小話 アンの休み
「また揚げパン買ったの?どんだけ気に行ってんのよ」
「うっせえ」
「どうせ可愛い子が売ってるとかそんなんでしょ」
「……」
「チョロいわねー」
「……」
「こらアン、ヤマトが可哀想だよ。いいじゃない可愛い子目当てに連日揚げパン買っても」
「自分で食べるなら勝手にしたらいいけど私達の分まで買って来るからよ」
「まぁ3日目になると流石に…とは思うけど。ごめんねヤマト、明日はいらないよ。自分のだけにしてね」
「反省しなさいよチョロ男」
「2人共そのくらいにしようか」
無言を通すヤマトを庇うようにルッカが口を挟んだ。
「私は責めてないよ。可愛い子に会いに行くのはヤマトの当然の権利だと思うし」
「そうだね。ただ優しいフォローが余計に心を抉るってこともあるから」
「責めてもフォローしても駄目だなんて難しいチョロ男心なんてわかんないわよね」
「悪かったな!」
ヤマトが不貞腐れて私がルッカに叱られた。
ちょっと納得出来ないわ。同じ物ばっかり買って来るヤマトが悪いのに。
◇◇
昼下がりの街を見ていると、なんだか夢を見ているような気分になる。
どこも明るくて暑くて夏特有の活気があって、少し前まで絶望の中にいたことも夢みたい。
人間って何があっても食べて寝て動いて、そうやって生きていくものなのね。
1人でいると余計なことを考えて気分が湿っぽくなってしまう。
「可愛いねキミ。俺と遊ばない?」
知らない男が声を掛けて来た。普段なら無視して終わりなんだけど、私は今暇なのよ。
「ねぇ、暇なら私に付き合わない?」
「えっまじで?やった!」
◇◇
「ねえ、これ、なにを…してんの……!?」
呼吸を激しく乱した男が聞いて来る。
「何って、運動よ。気分が塞いだ時は身体を動かすのが一番だって仲間が昔言ってたの」
「気分が、塞いでる、なら俺が、慰めるけど!ベッドの、上とかで!」
「そんなゼーゼー言ってる奴に言われてもねぇ」
暇な私は同じく暇そうだった知らない男を引き連れて走っていた。
どこまで付いて来れるかと軽く走り始めたのだけど、なかなか頑張ってるわね。
「ちょっと休憩、しない!?」
「まだまだ」
「俺、今、倒れそう…!」
「軟弱ねー」
ゼーゼー言いながらも必死に走って付いて来た男が哀れになって足を止めた。
日差しも強いし倒れたら危ないものね。
「はい」
近くに水売りがいたので二杯買って片方を男に手渡した。
水売りは水魔法が使える者だけがなれる仕事だ。まぁ飲み物って水だけじゃないからそんなに儲からないけど夏はわりと売れるらしい。
「ありがとう」
「銅貨2枚よ」
「……」
「冗談よ。付き合わせた私が奢るわ」
大人しく財布を出そうとする男に笑った。
「初めて声掛け成功したかと思ったら酷い目に遭わされた……」
「よく付いて来たわよね。大抵の奴は走り出したらすぐ消えるわよ」
「よくやってるのか、こんなこと……」
「最近はなかったけど今日暇だったから」
「弄ばれたのかぁ……」
「誤解を招く言い方やめてよ。いい運動になったでしょ?」
「違う種類の運動がしたかったんだけど」
「あんたの話術じゃ火遊びなんて100年かかっても無理だと思うわ」
「ごりごり心削ってくるねキミ……確かに向いてないけど」
運動後の水が美味しいわ。
すっきりしたしもう帰ろうかな。
「じゃあね」
何故か肩を落としている男に適当に別れを告げて歩き出す。
甘い物を買って帰ったらミオリは喜ぶかしら。
「ただいま!お土産あるわよ」
「おかえり!やったぁ」
笑顔で迎えてくれる人がいるって素敵ね。
天国からこちらは見えるのかな。
ねぇカミラ、ジル。
私ね、まだ生きていけそうよ。
2人がいないことは時々堪らなく寂しいけれど、また仲間だと思える人達に出会えたから。
そっちに行く時はまだ先になると思うけど、お土産話を沢山持って行くから。
また会えたら前みたいに話をしようね。
それまで待っていてね。




