく通る澄んだ歌声を響かせる。
私には懐かしくて、優しい恋の歌。
また聴けて嬉しい。
少し胸が痛む気がするのはどうしようもない。
爽やかな秋風に乗る歌に聴き入っていた。




