2-9. 2人目の先輩と黒い影
たまたま通りかかったその街で、なんと私は2人目の渡り人の先輩を見つけた。
どこでも渡り人の情報を集めるようにしていたのが功を奏した。
街の人に聞きながらたどり着いた墓石には誰かの名前と1805 - 1848と掘られていた。
悲しいことにお墓の文字が読めない。
何故かこちらの言葉は掘られていない。
名前すら知ることが出来なかった先輩に花を手向けてそっと手を合わせた。
その街は香辛料の生産が盛んで、スパイス料理を提供するお店が多かった。
もしやインドの方だったのかな?
もしやあれはヒンディー語?
でもインドって川に流すからお墓って作らないんじゃなかったっけ……?
いやでもこの街で亡くなったのならこの街のやり方で埋葬されるか。
そもそもここにガンジス川はない。
もしかすると家族になった人もいたかも知れないし。
せっかく見つけた先輩だが、資料も何も残っていないので謎だらけだ。
男性だったらしい、香辛料を広めたらしいということだけが伝承で残っていた。
先輩が残したスパイス料理はかなり辛いけど美味しかった。
外は雨が降っている。
夏から秋に変わる頃に降る雨だ。
移動には向いていないから雨で良かった。
頭が痛くて気持ちが悪い。熱いのに寒いと身体がとても辛い。
ルッカが心配してるから早く治したいなぁ……。
いつの間にか眠っていたようで、夢を見た。
黒い奴がこっちへおいでと呼んでいる。
怪しいからイヤですよ。
子供の頃から知らない人には付いてっちゃいけませんと教わってるからね。
ーーー家に帰してやろう。家族が恋しくないか?
そりゃお母さん達には会いたいけど……。
一瞬迷いが出たけど、やっぱりやめておく。
あなたが信用出来ないし。
それにここにはルッカがいるから帰れなくても結構幸せなんですよ。
私がきっぱり断ると、黒い奴は少し考えてから姿を変えた。
黒い奴が出会った頃のルッカになった。
ああ可愛いな。今は可愛いというよりかっこいいになったからこの姿はもう見れないんだよね。
たった2年前なのに懐かしいな。
ーーーおいで。
いや行かないよ。
目の前で変身しといて何言ってんだ。
ーーー意外と手強いな。
私のこと馬鹿にしてるな?
たぶん死神とかそういう奴でしょ。
付いて行ったら天国じゃないか。
ーーー天国ではなく冥府の王の膝元だ。
意味的には同じだよ!
まだまだ行く気はないからね。
あ、だけどルッカに変身した責任は取ってよね。
あなたがこっち来なさい。
可愛いルッカが何か言いたげに私のところへやって来た。
可愛いな、可愛い、可愛い。
頭を撫でて、髪に触れて、ぎゅっと抱き締めた。
こっちのルッカも大好きだわ。
ーーーもういいか。
うん、満足したよ。ありがとう。
あなた意外といい人だね。
ーーーまた迎えに来る。
来なくていいよ!行かないよ!
小さな物音で目が覚めた。
「ごめん、起こした?」
声の方に目をやるとルッカが水差しとグラスを枕元の小さな机に置いていた。
まだ視界がぼんやりしている。
「水飲む?」
「飲む……」
脱水にならないように水分補給は大切よね。
のろのろと上体を起こすとルッカが水を入れたグラスを渡してくれる。
「今は朝?昼?」
「昼過ぎだよ。何か食べれそう?」
「今は無理……まだ気持ち悪くて」
水を飲んだら再びごろんと寝転んだ。
ルッカが私の額に手をそっと乗せる。
「まだ高いね」
「ごめんね……早く治すからね」
「気にしなくていいからゆっくり休んで」
本当にどうしたんだろう。
ずっと健康優良児だったはずの私はこの夏2度目の熱を出していた。
ひと夏に2回も熱出すとか病弱か。
美人なら病弱でも儚気っていう追加要素かも知れないけど私にはただの残念要素だからほんと勘弁してほしい。
「慣れない生活してるせいもあると思うよ。身体が休めって言ってるんだよ」
そっか。野営したり一日中歩いたりしてるもんね。
「ルッカは自分の部屋にいてね」
「絶対イヤ」
……何でよ。
「熱出してるミオリ放っておくくらいならうつる方がいいよ。逆だったらイヤでしょ?」
「……そうだね」
辛そうなルッカ放っておけとか無理だわ。
だけど共倒れもどうかと思う。
「人族の病気ってあんまうつらないから大丈夫だよ」
森の人ってそうなの?初耳だな。
力や魔力が強いだけじゃなくて免疫力も高いんだね。
良かった。
安心したらまた眠くなって来た。
ルッカが優しく撫でてくれる。
「側にいるから安心して。おやすみ」
雨の音を聞きながら私は再び眠りに落ちた。




