小話 休みの日
今日から4日間は休養日だ。
私の怪我のこともあるし、たまには各々自由に過ごそうという事になったのだ。
「怪我が治ったらミオリの食べたい物食べに行こうか」
「よし!さくっと治すから回復呪文お願いします!」
囮作戦の仕事を無事に終え、報酬を受け取ると財布に余裕が出来た。
懐が暖かいって素敵。いや普段貧乏ってわけでは無いんだけどね。
あんまり贅沢は出来ないかなーってだけで。
初日は宿で大人しく過ごすことになった。
骨はヴァルドが治してくれたらしいし、後は打撲で傷めた筋肉とか脂肪の部分だけかな。
美味しい肉食べたいなー。
「ルッカは出掛けないの?武器屋とか鍛冶屋とか見て来たら?」
「ミオリと行った方が楽しいし、たまには2人で過ごすのも悪くないよ」
微笑んでルッカが顔を寄せて来たので目を閉じてキスをした。
窓の外は太陽が眩しいくらいに晴れている。
アンとヤマトとヴァルドはそれぞれ出掛けて行ったので今日は2人きりだと思っていたら扉を叩く音がした。
「やぁ。お見舞いに来たよー」
ルッカが扉を開けると薔薇の花束を抱えた私服姿のルシアンさんが立っていた。
わりとイケメンなので薔薇が似合っている。
仕事終わったからもう会うことはないと思ってたので少し驚いたな。
「……部屋どうして知ったんですか?」
「宿の女将さんに教えて貰ってね」
女将さんの防犯意識が低いのか、ルシアンさんの話術が巧みなのかどっちだろう。
休みにわざわざお見舞いに来てくれたらしい。
「はい、これ。宿にいる間くらいは見て楽しんで」
オレンジ色の薔薇の花束だ。親切なことに花瓶まで女将さんに借りて来てくれていた。
「わぁ可愛い。ありがとうございます」
「怪我はどう?最初見た時は酷そうだと思ったんだけど」
「連日回復呪文掛けて貰ってるのでもう随分マシですよ」
「それは良かった」
「今日はお休みですか?あ、そこの椅子どうぞ」
立たせたままは申し訳ないので部屋の椅子を勧める。
「すぐ帰るから気にしないで」
ルシアンさんはジュストさんが無事に保護されていた婚約者と再会したことや、誘拐事件を相談しなかったことをマルティナに懇々と説教されていたという話を聞かせてくれた。
マルティナは私が怪我をしたことを聞くと請求するまでもなく報酬を増やしてくれた。
なかなかそんな太っ腹な雇い主っていないと思う。とても有り難いわ。
「数日休んだら街出て行くんだよね?使い終わったら花瓶は女将さんに返しといて」
「お見舞いありがとうございました。元気でいて下さいね」
「うん。君達もね」
別れの挨拶を済ませてルシアンさんは帰って行った。
「いい人だったね。花まで持って来てくれて」
「そうだね。何考えてるのか見えないタイプではあるけど」
ルッカもそう思うんだ。
花を花瓶に活けて部屋の棚に置いて貰うと再び扉を叩く音がした。
「ただいまー。美味しいって噂の店でお昼買って来たわよ」
アンが紙袋を抱えて帰って来た。
袋の中には半円型のピタパンにスライスした野菜とタレに漬け込んで焼いた肉を入れたケバブサンドっぽい物が3つ入っている。
香りが堪らなく美味しそう。
「うわぁ美味しそう!」
「そうでしょ。ちょっと並んだのよ」
「ありがとう!アン大好き!」
「良い子にしてたらまたお土産買って来てあげるわよ」
アンは午前中は露店をうろうろして来たらしい。
3人でケバブサンドを食べているとまた扉を叩く音。
「あれ、なんだもう食ってんのか」
ヤマトがアンと同じように紙袋を持って帰って来た。
こちらはピロシキ風の揚げパンらしい。
「ありがとう!美味しそうだね」
「食えるか?無理しなくていいぞ」
「余裕だよ。ルッカもまだ入るよね?」
「うん。まだまだ余裕あるよ」
ケバブサンドだけでルッカは足りるかなと思っていたので丁度いい。
「ヤマトはどこ行ってたの?」
「魔法屋行ってからこれ買いに行ってた」
魔法屋とはその名の通り魔法の呪文を売ってくれるお店だ。
お金と引き換えに魔法を教えて貰えるが、本人に魔力がないと使えないので私のように魔力がない人間には縁のない店である。悲しいわ。
「何か新しいの覚えた?」
「いや、買えるやつは知ってるのしか無かったな」
売っている魔法の種類は店主次第なので店によってレベルが大きく違うらしい。
バケツに水くめますよ、という程度から水辺なら無数の弾丸が撃てるようなものまで様々なものが存在するが、攻撃力の高い魔法はやはり値段もお高いそうだ。
「どのくらい高いの?」
「新車とか買うくらいのイメージだな」
高っ!……そりゃ簡単に買えないな。
「私はコップに水だけでもいいから使えたら良かったなぁ」
「私もそうよ。水を持ち歩く必要がないって本当に便利なんだから」
私とアンに羨ましいと言われてヤマトは苦笑する。
ちなみに森の人の場合はある程度の魔法は周りの大人が子供達に伝えて行くので売ったり買ったりはしないらしい。
4人で賑やかに食事をしていると窓からヴァルドが帰って来た。
麻袋を肩に担いでいる。
「土産だ。食え」
袋の中身は大きな俵型のスイカだった。
4人で食べるには大き過ぎるけれど、ヴァルドも参加するなら余裕だろう。
「どうしたのこれ」
「荷馬車が側溝にはまっているのを助けてやったら貰った」
「人助けして来たんだね」
「居合わせたのは偶然だがな」
ケバブ、ピロシキ、締めにスイカ。
かなり満腹な昼食になった。
出掛けられなくて退屈な日になるかと思ってたけど違ったな。
たぶんこういう何気ないけどみんなで過ごす日が宝物なんだろう。




