別視点 ルッカ4
「ぐあっ!こいつ強いぞ!?」
「おい隣のゴル呼んで来い!」
自分の周りをごつい男達が囲み驚愕の声を上げ、目の前では今負かしたばかりの男が右腕を押さえて痛がっている。
……どうしてこんなことになったのだろう。
今朝はミオリの様子がおかしかった。
考え事がしたいから別行動したいと言われ、1人で近くの鍛冶屋の作業場を見学させて貰うことにしたのだが……。
鍛造作業を見学中に作業場の男にそんな細い腕で鍛冶屋は無理だろうと軽い嫌味を言われたのがきっかけだった。
あんたよりは力があるなんて返してしまったものだから、じゃあ勝負するか?となり、腕の力だけで競い合う勝負をすることになった。
最初の1人を負かしたところから次々と勝負を申し込まれ、近くの作業場の男達まで呼ばれて参加する始末。
気が付けば大人数を相手にする腕相撲大会になっていた。
……こんなことをしに来たわけではない。
親方も笑って見てないで止めてくれないか。
男が男を呼びに行き、どんどん人数が増えていく。
ただでさえ炉の熱で作業場は暑いというのに流石は鉄の街の鍛冶師と言える体躯の男達に囲まれて暑苦しいことこの上ない。
……帰りたい。
帰ってミオリの話を聞きたい。
話してくれなくても隣に座っているだけでもいい。
少なくともここよりは百倍幸せを感じる筈だ。
「そろそろ帰ります。仕事の邪魔して申し訳ありませんでした」
少々棒読みになってしまったが、帰るという意思が伝われば問題ない。
「いや待て!最後にゴルと勝負してから帰れ!」
誰かがそう言うと今までで一番デカい男が前に進み出た。
その顔はにやにやと不敵に笑っている。
負けるわけがないと思い込んでいるその様子に、少しイラッとさせられた。
とても無駄な時間を過ごしてしまった。
次から見学に行く時はやっぱりミオリも一緒がいい。
ミオリが一緒にいればあんな挑発に乗ってしまうことはないと思う。
昼より少し前に帰って来ると宿にミオリの姿がなかった。
どこかへ出掛けたのだろうか。
待っていれば戻って来るだろうしすれ違うこともないと思うけれど、今朝の様子を思い出して探しに行きたくなった。
たぶんそんなに遠くへは行ってない筈だ。
武器屋や鍛冶屋に立ち寄るとも思えないので店は素通りして勘を信じて広場の方へ向かった。
広場のベンチでミオリが膝を抱えて小さくなっていた。
その姿を見てもの凄い後悔が押し寄せる。
本当に俺は何をしていたんだろう……。
近付くと肩が小さく震えている。
そっと声をかけて一緒にいていいか尋ねると顔を上げずに頷いてくれた。
「泣きたくなったら泣いていいし、寂しかったら呼んでって言ったことあるの覚えてる?」
辛い時に1人にしてごめん。
もっと早く来れば良かった。
「今は呼ばれなくても隣にいたいよ」
ミオリが呼ばなくても隣にいるから。
あの頃よりずっと今の方が好きなんだ。
何があったのか聞きたいけど話してくれるまで待ってようと思う。
ミオリは落ち着いたらたぶん話してくれるから。
自分の短気なところを大いに反省した日になった。




