2-6.たまには戦うよ
ちょいグロありです。
ぬるい風が草原を吹き抜けて行く。
私とルッカは街道を歩いて街から街への移動中だった。
日は既に傾きかけている。
今日中には次の街に着かないので野営の予定だ。
「そろそろ準備する?」
「そうだね」
野営をする場合はまず折り畳み式の焚き火台をセットし、魔物避けの聖油を染み込ませた薪で焚き火を作る。
ティッシュ箱サイズのこの薪、一本で一晩中燃え続ける便利な魔道具だ。
そして1人用のテントを張って寝袋を中に入れると野営準備が出来上がりになる。
野営中に2人共寝たりしたら危険だからね。
片方は火の側で見張りをして交代で眠るのだ。
「今日も私が先ね」
「気にしなくていいのに」
前もって見張りを先にやることを宣言する。
私が後だと夜中に起きれなかった時にルッカは起こしてくれないからだ。
「俺の方が体力あるから」と言ってくれるのはありがたいけど、明け方まで寝てしまった時の罪悪感が凄いので先にやってから寝る方が気持ちが楽だ。
ちなみに逆の場合はルッカは起こさなくても絶対起きて来るから凄い。男前だね。
体内にアラーム機能が付いてるのかな。
元々キャンプすら経験のなかった私は野営も実は嫌いじゃない。
火で炙ったハムやチーズをパンに挟んで2人で食べるのは楽しいし美味しい。
難点はお風呂に入れないことと、聖油も全ての魔物に効果があるわけではないので時々魔物が現れることだろう。
ピィイーーー!!
辺りが薄暗くなって来た頃、突然遠くから笛の音が響いた。
「この音って」
「救援笛だね」
誰かが助けを求めている音だ。
ルッカと目を合わせると荷物はそのままに駆け出した。
ピィイーーー!!
2度、3度と笛は鳴り続けている。
助けを求めても近くに人がいるとは限らないのだから鳴らしている方は切迫しているだろう。
走った先の街道で馬車がゴブリンの集団に囲まれていた。
ゴブリンの数が今まで見た中で一番多い。二十は余裕で超えていそうだ。
馬車の周りで騎士っぽい制服を着た2人が応戦しているけれど数に押されている。
「ミオリは右から行って。広範囲のやつ唱えるから」
「うん」
馬が驚いて暴走するといけないので魔力石は使えないな。
剣を引き抜くとまだこちらに気が付いていないゴブリンへ斬り込んだ。
ザン!ザザンッ!!
狙うのは首か心臓。下手に手負いにすると向こうも必死になって凶暴になるから。
1・2・3・4……5匹目の首を刎ねたところでルッカの方を見ると目が合って頷く。
私が下がった瞬間に氷の矢がゴブリン達へ降り注ぎ、馬車の近くにいた数匹以外は倒れ伏した。
騎士が残りのゴブリンを剣で斬り捨てて戦いが終わった。
「終わった……?」
騎士の1人が呆然と呟いた。
終わりましたね。お疲れ様です。
辺りはゴブリンの死骸だらけで凄惨な光景だ。
片付けるの大変だぞこれ……。
「……ご助力ありがとうございました。助かりました」
「くっそ疲れた!ヤバかったー!これ片付けたくねぇー!」
片方が礼儀正しく私達に挨拶し、もう片方が心の声をそのまま口に出している。
わかるよ。私もやりたくない。
けど街道に倒した魔物起きっぱなしはマナー違反なんだよね。
「アストン!」
あ、怒られた。
しっかりしている先輩騎士がウィリアムさんで心の声だだ漏れが後輩騎士のアストン君というらしい。
後輩の教育大変そうですね。
笛を鳴らしていた御者のおじさんも参加しての片付け作業となった。
ウィリアムさんが魔法で掘った大きな穴にゴブリンを運んでどんどん入れる。
男性達は2匹とか持ってるけど私は無理だからね。
1匹ずつ引き摺って運ぶよ。重っ。
暗くなって来たので辺りを照らす光の玉をアストン君が宙に浮かべる。ゴブリンの青い血だらけの現場が照らされてより一層酷い光景になった。
「あの……わたくしも手伝います」
馬車の扉が開いて、中から12,3歳くらいのドレスの女の子が顔を出した。
中で侍女っぽい人が「いけません!」と怒っている。
「エミリー様は中でお待ち下さい」
「ですが助けて頂いた方々にこのような作業まで……それにそちらの方は女性ですよね」
どこかの御令嬢みたいだけどいい子だな。
視線を受けて運ぶ作業を一旦止めて笑顔で軽く手を振った。
「冒険者なんでお構いなく。人命救助も街道の片付けも当然のことなんで」
「ですが……」
少女は辺りを見渡してルッカに気付くと息を呑んだ。
どんどん頬が赤くなっていく。
わかるわー。ピンチの時にこんなイケメンが現れたら王子様に見えるよね。
「無理だと思うよ。邪魔になるから中にいて」
なのにルッカが塩対応。
確かにドレスの子が降りて来ても困るだけなんだけどもうちょっとオブラートに包んであげて!
「すいません……」
しょんぼりして中に戻って行く姿が気の毒だった。
死骸を全部穴に入れたらウィリアムさんが魔法で焼いて埋め、街道の血も焼き払う。
火種が残っていないか確認したら漸く片付け作業は終わりとなった。
置いて来た荷物や火が気になるから早く戻らないと。
長くなりそうなお礼の挨拶を断って私とルッカはさっさと戻ることにした。




