別視点 ブルーノ
日が暮れる頃、息子が帰って来た。
帰宅を知った途端、兄が好きな下の子供達が話し掛けに行く。
「ごめん後にして」
言うや否や、二階の自室に上がって行った息子に僕もラナも目を丸くした。珍しいからだ。
何かあったんだとは察しが付くが、閉じ籠りに行ったということはいいことでは無さそうだ。
もう13歳だし仕事もしているので放っておいた方がいいと思う僕と、話を聞いてあげてというラナで時々意見が別れる。
子育てとは正解がないから難しい。
今回は僕が折れた。
「ルッカ?何かあったのか?」
扉を叩いて話し掛けても返事がない。
「入ってもいいか?」
それでも返事がない。
入らないで欲しい場合は言うだろうから了承を得たんだと思って扉を開いた。
ベッドに突っ伏して寝転がっている。
眠っているわけでは無さそうだけど……
「何かあったのか?」
もう一度同じ質問をしてみる。
「……ミオリが馬鹿なんだ」
暫しの沈黙の後、枕に顔を埋めたままルッカが呟いた。
吹き出さなかった自分を褒めたい。
秋にルッカが森で見つけた渡り人の少女は良く言うととても素直な性格をしている。
平和なところで育ったのがよくわかる、他人を疑うことを知らないような子だ。
悪く言うとちょっと抜けている、ルッカが言う通りの子だと思う。
「喧嘩でもしたのか?」
違う、と返って来る。
枕から顔を上げないので聞き取りにくい。
「………触りたくなるから近付けないって言われた」
思っていたより甘酸っぱい案件だった。
よく見ると耳が赤くなっている。
そうかー、もうそういう年頃なんだなぁと物思いにふけっているとくぐもった声でぶつぶつ言っている。
「……レック達と同じ感覚で触りたいんなら辞めて欲しくて」
うん……近付けないって言ってるんならそれはもうアレなんじゃないのかな?
僕が教えるのは良くない気がするから言わないけど。
「まぁルッカにも可愛い可愛い言ってるもんね」
ミオリはよくニナやレックを可愛いと褒めそやしては甲斐甲斐しく世話を焼いている。
髪型を変える度にベタ褒めしてくれるので、ニナなんかはミオリが来る日は新しい髪型をラナに毎回希望して困らせているくらいだ。
「……かっこいいも言われてるよ」
そうかぁ、良かったなぁ。
……これ以上僕は何を言えばいいんだろう。
親の贔屓目を抜きに見てもルッカは出来のいい息子だと思う。
小さい頃から魔法・体術・勉強も大体そつなくこなし、弟妹の世話もしてくれるし性格もわりと穏やかだ。
最近ちょっと思春期で素直さが薄れて来たけれど。
いつか村の子か別の集落の子と恋をするんだろうと思っていたのだけど、意外なところに進んでいて面白いな。
まだ13歳と16歳だから時間はかかるかも知れないけど、黙って見守りたいと思う。
悩むのも醍醐味なんだよ。
「……父さんっていつから背が高くなったの」
微笑ましい気持ちで退室しようとしたら止められた。
そうか、まだルッカの方が少し小さいもんな。
心配しなくても僕の息子なんだからまだまだ伸びる筈だよ。
早く下に行ってラナとこの楽しさを分け合いたい。
「いつだったかなぁ……たぶん14、5歳くらいだったような。ルッカももう直ぐだと思うよ」
「……そっか」
もう下行っていいかな。
何も言わなくなったので僕は用無しになったのだろう。
愛する妻と子供が成長している喜びをわかち合おう。
うん、決して面白がっているわけではないよ。
僕は気を抜くと緩んでくる口元を手で隠しながら息子の部屋を後にした。




