2-7.令嬢の勧誘
「わかりやすい!」
冒険者ギルドに入ると受付にいたおじさんと目が合った瞬間、突然そう言われた。
私とルッカは何のことかわからずに動きを止める。
「あんたらをアリンガム伯爵家のもんが探してたよ。いやぁこんなにわかりやすいとは……」
言いながらおじさんがふははと笑う。
「どんな風に探してたんですか?」
「若い2人組で、一度見れば忘れない顔の金髪男と何度か会っても忘れそうな顔の黒髪女って聞いてたんだよ」
……その使いの男、たぶんアストン君だな?
次会ったら覚えておけよ。
「助けて貰った礼がしたいから伯爵家へ来て欲しいそうだよ」
「……どうする?」
ルッカと目を合わせるが、お互い面倒くさいと顔に書いてある。
「聞かなかったことにして行かないのも有りですか?」
私が聞くとおじさんが困った顔をする。
「礼がしたいってんなら顔だけ出して来たらどうだ?
礼で呼び付けんのもどうかと思うがな。相手は貴族様だから仕方ないやな」
「伯爵の家に着てくような服も無いですし」
「そのまんま行って来な」
人の良さそうなおじさんに促されて行くことになってしまった。
着いたばかりのアレティの街の高級住宅街を歩く。
貴族が住まう区画だけあって、歩いている人は私達の他にいない。
門から入っても馬車で移動するような邸宅ばかりだからだ。
「ごめんください。呼ばれて来たんですが間違いならすぐ帰りますね」
むしろ今すぐ帰りたい。場違い感が凄い。
周りの邸宅よりも更に立派なお屋敷の前。
門番の人に声を掛けた。
まさか徒歩の人に話しかけられるとは思ってもいなかったであろう門番の青年が驚いている。
「帰りますね」
「いや待って!聞いてる!聞いてるから帰らないで!」
即座に回れ右をする私に青年が慌てて声を掛ける。
聞いてるのか……。
「なんで嫌そうなんですか。開けますからどうぞ」
「……ありがとう」
こうして私とルッカは伯爵家に足を踏み入れた。
……門から玄関遠いな。
ようやく辿り着いた玄関で再び事情を話せば待たされること10分程。
「ルッカ様!」
輝くような笑顔の少女が階段を駆け降りて来た。
確かエミリーだったかな。
天使の輪が出来た亜麻色の髪と大きな青い目が可愛らしい。
まだ幼さの残る少女なので白いフリルのドレスも似合っている。
「またお会い出来て良かった。どうしても助けて頂いたお礼がしたかったのです」
手を胸の前で組み合わせ、頬を紅潮させてキラキラした目でルッカに話し掛けている。
………モブは目に入りませんか?
それか何度か会っても忘れる顔らしいのでもう忘れましたか。お姉さん泣きますよ。
「お疲れでしょう。すぐにお茶の用意を致しますわ。よろしければ晩餐にもご参加くださいませ。ミオリ様も」
良かった覚えてはいたんだね。
私の名前だけ声小さいのは何でかな。
一度いい子だと思った子からの仕打ちに心の涙が出そう。
皮張りのソファとテーブル、エレガントな壁紙に大きな絵画や特大の花瓶が飾られた応接室に通された。
「私もう帰っていいかな。ルッカ残ってていいよ」
「何でミオリだけ帰るの。帰るなら俺も帰るに決まってるでしょ」
「いやどう受け取ってもルッカしか歓迎されてないでしょ」
「……ミオリが帰るなら俺も帰る」
「……じゃ晩餐は遠慮させて貰ってお茶頂いたら帰ろうか」
そんなことを話していると、応接室の扉がノックされた。
ティーセットやお菓子が載ったカートを押す侍女に続いてエミリーとウィリアムさん、アストン君が入って来た。
よし、アストン君。
ちょっと話したいことがあるからそこに正座しなさい。
目に力を込めて睨むとアストン君が目を逸らす。
「先日はありがとうございました。護衛中でしたのでちゃんとしたお礼もしないままになってしまい申し訳ありませんでした」
ウィリアムさんが最初に言った。
……前は暗かったし緊急事態だったから何も思って無かったけど、ウィリアムさんもアストン君も顔がいいな。
黒髪短髪青い目の硬派な印象のウィリアムさん。
ゆるふわ茶髪で緑の目の甘い系のアストン君。
エミリー……護衛を顔で選んでるな。
だから危ない目に遭うんだぞ。
ルッカも護衛に欲しいとか言いそう。
森でブルーノさん達から預かった大切な息子さん、イケメン集めが趣味みたいな子供に渡しませんよ!
「いえ。当然のことをしただけなので」
ウィリアムさんの台詞にルッカが返事をした。
目の前にお茶とお菓子が並べられる。
クッキー、パウンドケーキ、チョコレートタルト。
美味しそうだね。
どれから食べようかな。
「実はご相談したいことがございまして……ルッカ様、わたくしの護衛騎士になる気はございませんか?」
ほらね。
「ならない」
微塵も考えることなく即答するルッカ。ちょっと嬉しい。
「ぼ、冒険者でいるままより多く安定した収入をお約束致しますわ」
即答で断られるとは思っていなかったのか、食い下がるエミリー。
「興味ない。帰ろうミオリ」
そう言ってルッカは席を立つ。
え、まだクッキー1枚しか食べてないんだけど……。
「甘い物なら後で買ってあげるから帰るよ」
「……なんで考えてることがわかるの」
「顔に出てるから」
可笑しそうに笑って席を立った私の手を引いて歩き出す。
「お待ち下さい!」
そのまま制止する声も聞かずに2人で外に出た。
玄関から門までの距離を美しく整備された庭を眺めながら歩く。
完璧に刈られた芝、丸くカットされた植え込み。
庭師さんが丹精込めて作り上げた素敵な庭だけど、私はラスタナ村で見ていた自然と暮らしが溶け込んだような風景の方が好きだ。
「ルッカはルッカの好きなことしていいんだよ」
私の渡り人探しにずっと付き合うことはないと思う。
そう言うとルッカが少しむっとしたような顔になる。
「好きなことしてるよ。ミオリと一緒にあちこち見て回るのは楽しいし」
「でも鍛冶の仕事とかは?」
「帰ったらまたやれるからいいの」
「……そっか」
嬉しくなって繋いだ手をきゅっと握った。
それに応えるようにしっかり握り返してくれる。
ルッカとなら私もどこだって楽しいよ。




