17.たぶん恋の話
やましい気持ちを抱えたまま、季節は春になった。
ここの春は杉花粉が舞わないからとても助かっている。
冬の間に羊を狙った赤目熊が3回襲来した。
爆発する魔力石で攻撃した後、電撃の魔力石でとどめを刺した。
私が死ぬかと思った。
そして最近知ったのだけど、羊の守り人って村では危険な仕事ランキング上位に入っているらしい。
……職選びの時点で間違えてたみたい。教えて欲しかった。
「ミオリは今後どうしたいと思ってるの?」
草の上に座りながらルッカが聞いた。
……息が整うまで待って貰えるかな。
ルッカも同じだけ運動した後なのに涼しい顔で、いつも私だけが瀕死の呼吸なのはどうしてなの。
ぜいぜいと呼吸すること暫し、やっと話せる状態になった。
ちょっと距離を置いてルッカの横に座る。
そう、ショタコンはノータッチの精神が大切です。
じゃないと犯罪になるから。
「……情け無いけど森を出れる気がしなくて」
「確かに今のミオリだと無理だろうね」
……だよね。
「あとミオリは抜けてるから1人じゃ街でも危ないと思う」
そこは反論したいところです。
「そりゃこっちの常識ないけど……勉強するし」
「それだけじゃ無くて、なんて言うか……悪どい輩のいいカモっぽさが凄いと言うか」
「えー……」
「冒険者ギルドにミオリが1人で行ったとするでしょ」
「うん」
「入り口のとこに立ってた人物に、新人の方は入館前に登録料をお願いしますって言われたら?」
………払ってしまうかも知れない!!
びっくりした顔になった私にルッカはジト目になる。
「そんな詐欺いくらでもあるから」
「……気を付けます」
「思ってることすぐ顔に出るし」
「うぅ、なんか耳が痛い」
「まだ弱いし」
「現在進行形で努力中ですよ!」
「そんなんじゃ心配で村から出せないから」
ルッカはじっと私を見つめて言った。
目を離していた隙に青紫の目が思ったより近いところに来ていることに気が付いて、途端に頬が熱くなる。
わぁ近い!近くで見ても綺麗な顔だね!
……ってそうじゃなくて!
「……なんで顔隠すの」
「ナンデモナイヨ」
赤くなっているであろう顔を両手で覆って隠した。
「最近ちょっと俺からわざと離れるでしょ」
うわぁバレてた!
「何か俺、嫌われるようなことした?」
逆です!私のやましい気持ちがバレて嫌われるのが怖くて離れているんです!
……とは言えない。嫌われたくないよー!
「……違うよ。私が駄目なだけ」
「何が駄目なの?」
不思議そうに小首を傾げるルッカが可愛い。
「うぅ……何かちょっと……」
「うん」
うまい言い訳が思い浮かばない!
「……最近ルッカの近くにいると落ち着かなくて」
「うん?」
「……っ可愛いなぁとか触りたいなって思ってしまうから離れてました!ごめんなさい!」
気持ち悪くてごめんなさい!!
手で顔を覆ったまま勢いで言ってしまった……。
軽蔑の目で見られるのが怖くてルッカの顔が見れない。
あぁ沈黙が怖いよ……もう会うの辞めるとか言われたら……。
「……触りたいって、俺に?」
長い沈黙の後、ルッカがぽつりと呟く。
ええ、変態ですいません……。
……
……
……沈黙長くないですか?
呆れたか軽蔑したか……もしやもう帰ってるとかだったらどうしよう。
手の隙間からちらりと覗き見る。
良かったまだいる。
恐る恐る手を下ろしてルッカを見ると、美麗な顔が真っ赤に染まっていた。
「……!」
その表情に心臓がぎゅうっとなって、私の頬もまた熱くなる。
怒っ……てるわけじゃなさそうだよね。たぶん。
「あの……ごめんね。気持ち悪くない?」
聞いといて何だけど、気持ち悪いって言われたら泣きそうだ。
「……そ、んなことはない、けど」
赤く染まった顔のまま、ルッカは気まずそうに目を逸らしている。
そりゃこんなこと言われたら困るよね。
「……ごめんね、変なこと言って。ルッカが嫌がることは絶対しないって約束するから。だから嫌わないで下さい……」
縋るような気持ちで見つめていると、ルッカは戸惑った表情を一度リセットするように目を閉じた。
そしてゆっくり目を開くと意を決したように私を見る。
「ミオリ、よく俺のこと可愛いって言うけど俺は男だからね」
……存じております。
「そのうちミオリよりデカくなるし、力なら今だって俺の方があるし」
「うん」
ルッカが何を言いたいのかわからなくなって来たぞ。
「手、出して」
言われるまま右手を差し出すとその手を取って自分の左手に合わせる。
「ほら」
手の大きさを比べるとルッカの方が少し大きい。意外だな。そして指も綺麗だな。
「うん……?」
どうしよう、益々意味がわからない。
察しが悪くて困ったな。
私の表情を見てルッカは溜め息を吐く。
「……俺に触ったりしたら困るのはミオリの方だよってこと!」
……
……
……何で?
「ああっもう!この馬鹿!」
ルッカに初めて馬鹿と言われてしまいました。




