15.出来ないなら工夫しよう
98……99……100!
ばたりと倒れて震える腹筋を抱えて悶絶する。
初めて今日は腹筋100回出来たから、今日は腹筋記念日にするわ。
最近は雪でランニングが出来なくなったので、地道に筋トレを頑張っている。
いつも通り畜舎へ向かう朝、道でばったりと会った人物にぎくりとしてしまう。
「猿、まだ出て行かないのか」
冷たい表情で悪意をぶつけてくるのはアーヴィンという男だ。長い金茶の髪を一つに束ねていて、年齢は少し上くらい。
せっかく森の人特有の端正な顔立ちをしているのに、そのうち性格が滲み出て醜悪になるぞ。
村の人達は基本的に優しいけれど、森と人族の間に平和条約が出来たのは30年前だ。
人族と戦った経験のある人の中には未だに人族が嫌いな人もいる。
それは仕方のないことだと思う。
彼はそういう人の息子だ。
「仕事あるんで」
嫌な奴は相手しないに限る。
向こうも私が嫌いなくせにどうして絡んで来るのだろうか。
「グレゴはお人好しだな。魔獣が出ても魔法も使えない、留守も任せられない奴を雇ってやるなんて」
人族が嫌いな彼の父親も私を見ると苦い顔をするが、面と向かって皮肉を言って来たりはしない。
これは彼の人間性の問題だと思う。
「弱い猿だから仕方なく村に置いてやってるだけだぞ。調子に乗るなよ」
くっそーーっ!事実だけどなぁーーっ!!
私は雪で滑るのも構わず走ってその場を後にした。
うわーん!悔しいっ!!
腹立つよー!あの男ーっ!!
ピッチフォークを干し草にざくざく突き刺す。
猿とか単純な悪口ならまだいい。
言われたことが事実なのがとても痛くて辛い。
私が掃除番じゃ羊を守れないからグレゴさんが休めないのは事実だし、羊だってまだ私の言うことは聞いてくれない。
オリヴァーさん宅の居候だし、人族の街まで行ける程の強さもない。たぶん途中で魔物に遭遇したらやられてしまう。
だからってお前に言われたくないんじゃーーっ!!
知ってるわぁああーーっ!!
苛立ちながら掃除をしていると、背後に羊の気配。
ばっと振り返ると私に頭突きをしようとした羊が何事もなかったような顔をして目を逸らした。
「ふふっ」
最近は君達の気配と表情、少しわかるようになって来たよ。なんかちょっと人間くさいとこあるよね。
「リーダー、朝から疲れたよ……背中貸して」
近くにいたリーダーの背にぽすっと顔を埋める。
この子は基本無視するけど攻撃はして来ないんだよね。
あったかくて柔らかい。臭くないのが不思議。
香ばしいような、なんとも落ち着く匂いがする。
あぁ、癒される……。
「……仲良くしてるとこ悪いが、ちょっといいか」
リーダーのもこもこを暫し堪能していると、グレゴさんの声がした。
いつの間に来てたんですか。
畜舎の外にあるベンチに2人で座ると革製のウエストバッグを私に見せた。
中には卓球ボールサイズの赤い石と白い石がいくつも入っている。
「これな、爆発タイプと電撃タイプの魔力石なんだ。赤目熊くらいならこれ何個かで撃退出来るはずだ」
はっとして顔を上げると、優しいまなざしでグレゴさんが言う。
「ミオリが仕事続けられるように考えた結果だ」
胸がいっぱいになって、目頭が熱くなる。
「羊を守れないの気にしてただろう?これがあればミオリでも守れるぞ」
咄嗟に下を向いて泣きそうな顔を隠したけれど、涙が膝にぽろぽろ落ちて行くからばればれだ。
ちゃんと返事しなきゃ。
酷い顔をしてると思うけど、袖で顔を拭ってからちゃんと目を見て言おう。
「……頑張ります!」
「よし、その意気だ」
私もグレゴさんのように、出来ないなら出来るようになる方法を考えよう。
どうせスーパーな能力なんて持っていないのだから、ゆっくりでも一歩ずつ進もう。
魔力石は強く握って石が熱くなったら投げ付けるらしい。
うまく投げられるように河原での石投げ、再開するわ!




