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2-15.隣にいること


「今日は別行動でお願いします」


「え、急にどうしたの」


グラディウスと話した翌朝、私は朝食の席でルッカに別行動をお願いした。


「昨日の武器屋そんなにつまらなかった?」


「ううん、違う。ちょっと考えたいことがあって」


「俺と一緒じゃ駄目なこと?」


「1人でじっくり考えたくて」


私の顔を見て何か言いかけたルッカが言葉を呑む。


「……わかった。昼には一旦帰って来るから、知らない人に付いて行かないようにね」


……幼児じゃないからね。


ルッカが出掛けてから私も外を少し歩くことにした。

宿で考えても良かったのだろうけど、ずっと部屋にいると気分が落ち込んで来そうだったから。


今日も澄んだ青空にハケで掃いたようなすじ雲が出ている。

キンキンカンカンと鉄を打つ金属音がどこかの作業場から聞こえて来る。

ルッカと一緒に歩けばどこも楽しいけれど、やっぱり1人だとそんなに楽しくないな。


街の広場には馬に乗った人の銅像があった。

人通りはあまりない。

ベンチに座って昨日の話を思い返した。


確かに私はこの世界に大した執着がないかも知れない。

家族も友達も居ないし。

ラスタナ村には大切だと思える人達が出来たけど、それでもルッカがいなければ絶対ここに居たいとは感じない。


森の人の現在の寿命は60〜70歳くらいらしい。

ルッカと一緒に生きるならそのくらいは生きたいなと思う反面、一緒じゃないのなら何歳でも別に構わないと思う自分がいる。


そうか、こういう考え方だから自分の命に執着がないってことなのかも。

もっとこれがしたいから生きたいって欲を持たないといけないのかも。



それともう一つ。

向き合わなければいけない問題が残っている。


痛みと向き合うっていうのは難しいな。

箱に入れてテープでぐるぐる巻いて沈めたようなものを取り出さなければいけない。

見たくないからずっと隠してたのに。



『アイス買いに行って来る。お母さんいる?』


『お母さん今ダイエット中だからいいわ』


『じゃ焼き蕎麦なんか食べちゃ駄目なんじゃない』


『昼はいいのよ。夜ご飯で調整するんだから』


『はいはい。じゃあちょっと行って来る』



母とした最後の会話って確かこんなんだった。

たった2年前だけど、もう2年前とも言える。

こんなのが最後になるなんて思ってもみなかった。

他の渡り人のように自分も全て失ったのだと自覚するのは怖かった。


だって自覚したらもう会えなくなってしまう。

2度と会えないわけではないと思っていたかった。


お母さん、お父さん、お兄ちゃん………。


私は異世界に来てから家族を想って泣いたことは一度も無い。

もう会えないなんて理解出来なかったから。

息が詰まるような痛みが胸に溜まっていく。

嗚咽がこみ上げてきて膝を抱えて顔を埋めた。


泣きたくなかった。

泣いたら認めたことになる。

けれど泣かないと前に進めない。

心を麻痺させたままでは自分の命も守れない。



この地で眠った先輩達の痛みを初めて知った。





「ミオリ……?」


泣き始めて暫く経った頃、ルッカの声がした。

今はきっと酷い顔をしているから顔が上げられない。


「早めに帰って来たら宿にいなかったからちょっと探したよ」


そっか。探してくれたんだね。

心配かけてごめんね。

そう言いたいのだけど、声が喉に詰まってまだ話せない。


「一緒にいてもいい……?」


気遣うような優しい声で聞いてくれる。

顔をあげないまま頷くとルッカが隣に座った。


「泣きたくなったら泣いていいし、寂しかったら呼んでって言ったことあるの覚えてる?」


覚えてるよ。あの時ルッカが凄いと思ったから私も頑張ろうと思えたんだから。


「今は呼ばれなくても隣にいたいよ」


ぐす、と鼻が詰まって音がする。

やっぱりルッカは私の天使だ。

並びたいから頑張ろうって思えるし、一緒にいたいから長生きしたいって思う。

森で助けられた時から、ずっとずっと助けて貰っているんだよ。


諦める癖も絶対直そう。

ルッカといることを諦めない。



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