小話 ヤマトの休み
仕事でミオリが怪我をしたので数日街に滞在することになった。
各々好きに過ごそうということなので朝はとりあえず魔法屋に行くことにした。
「ヤマトも今から出掛ける?」
身支度が済んでそろそろ出ようかと思っているとルッカさんが俺に声を掛けた。
「ああ、うん。ルッカさんはミオリといるのか?」
「そのつもり。……あのさ、それいつまで続けるの?」
「どれ?」
「その俺にだけ敬称付ける呼び方」
なんか不満そうな顔で金髪イケメンがこちらを見ている。
「……様の方がいい?」
「どうしてそうなる」
突っ込まれた。いつもミオリやアン相手だと逆の立場だからちょっと楽しい。
「放ってたらそのうち勝手に取るかと思ってたのに頑固に取らないし。距離感じるから敬称いらないんだけど」
「……ルッカ?」
呼び捨てでいいってことか?
俺が試しに呼ぶとルッカさ…ルッカが表情を緩めた。
……女だったら危うくときめくところだぞ。
俺にそっちのけはないからセーフだけど呼び捨てにして嬉しそうにされると悪い気はしない。
ミオリがルッカを可愛いと言う理由が少しわかった気がした。
◇◇
朝の街を歩きながら考え事をしていた。
今回の仕事はちょっと危なかったよなぁ。
襲撃のあった夜、俺も覆面野郎に危うく刺されるところだったし。
ルッカのフォローが無かったら間違いなくやられてたと思う。
びっくりだわ異世界。
盗賊みたいな奴とか殺し屋みたいな奴が普通に存在してんだもんな。
人間に殺されることもあり得るって初めて身をもって知った。
床に倒れたミオリが視界に入った時は酷く心臓に悪かったな。
駆け寄ると浅く苦しそうな呼吸を繰り返していて素人目にも良くない状態だとわかって更に焦った。
骨が折れてたとヴァルドが言っていた。
ヴァルドがいなかったら当分動けなくなってただろうからやばかったんだよな。
「お兄さん、うちの揚げパン買ってかない?」
なんか油の香ばしい匂いがする屋台の前を通りかかった時、同世代の女子に声を掛けられた。
栗色の髪の笑顔が可愛い子だ。
「朝飯食ったから……後で買うわ」
思わずそう言うと、素通りされると思っていたのか一瞬驚いた顔になった後に再び笑った。
「ほんとに?そう言って来ない人多いんだけど」
「今から行く所あるからその後に来るよ」
あっちは営業で声を掛けただけなのだから律儀に応える必要がないのはわかってるけど。
可愛い女の子と少しくらい会話がしたいという至って健全な考えから立ち止まってしまっていた。
これが夜の街でうちの店で飲んで行ってよ、とかなら警戒もしただろうけど勧められているのは揚げパンだし。
「お兄さんは冒険者?だったら買う時オマケするよ」
「なんでだ?」
「前に爺ちゃんの畑に一角猪が来るようになっちゃった時、随分と安い依頼料で助けて貰ったの」
「それ俺じゃないけどな」
「いいの。お世話になったし今後もなるかも知れないから冒険者みんなに少しオマケするようにしてるの」
「そっか。じゃあ俺得したな」
もう少し話そうかと思っていたら「揚げパン頂戴」と他の客がやって来た。
雑談で邪魔しちゃ悪いよな。また後で来よう。
魔法屋には既に知っている魔法以外は高過ぎて買えるものが無かった。
魔法のレベルの問題じゃないのはわかってるんだけどな。
手軽にパワーアップ出来る何かがないかと思ったけどやっぱり無いか。
攻撃も防御も回避もまだまだ未熟なんだよ。
覆面野郎を倒したルッカと騎士のジュストの強さは俺から遥かに遠い。
苦戦したというアンですら俺より強い。
地道に頑張っていくしか無いんだろうな。
魔法屋を出てさっきの屋台に戻ると売り手がおっさんになっていた。
栗色の髪と目元が少し似てるから父親だろうか。
「おっちゃん、さっきの可愛い子は?」
「悪ぃな、弟が熱を出したから帰ったぞ。兄ちゃん冒険者だろ?オマケしろって言われてるから一個付けといてやるよ。何個だ?」
「……5個で」
単純に残念だった。明日も来ようか悩むな。
「まぁまた来てくれや」
揚げパンを受け取るとミオリ達と昼飯を食う為に宿に戻ることにした。
ミオリに振られてからちょっと経ったけど吹っ切れたのか未だによく分からないんだよな。
うん、可愛い女子とは喋りたい。
けどアンはちょっと違う。
あいつは思ったことをガンガン言って来るのでメンタルやられることがある。
もうちょっと癒し系が好みだと思う。
ミオリは今もなんか大事だ。
もう恋愛かどうかはよくわからなくなったけど、あんな風に倒れてるところを見るのは本気で嫌だ。
たぶんアンでもルッカでもヴァルドでも嫌だけど。
守れるようにとはまだ言えないけど、足手纏いにならない程度には腕を上げたいなと思う。




